
作家の読書道 第140回:長岡弘樹さん
日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した「傍聞き」を表題作として文庫作品が大ヒット、警察学校を舞台にした新作『教場』も話題となっている長岡弘樹さん。日常の延長にある犯罪や人間模様、人々の心理を丁寧に描き出す作家は、いつどのような本に出合ってきたのだろう? 読書遍歴をうかがううちに、意外な記録癖も披露してくださることに…。
その5「警察学校を舞台にした新作『教場』」 (5/5)
- 『教場』
- 長岡 弘樹
- 小学館
- 1,620円(税込)
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- >> エルパカBOOKS
――最新作の『教場』は警察学校が舞台。警察小説はいつか書いてみたいと思っていたのですか。
長岡:いえ、できれば書きたくなかったんです(笑)。「警察小説を書かないか」というお話をいただいたのが2009年。すでに横山秀夫さんが警務部を舞台にした面白い小説を発表していましたし、警察小説の流行にのっかってしまうのも気がひけましたし。まだ誰も書いていないような題材はあるだろうかと考えた時に、警察学校はどうだろう、と思いました。でもまったく知識がなかったので、知人のそのまた知人の警察官に話を聞きにいったり、たくさんの資料をあたったりしました。警察学校そのものを主題にした本が少ないので、警察関連の本のなかから学校に関する記述を拾っていく感じでしたね。
――警察学校の規則や授業内容、教官の態度の厳しさには驚きました。実際に辞めていく学生も多いそうで、人材を育てる場所というだけでなく学生を篩にかけて適性のない人物を落としていく場でもあるのが異質ですよね。生徒が直面するトラブルをさりげなく解決していく白髪の教官、風間公親が渋いです。
長岡:風間は名探偵のイメージなんです。でも、派手に立ち回って謎解きを披露するような探偵ではなく、寡黙な人物にしました。風のように飄々としていて、"気短か"に見えて実は気長に学生たちを見守っている存在です。
- 『STORY BOX 44』
- 飯嶋 和一,柏井 壽,窪 美澄,小森 陽一,翔田 寛,嶽本 野ばら,長岡 弘樹,花村 萬月,はらだ みずき,室積 光
- 小学館
- 514円(税込)
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――どの話も伏線やトリックが巧みで、また、追い詰められた学生たちの心理描写も読み応えがありました。これはぜひ続編も読みたいです。
長岡:担当編集者から書くように言われていて、一応予定もあるのですが...。資料が少なく限られた材料しかないところから作ろうとすると、結局どのエピソードも似てしまうんですよね。もっと取材が必要ですね。本当は警察学校に一度体験入学してみたいんです。
――では、今後の執筆予定といいますと。
長岡:いま小学館の『STORY BOX』で『告発』というミステリを連載していて、これは長編になります。刊行予定でいうと、既に雑誌連載が終了している作品が他にありますので、そちらが先に担当本になると思います。『教場』の続編を書くのは、その先になりますね。
(了)