
作家の読書道 第140回:長岡弘樹さん
日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した「傍聞き」を表題作として文庫作品が大ヒット、警察学校を舞台にした新作『教場』も話題となっている長岡弘樹さん。日常の延長にある犯罪や人間模様、人々の心理を丁寧に描き出す作家は、いつどのような本に出合ってきたのだろう? 読書遍歴をうかがううちに、意外な記録癖も披露してくださることに…。
その2「読書に目覚めた学生時代」 (2/5)
- 『世界の歴史〈1〉人類の起原と古代オリエント (中公文庫)』
- 大貫 良夫,渡辺 和子,屋形 禎亮,前川 和也
- 中央公論新社
- 2,057円(税込)
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- 『新装版 カディスの赤い星(上) (講談社文庫)』
- 逢坂 剛
- 講談社
- 771円(税込)
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- 『山猫の夏 【新装版】 (講談社文庫)』
- 船戸 与一
- 講談社
- 1,018円(税込)
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- 『決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)』
- アーサー・C. クラーク
- 早川書房
- 864円(税込)
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――では、高校時代はもっぱら映画に夢中だったのですか。
長岡:そうですね。高校でも卓球部に入ったのですが途中で辞めて映画ばかり観ていました。本はほとんど読みませんでしたね。読んだといえば......(傍らの開いたノートパソコンを操作して眺めながら)『大学合格のための26プラス1か条』という本が1冊だけポコンと載ってますね。何か役に立ったんでしょうね...。
――それはもしかして、これまでに読んできた本をリストアップしたファイルなのですか。
長岡:はい。記憶にある限りのものなので、抜けているものもありますが。本も家に置ききれなくなった本や、モノとして持っていなくていいと思ったものは裁断して自炊して電子書籍にしてとってありますよ。
――えっ、1冊1冊すべて!?
長岡:はい、基本的には。今書棚に6000冊くらい本があるんですが、そこがあふれたので裁断して自炊したものが1000冊くらいあるのかな。モノが捨てられない性格なんですよ。なので捨てる前に電子書籍にしてとっておくようにします。本だけでなくて、どうでもいいゴミみたいなものでも1回写真に撮ってから捨てるんです。その整理に時間をとられたりして......あ、そんなことしてないで原稿書けって声が聞こえてきそうですね......。
――いやあ、大変な作業ですよ。それにしても、高校生までほとんど本を読まなかったのに今蔵書が7000冊ほどあるということは、その後読書生活に変化があったということですよね。
長岡:転機は大学の頃なんです。貧乏学生ですることがなかったんですよ。筑波大学だったので、近くに遊ぶところもなかった。やることとしたら読書しかなかったんですよね。それで本を読んでみたら、これが面白かったんです。自分でも一応本を読んでこなかったことを反省しまして、最初に手を出したのは中公文庫の『世界の歴史』ですね。旧版で全16巻で、1年生のうちに読破しようと思って10巻で挫折し、そこからぴたっと止まってしまいました。ずっとサスペンド状態というわけですが、まだ諦めておりません(笑)。その後は専攻の本を読もうと思い、有斐閣から出ている民法や刑法の本を固めて読みました。2年くらいまで法律を専攻するつもりだったんです。結局は政治学を選んだんですけれど。そうした本を読んだのが1年生の秋くらいまで。1年の秋に、小説との決定的な出合いを果たすんです。
――その出合いとは。
長岡:逢坂剛さんの『カディスの赤い星』です。僕が読んだのが1987年の秋になりますが、その頃冒険小説がブームになっていたと思うんです。少し前から北上次郎さんが冒険小説が面白いと雑誌に書きはじめて、そのなかでたまたま逢坂さんの本を薦めていたのがきっかけで、暇だった時に読んでみることにしたんです。世の中にこんなに面白いものがあったのかと思いましたね。一気に小説が好きになりました。そこからのスタートでした。船戸与一さんの『山猫の夏』だったと思うんですが、それも紹介されていたので読んだら面白くて。逢坂さん船戸さんあたりから、冒険小説をまとめて読みはじめました。
――どんな部分が心に響いたのでしょうか。
長岡:それまで好きだった映画に通じるものがあったんだと思います。最初から最後まで退屈させないという。お金がなかったので古本ばかり買っていたんですが、そこから松本清張や森村誠一さんの社会派のミステリにも傾倒していきました。あとは小さい頃読んだり観たりしてよく分からなかったものを見返すのも好きでした。小さい頃に上映していた横溝正史の映画の怖いシーンばかりずっと憶えていたので、トラウマを回収するかのように角川文庫の原作を読んで、こういう話だったのか、と理解したり。その結果本格推理小説もすごく好きになりました。洋画も原作を読みましたね。『2001年宇宙の旅』など。
――今パソコンをご覧になりながらお話されていますが、面白かった本には何か印がついていたりするんですか。
長岡:そうですね。学生時代に読んだ本で印がついているのは、他には筒井康隆さんの『俗物図鑑』や『富豪刑事』。船戸与一さんの『猛き箱舟』には三重丸がついています。すごく面白かった、ということですね。
――記録はいつからつけるようになったのですか。
長岡:学生の頃はタイトルと読んだ日付をメモするくらいです。感想などもつけるようになったのは94年、社会人になってからですね。
――学生の頃、自分でも小説を書いてみたいとは思いませんでしたか。
長岡:映画監督に憧れたことなんて忘れて、活字のほうに進みたいとはやくも思い始めていたと思います。1、2年の時は読むのが専門で、大学3年生の時にはじめて書くようになって...。実は、それが活字になっているんです。『小説現代』の星新一さんが選者だった「ショートショート・コンテスト」に応募をしたんですね。それが講談社文庫の『ショートショートの広場』の5巻に載っています。
――いきなり選ばれるなんてすごいではないですか。自分は才能あるな、とは思いませんでした?
長岡:いえいえ、ネタだけの話なんです。あれは小説ではないなと自分では思っていましたから。
- 『俗物図鑑 (新潮文庫)』
- 筒井 康隆
- 新潮社
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- 『富豪刑事 (新潮文庫)』
- 筒井 康隆
- 新潮社
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- 『猛き箱舟〈上〉 (集英社文庫)』
- 船戸 与一
- 集英社
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