
作家の読書道 第141回:伊東潤さん
昨今は新作が連続して直木賞にノミネート、今後の歴史小説の担い手として注目される伊東潤さん。歴史解釈と物語性を融合し、歴史モノが苦手な読者でも親しみやすいドラマを生み出すストーリーテラーは、実は長年にわたるIT企業勤務の経歴が。40代になるまで小説家になることなどまったく考えなかったという伊東さん、その読書歴、そして作家になったきっかけとは。
その3「IT企業に勤めていた頃」 (3/5)
- 『武田家滅亡 (角川文庫)』
- 伊東 潤
- 角川書店(角川グループパブリッシング)
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- 『戦国鬼譚 惨 (講談社文庫)』
- 伊東 潤
- 講談社
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- 『薔薇の名前〈上〉』
- ウンベルト エーコ
- 東京創元社
- 2,484円(税込)
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- 『百年の孤独 (Obra de Garc〓a M〓rquez (1967))』
- ガブリエル ガルシア=マルケス
- 新潮社
- 3,024円(税込)
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――ところで、ウィンドサーフィンをしていたということですが、はじめたきっかけは何だったんですか。
伊東:モテたかったからかな(笑)。社会人になってから、そういうことをやらないとモテないぞと言われたんですね。スノーボードも80年代末頃に始めているんですよ。草分けです。ウィンドサーフィンは83年から96年までやっていました。ソウルオリンピックの予選会にも出ましたよ。むちゃくちゃ沖に行ったり、でかい波に乗ったりと、相当無謀なことをやっていました。ウィンドサーフィンをやっていてよかったと思うのは、様々に変わる海の表情を知ったことですね。それが今、役だっています。
――オリンピックの予選に出場するなんてすごいではないですか。目的通りモテましたか。
伊東:僕の失敗は、セイリングそのものにのめりこんで、沖に出て6時間くらい戻ってこなかったりしたこと。その間にもっと下手な奴が女の子を連れてどこかに行ってしまう。夜戻ってきて真っ暗ななかで片付けしている時の辛さといったら(笑)。オリンピックの予選は12人くらいしか出ていないので、8位なんてたいしたことないんです。ほかにも多くの大会で入賞したりもしたんですが、オリンピック予選に出たと言ったほうが通じやすいので、ついそちらを言ってしまうんです。でも、実際はショートボードで狂ったように走り、波に乗っていたことの方が思い出深いですね。「常に誰よりもクレイジーでいること」これが僕のモットーです。そういうエピキュリアンなエクストリーマーが、地道な調査を必要とする歴史小説を書いているのですから、人間というのは面白いものです。
――IT企業にお勤めされていたんですよね。営業成績がとてもよかったそうですが。
伊東:IBMで営業をしていました。悪い人間だったんですよ、口八丁手八丁で。死んだ猫でも売ってくると言われました。でもまあ、営業成績を今更自慢しても仕方ないですからね。いい時もあれば悪い時もあったという感じですね。まあ、総体的には、そつなくやっていましたよ。
――小説や音楽の他に影響を受けたものはありますか。
伊東:音楽の影響は強いですね。レッド・ツェッペリンの「アキレス・ラストスタンド」という曲は畳み掛けるようなリフが凄まじい曲で、それを聴いてイメージが湧いたから『武田家滅亡』の終盤部分の怒濤の展開が書けたということもあります。また、キング・クリムゾンの「スターレス」という曲の荒涼とした感じがいいなあと思って、そのイメージで『戦国鬼譚 惨』を書きました。聴きながら書くということはないです。聴く時はヘッドホンをして集中して聴きますね。何となく聴いていてイメージが喚起されてきて、「こんな感じで書いたらいいじゃん」と思うことが多々あります。そうすると結構、「こんな感じ」を文章にできるんですよ。
――社会人になってから、本を読む時間はあったのですか。忙しかったのでは。
伊東:それなりに忙しかったですね。海外にも、いろいろ行かせてもらいましたい。ストックホルムに行った時は、「刑事マルティン・ベック」の舞台を見て周ったりね。社会人になってからも海外小説をいろいろ読みました。スティーヴン・キングはほとんど読破したし、クーンツも好きでした。『薔薇の名前』や『百年の孤独』は途中で挫折したことを憶えているんですが、そう考えるとベストセラーやノーベル賞作家の本も手にしていたんですよね。ノンフィクションも読みました。沢木耕太郎さんの『一瞬の夏』なども読みましたし、最近は『キャパの十字架』がよかったですね。感銘を受けた小説は津本陽さんの『深重の海』。そこから『白鯨』や『ロードジム』を読みました。『深重の海』と司馬さんの『箱根の坂』、三島の『憂国』は3大フェイバリット本ですね。『箱根の坂』は20歳の時に読んだので、その後30歳、40歳、50歳で読んでいます。『竜馬がゆく』と同じような読み方ですね。そうすると新しい発見があるんですよ。
――『竜馬がゆく』と『箱根の坂』を10年ごとに読み返すことでの新しい発見とは、自分が年齢を重ねたことで理解が深まるようなものですか。
伊東:そうですね。『竜馬がゆく』は陽の部分、『箱根の坂』は陰というか、抑制の部分になりますね。『竜馬がゆく』を読んでやる気を出し、5年後に『箱根の坂』を読んで人間の深い部分に目を向けていく。そういう読み方を自然にしているように思います。最近は北条早雲の一代記の『黎明に起つ』を書いていたので、自分にとって『箱根の坂』は越えなければならなない作品だという気持ちもありました。
- 『花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)』
- 三島 由紀夫
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- 『竜馬がゆく〈1〉 (文春文庫)』
- 司馬 遼太郎
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- 『黎明に起つ』
- 伊東 潤
- NHK出版
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