第101回:円城塔さん

作家の読書道 第101回:円城塔さん

もはやジャンル分け不能、理数系的で純文学的でエンタメ的でもある、さまざまな仕掛けをもった作風で毎回読者を驚かせる作家、円城塔さん。物理を研究していた青年が、作家を志すきっかけは何だったのか? 素直に「好き」と言える作家といえば誰なのか? 少年時代からの変遷を含めて、たっぷりお話してくださいました。

その7「場所を変えながら小説を書く」 (7/8)

――さて、専業になってからの日々のサイクルは。

円城:それが問題なんです(笑)。僕はそんな風に書き始めたせいで、2時間セットで書くのがやりやすいんですね。一日に3回とれれば理想的なんですが、まったくそんなことはできず。朝2時間、昼ごはんを食べて2時間、夕方に2時間とれば問題はないはずなのに、なんででしょう、寝てしまいますね。

――用事が入ってしまうといった問題ではなくて、睡魔の問題ですか。

円城:前日の飲み会のせいでとか(笑)。朝はやく起きたいんですけれど。10時くらいに起きると今日は負けた、と思います。本当は5時くらいに起きられたらいいんですが。

――それはまた、ずいぶん早いですね。

円城:僕は家で仕事をできないんです。喫茶店とかじゃないと書けない。家にいると寝てしまいますから。でも6時に起きて7時に出ると、実態としてはただの無職の男なのになんで満員電車に乗らないといけないのか、と思ってしまう。

――家の近所の喫茶店ではなくて、電車で出かけるのですか。

円城:家の近所をうろついているとただの不審者に思われるじゃないですか。30後半の男が真昼間から喫茶店にいて近所の噂になるのも嫌ですし。そこでいい小説を書いていればまだいいんですけど、近所の人に挨拶するときに、こういうものを書いています『食堂かたつむり』ですと言って渡せたら(笑)。いや、『食堂かたつむり』がどうということではないんですが。僕が書いているものを渡したら「あーやっぱり困った人だったんだ、あのおじさんとは話さないようにしないと」となる。なので、人ごみにまぎれて生きていくことにしました。基本的には渋谷にずっといます。それで、2時間ごとに動き回って、場所を変えます。

――渋谷の喫茶店で、集中できますか。

円城:ああ、隣で別れ話とか始まるとそっちのほうが面白くなりますね。マルチ商法やっているお兄ちゃんとか、あとは山形から出てきてどうしてもキャバクラのスカウトになりたいから親を説得しに帰ります、という青年もいました。キャバクラ経営者が寮を借りていて、一人一部屋のつもりが二人で住んでしまったといって延々と説教もしてましたね。一人ずつだと家賃も倍とれるのに、ということなんでしょうけれど。喫茶店は謎ですね。でもそれが作風に活かせるかといったら、まったく活かせないんですけれど。

――本を読む時間は。

円城:喫茶店にいると、書く以外にすることもないので、やはり本を読みますね。結局、翻訳系が多い。多少、知り合う方も増えて来たので、日本人の小説は更に読みにくく。知ってる人の書いたものって読みづらいですよね。

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