第89回:平山夢明さん

作家の読書道 第89回:平山夢明さん

夜眠れなくなるくらい怖い話、気持ち悪くなるほどグロテスクな話を書く作家、といったら真っ先に名前が挙がる平山夢明さん。ご自身も、幼少時代に相当な体験をされていることが判明。そんな平山さんが好んで読む作品はやはり、何か同じ匂いが感じられるものばかり。そのキテレツな体験の数々を、読書歴に沿ってお話してくださった平山さん、気さくな喋り口調もできるだけそのまま再現してあるので、合わせてお楽しみあれ。

その2「海外の異色作家にハマる」 (2/6)

セメント樽の中の手紙 (角川文庫)
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葉山 嘉樹
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『激突! (ハヤカワ文庫 NV 37)』
リチャード・マシスン
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―― あ、あの、当時、本は好きだったんでしょうか。

平山 : 漫画が最初で、その後本も読むようになったかな。近所に本屋さんがあって、何時間立ち読みしても文句を言わなかったの。そこが図書館だったんだよね。漫画がずらりと並んであって、小説はおつまみ程度にしかない。それで、遊んでいない時はずっとそこで漫画ばっかり読んでた、バカみたいに。漫画を読んでいたらいきなり手が熱くなって、みたら隣で立ち読みしているおじさんがタバコを吸っていたんだよね。オレの手を灰皿がわりにしたみたいなんだよ。まあビックリはしたかな。おじさんはたいして悪そうにもしていなかったなあ。

――子供の手にタバコを押しつけることも驚きですが、そもそも本屋でタバコ吸っているということがおかしいです。

平山 : 昔はそういう感じだったんだよ。で、小説は何を読んできたかというと、『蜘蛛男』が小学校3年生の時でしょう。それから記憶にあるっていったら、教科書に載っているやつかな。葉山嘉樹の『セメント樽の中の手紙』とか、夏目漱石の『夢十夜』とか。その後、中学の時にスピルバーグの『激突!』を見て、リチャード・マシスンの原作を読んで衝撃を受けて、そこから早川の異色作家短篇集にハマったんだよ。ヘンなことを考えている人っていっぱいいるなあ、って。学校の図書室か、近所の図書館で借りて読んだんだと思う。

――ああ、そのシリーズにはマシスンの『13のショック』もありますよね。

平山 : その中の「長距離電話」っていうのがいいんだよね。

――本はどんな風に選んできましたか。

平山 : 10代の頃は雑食で、系統だって読むよりも、脊髄反射みたいに、刺激がありそうだと読む、みたいな。で、そうするとあんまり売れている本って読めなくなっちゃうんだよね。面白い面白いって言われて読むと、すごく期待しちゃっているから、たいていダメ。だから熱がおさまってから読むんです。

竜馬がゆく〈1〉 (文春文庫)
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司馬 遼太郎
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筒井 康隆
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――異色作家系が多かったんでしょうか。

平山 : 高校生の頃は司馬遼太郎とか吉川英治とか、時代小説も読んでた。あの年頃の男の子は結構読むんだよね。『竜馬がゆく』を読んで、オレも風呂に入らなくていいんだ! って思った。あれを読んでオレが学んだのは、それだもん(笑)。腐った泥団子のような匂いがするなお前ら、って勝海舟に言わせたい、オレもそうなりたい、って。それを学んだわけです。

――で、実践したと......?

平山 : してた(笑)。

――うわあ。......そういえば中高生の頃って、例えば筒井康隆ブームがあってクラス中で回し読みするってことはありませんでしたか。

平山 : ああ、すごく影響受けたよね。筒井先生のスラップスティックな方面じゃなくて、ウツっぽいほうが好き。暗いやつ。暗さを楽しんで書いているんじゃなくて、まじめに書いているのもあるの。「佇む人」なんてすごくいい。思想犯が木のように植えられていて、妻が植えられているのを見にいくだけの話。酔っ払いがスカートをいじったりしていて、大丈夫かなんて聞いて、妻もここにいたらあなたもまずいから、なんて言って。あれがぐっとクル。短編なら「母子像」ってみんな言うけれどね。「お助け」もあるけれど、でもそういうのよりも「佇む人」が好き。リアルな怖さがあるもの、オレを怖がらせてくれるものがいいの。

――そういえば、キングやクーンツが出てきませんが、モダンホラーの類のものは。

平山 : キングは『キャリー』とか、昔の新潮文庫は読んでいたね。あとは扶桑社文庫の短編集。クライヴ・バーカーの『血の本』とかは読んでたよ。

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