【今週はこれを読め! コミック編】地図を作り、世界を照らす〜パミラ『白地図のライゼンデ』

文=田中香織

  • 白地図のライゼンデ(1) (ヤンマガKCスペシャル)
  • 『白地図のライゼンデ(1) (ヤンマガKCスペシャル)』
    パミラ
    講談社
    726円(税込)
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開拓者の青年・ザバは、仲間と共に向かった調査地で、獣人の少女・リタを保護する。彼らが出会ったのは、「未測定領域」と呼ばれる危険地帯。本来であれば同行者や武器を用意して向かうべき場所だが、リタは貴族の指示により、たった一人で送り出されたという。彼女が受けていた命令とは、はたして──。

「名づけ」という行為が万物を確かに「在る」ものとするように、この世界では「地図を作ること」が特別な力を持つ。なぜなら、地図にない場所からは魔物が生まれ、人間を襲う。そのため人々は何世紀にもわたり、測量士による地図の作成をもって魔物と対峙してきた。地図とはその土地の安全を保障する証であり、「未測定領域」を減らすことは、人々の暮らしを維持するために欠かせない手段でもあった。

さて、リタと話をするうち、ザバは二つの事実に気づく。一つはリタが貴族に所有された奴隷であり、逃げられない状態にあること。もう一つは彼女が天才的な測量士であり、一人でも「未測定領域」に踏み込めるだけの力を持っていることだった。

開拓者は測量士を導き、できあがった地図は世界を照らす。美しく緻密な地図を作ることができるリタは、誰よりも世界を広げることができる。もしもリタが旅の友となれば、その同行者は限りなく、どこへでも行けるだろう。しかし奴隷である限り、彼女は自分の行きたい場所へ行くことすらかなわない──リタの才能と苦境を見抜いたザバは、彼女を所有する貴族に直談判を試みる。それは、ザバ自身の夢を叶えるためでもあった。

著者は2022年1月に発表された第85回ちばてつや賞にて、ヤング部門の優秀新人賞を受賞した。その後、初連載となった本作は、2022年11月14日発売の『週刊ヤングマガジン』にて始まった。受賞から連載までの期間はわずか10か月で、著者の実力と編集部の期待とがうかがえる。

ちなみに1巻では、まだまだ謎が多い。なぜリタは奴隷とされていたのか。人間と獣人、貴族と開拓者の関係や、登場人物たちの過去。そして、200年前に滅んだとされる魔術師たちの王国「廃都アムステルム」の全容など、気になるポイントは山ほどある。それらがどう繋がり解明されていくのか、今はまだ見当がつかない。

タイトルにある「ライゼンデ」は、ドイツ語で「旅行者」の意だという。ザバとリタの旅は、どんな世界を照らし、どんな地図へと結実するのだろう。謎は謎としてすべて抱えたまま、これからの展開を楽しみに待っている。

(田中香織)

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