【今週はこれを読め! エンタメ編】不穏な青春ミステリー〜浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』

文=松井ゆかり

 最近の若者たちがどのように感じるかはわからないが、私くらいの世代だと"結婚相手との出会いのきっかけはSNS"という事例に対してまだまだ若干の驚きを禁じ得ない。実際私の知り合いなどは、親御さんに対して「ネットで知り合った相手と結婚した"という事実をいまだに伏せたままであるらしい。しかし、これが"SNSで知った作家の本を読む"であれば、もちろん何の引っかかりも感じない。私が『教室が、ひとりになるまで』の著者・浅倉秋成さんを知ったのも、Twitterがきっかけ。しかも、そのTwitterは浅倉さんのおかあさまがつぶやいていらっしゃる(という設定で、浅倉さんご本人が発信しているところの)もの。

 ぜひ「浅倉秋成(の母)」さんのツイートの方もお楽しみいただきたいと長々書いてきたが、小説の方はがらりと趣向の異なる青春ミステリー小説である。物語は冒頭から不穏な気配に満ちている。「一カ月という短い期間で、悲しいことに三人もの生徒が、自ら命を絶ってしまいました」と全校集会の場で語ったのは、私立北楓高校の校長。あちこちで嗚咽が聞こえる中、2年A組の垣内友弘はその沈痛な空気からは距離を置いていた。放課後、帰ろうとした垣内は、担任の河村に呼び止められる。3人目の自殺者が出た後ずっと休んでいる、クラスメイトで垣内の幼なじみでもある白瀬美月の様子を見てきてくれないかと言うのだ。気乗りはしなかったものの、自宅マンションの隣室である美月の家を訪れる垣内。久しぶりに顔を合わせた美月はしかし、驚くべき事実を垣内に告げるのだった...。

 亡くなった生徒は、2年B組の小早川燈花、A組の村嶋竜也と高井健友。彼らは自殺ではなく誰かに殺された、しかも死神の操る特殊能力によって。初めはどこまで信じていいものか迷いがあった垣内だったが、自分宛に送られてきた手紙に書かれていた内容を裏付ける事件が起こり、考えを変える。北楓高校には常に4人の特殊能力を持つ《受取人》と呼ばれる生徒がおり、彼らが持つ能力はそれぞれ別の種類のものだという。《受取人》の力は、学校の中でしか使えず、自分の能力の詳細やどのような条件が揃えば発揮することができるのかを他人に知られたら失効してしまう。また、自分が卒業するときには次の人材を選出し、その能力を引き継がなければならない。卒業シーズンからはずれた時期の指名の理由は、もともと《受取人》だった生徒が亡くなってしまったため。前任者を選んだ卒業生が書いたとされる手紙によると、彼or彼女が在校生名簿から無作為に指名したのが垣内だったと説明されている。

 突然与えられた能力にとまどいながらも、一連の事件について調べ始める垣内。そこに第二の《受取人》や犯人と目される生徒が絡み、推理は行ったり来たりしつつも徐々に彼は真相に近づいていく。スクールカーストを題材にした作品には読んでいて胸をふさがれるものが多く、本書においてもそれは同様である(私自身、同調圧力的なものに反発を覚えつつも孤立して好きに振る舞うほどの度胸もなく、学生時代はずっと息苦しさを感じ続けていたので)。が、上位グループに属するメンバーからの視点も導入されているのが新しく感じられ、これはこれで説得力を持つ考え方ではあると納得させられた。手放しで後味がよいと感じられる性質の物語ではないが、一抹の希望が残されていることに安堵する。

 不勉強なことに私は本書が初浅倉作品だったのだが、2012年に第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビューされた著者は、「伏線の魔術師」との異名をとるほどの実力派とのこと(ミステリーとしての完成度も高い作品であることは、本書にもバリバリに当てはまる)。おかあさまもさぞご自慢でしょう、ツイートが捗ればTwitterのファンもうれしい限りです(息子さんのリア充に対する姿勢にも共感しています。あの人ら、ほんと鼻持ちならないですよね)。

(松井ゆかり)

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