第133回:加藤千恵さん

作家の読書道 第133回:加藤千恵さん

高校生の頃に歌人としてデビュー、最近では瑞々しい筆致で描きだす恋愛小説でも人気を博している加藤千恵さん。北海道で生まれ育った少女が短歌と出会ったきっかけは、そしてデビューするきっかけは? あの甘く切ないシーンを繊細に切り取る感性の源泉にあるものは? 納得の読書遍歴が浮かびあがります。

その5「短歌への思い、小説への挑戦」 (5/5)

真夜中の果物(フルーツ) (幻冬舎文庫)
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加藤 千恵
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ハニー ビター ハニー (集英社文庫)
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加藤 千恵
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その桃は、桃の味しかしない
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あとは泣くだけ
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映画じゃない日々 (祥伝社文庫)
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――加藤さんの最初の小説集は『真夜中の果物』になりますよね。

加藤:そうです。大学4年の時に出したショートストーリー集の『ゆるいカーブ』を、文庫化の時に『真夜中の果物(フルーツ)』と改題しています。その次が、ケータイサイトで連載していた短編を1冊にした『ハニー ビター ハニー』になりますね。

――恋愛短編集の「ハニビタ」を読んだ時、シーンや感情の切り取り方、描き方が本当にうまいなあと思いました。甘酸っぱさと切なさが、もう。

加藤:自分の根底にあるのはやっぱり少女漫画なんですよね(笑)。

――短歌と短編を組み合わせるといった、加藤さんならではの作品づくりもされていますし、その後『その桃は、桃の味しかしない』などで本格的に長編に取り組んだりと、いろいろ表現の幅を広げているなと感じます。

加藤:小説と組み合わせる時、短歌は飛び道具的に使っているところもあります。短編の最後に短歌を入れると締まってくれるというか。短歌を広めたいというと大げさになりますが、意外と面白いんだなということを、同世代や下の世代の人が感じるきっかけになったらいいなあと思っているんです。あとはいろいろ書けるようになりたいので、苦手なこともやるようにしているんです。長編もやっぱり書けるようになりたいし、新刊の『あとは泣くだけ』のなかの短編では苦手だった暴力の描写に挑戦しました。最近出た『野性時代』でも官能小説を書いたんですけれど、それも苦手だったんですけれど頑張りました。といっても官能要素は薄めかもしれませんが。

――新刊の『あとは泣くだけ』は短編集ですが、どの話にも「人から贈られたもの」がモチーフとして登場します。そういえば「ハニビタ」の時も、どの短編にも甘いお菓子が必ず登場しましたよね。

加藤:何かしばりがあったほうが書きやすいんです。何でも書いていいよと言われると逆に困ってしまう。短歌も五七五七七という制約があるから自由に書けるという気がします。

――『あとは泣くだけ』に出てくるのは母親からの呪縛に悩む女性やヒモのような生活を続ける男、かつて恋人に暴力を振るわれた女性、悪い噂のある同級生の女の子と仲良くなった女子高生などなど...。適度に抑えた描写で深い余韻を残す話ばかりです。読み手自身の"かつて大切だった人"の記憶をくすぐりますね。

加藤:こう書こうと決めているわけではないんですが、人から言われて気づいたのは、私は余白や行間を書きたいんだな、ということ。確かにそういう部分はあるかもしれません。でもそれは情景描写が下手で書けないからかも。柴崎友香さんの小説が大好きなんですが、あんな風に目に見える情景を細かく描写できるのは、本当に素晴らしいしすごいことだなと思います。

――加藤さんの本のカバーは人気漫画家さんのイラストが多いですね。『あとは泣くだけ』も、いくえみ綾さんですし。

加藤:もう、好きだから、というだけでお願いしているんです。『映画じゃない日々』は高校時代から好きだったかわかみじゅんこさんに描いていただけたし、『ハニー ビター ハニー』はおかざき真里さんだし、夢のようです。やっぱり東京はすごい(笑)。もちろん、表紙を漫画家さんの絵に限定しているわけじゃないです。

――そうですよね。『その桃は、桃の味しかしない』の表紙の網中いづるさんの絵はとても美しい色合いでしたね。

加藤:そうなんです。本当に素敵だったので原画を買っちゃいました。2月13日に出る新刊『卒業するわたしたち』の表紙は、宮尾和孝さんに描いてもらうんです。よく中村航さんの作品の表紙を描かれている方です。これは小説一編に短歌一首を合わせたものが、十三ほど入っている短編集となっています。

(了)