【今週はこれを読め! エンタメ編】個性がまぶしい女子寮小説『お庭番デイズ』が楽しい!

文=松井ゆかり

  • お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記 上
  • 『お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記 上』
    有沢 佳映
    講談社
    1,650円(税込)
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 世界には不確定要素が多すぎる、とつくづく思う。例えば、今年の初めにはコロナがここまで蔓延すると予測していた人はほとんどいなかっただろうし、地震や台風といったものの発生もコントロールすることはできないし。そんな世の中だけど、ひとつ断言できることを見つけた。それは、「今年は中・高女子寮小説の当たり年」だということ。といっても、いまのところ私の知る限り、本書と『金木犀とメテオラ』(安壇美緒/集英社)の2冊だけなんだけど(もし「今年、他にもこんな女子寮小説が出てるよ」とご存じの読者の方がいらしたら、ぜひ教えてください)。でも、例年だったらほぼ0なんだから、やっぱり今年はすごい。

 『お庭番デイズ』の素晴らしさは、本を開いてすぐの段階でわかる。というのも、登場人物たちの名前・呼び名・学年・部屋割り・特記事項などのリストが載っているから。これを見てわくわくしなかったら、女子寮小説好きは名乗れない。主人公・戸田明日海(とだあすみ)のリストの項目を見てみると、

・部屋番号101
・1年5組
・呼び名はアス
・お調子者の太鼓持ち

と書かれてる。同室の生徒は、

藤枝侑名(ふじえだゆきな)
・1年2組
・呼び名は侑名
・美少女だけど中身は小学生男子・成績良い

宮本恭緒(みやもとたかお)
・1年7組
・呼び名は恭緒
・ボーイッシュだけどおとなしい

の2人。この3人が、全編を通じての中心人物。

 ところで、「お庭番」とは何なのか。これって、時代劇で耳にするような言葉だろう。そこで先輩たちの説明をまとめると、

通学生と寮生の違いは、学園に住んでいること(通学に時間を取られずにすむし、学校生活に慣れるのも早い。クラスや部活の枠を超えた交友関係の広がりもある)

そのため、寮生たち全員で協力して、学園と生徒のために知力や体力や精神力を提供することが必要になってくる(女子寮の入り口にある石碑に彫られた「ピープル・ヘルプ・ザ・ピープル」の言葉の通りに)

そこで、寮長・副寮長はもちろん、「お庭番」という役職も重要となる

 ??? はい、これだけじゃまだちょっとわからない。お庭番とはすなわち偵察隊。人助けをするにあたって問題解決をはかるための情報を収集する役目だ。これまでは3年生のユイユイ先輩・しおりん先輩・マナティ先輩(通称三バカ)が担当していたお庭番を、アスたち101号室の3人に引き継いでもらいたいという話になっちゃって...!

 そこからいろいろあって、アスたちが正式にお庭番に任命されるまでが一章。二章からはいよいよお庭番としての活躍がスタート。まあ学校の中でのトラブルだから警察沙汰みたいなことにはならないにしても(コナンくんとかの場合は殺人事件すら日常茶飯事レベルだけども)、当事者にとってはやっぱり苦痛だ。そんなときに、お庭番が親身になって話を聞いてくれるのって、なかなかうまくできた制度。

 そう、話を聞いてもらえるというのが、ほんとありがたいんだな。氷室冴子先生が書かれた『クララ白書』の頃から私がずっと寮生活に憧れてきたのって、自宅通学生には味わうことのできない連帯感みたいなものが存在しているんじゃないかと期待しちゃうからなんだよね。実際にはケンカや仲違いなんかもあると思うんだけど(実際201号室の1年生・杏奈と珠理の関係は、かなり険悪だったりする)、そういったものを凌駕する親愛の情が存在すると信じたい。

 実際、寮のメンバーは信じられないほどいい子たちばかり(杏奈や珠理や、失言の多いオフ子先輩ですら)。自分が中高生の頃に、こんなに周りの人たちのことを考えて行動できたっけ? 101号室の3人を筆頭に、キャラ萌え小説といってもいいくらいにそれぞれの個性がまぶしい。いや、これ4話で終わりとかないですよね? まだまだまだまだ彼女らの物語が読みたい。あ、ちなみに男子寮もあります。女子寮より圧倒的に小規模集団なんだけど、彼らは彼らでユニーク。

 著者の有沢佳映さんは、『アナザー修学旅行』で第50回講談社児童文学新人賞を受賞。児童文学の書き手として注目の作家ということで、根強いファンのみなさんは7年ぶりの新作である『お庭番』を心待ちにされていた模様。もう、なんでこんなすごい方に今まで気づいてなかったんだ、自分。これから過去作のおさらいと、新作待ちするぞー!

(松井ゆかり)

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