
作家の読書道 第149回:千早茜さん
小説すばる新人賞受賞のデビュー作『魚神』で泉鏡花賞を受賞。当初からその実力を高く評価されてきた千早茜さん。小学生時代の大半をアフリカのザンビアで過ごし、高校時代の頃は学校よりも図書館で過ごす時間が長かったという彼女。その時々でどんな本との出合があったのでしょう? デビューの経緯や、最新刊『男ともだち』のお話も。
その4「新作『男ともだち』での新たな試み」 (4/4)
- 『男ともだち』
- 千早 茜
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- 『別冊 文藝春秋 2014年 07月号 [雑誌]』
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――千早さんは文章の好き嫌いがはっきりしていますよね。
千早:はい。頭がガチガチなんです。「コンビニ」とかは仕方ないけれど、なるべくカタカナは使いたくないし、地名などの固有名詞も使いたくない。普遍性を持たせたいんです。例えば「ヴィヴィアン・ウエストウッドを着ている女の子はこんな感じ」という既存のイメージに頼って書くと、その時代や若い世代にしか通用しない小説になってしまう。なるべくスラングや固有名詞を使わずに、いつ読んでも「ここではないけれどどこかにはある」と思えるものを書きたいんです。でも、今はその楔から一歩一歩離れていっているところで、新しい小説である『男ともだち』では京都を舞台にしています。
――なぜ『男ともだち』はあえて自分が住んでいる町を舞台に選んだのですか。
千早:今回はいったん区切りをつけようかなと思いました。自分に近いものは書かない、ということと、固有名詞は書かない、というルールを外して、できることを増やそうと思いました。今までアフリカのことも書いてきませんでしたが、今『別冊文藝春秋』では帰国子女の話を書いています。
――29歳、京都在住のイラストレーターの神名は仕事に追われる日々を送っている。同棲している男性がいる一方、妻のいる医師ともつきあっている。そこに、大学生の頃からの"男ともだち"ハセオが久々に連絡をしてきます。ハセオとは一度も男女の関係になったことはないけれど、二人の間には不思議な絆がありますね。
千早:最初はお仕事小説を書かないか、という依頼だったんです。その編集者が女性だったこともあり、ガールズトークのように「仕事をする時にこういう彼氏がいたら困るよね」とか「弱音は男友達に言うよね」という話をしているうちに、こういう話になりました(笑)。連載してはじめの頃は、神名は奔放なところがあるので共感されないだろうと思って心配だったんです。でも、最後まで読んだ時に、この子はこういう子でこうしか生きられないんだって理解してもらえたら、と思って。長編を書くのは久々だったのですが、長編だからこそそういうことができると思いました。
――同棲している彰人、愛人の真司、友達のハセオはそれぞれどういうイメージですか?
千早:彰人くんは、今時の若い人。一見いい人なんだけれども実はすごく冷たい。読んだ人に訊くと、3人のなかでいちばん人気がないですね(笑)。真司さんは偏差値の高い"俺様"な男。でも憎めない。こういう人なんだと思えば、御しやすかったりもする。ハセオはもう、書いたまんまです。出し切った感があります。書き終えて、いい子を産んだなって感覚があります(笑)。神名とどうなるのか、自分でも分からないままに書き進めて、結局ああなりました。
――京都を舞台に同世代の主人公の話を書いてみて、いかがでしたか。
千早:知らない人が読むと、主人公は作者のことだろうと思われるかもしれない、という気持ちはありました。でも小説すばる新人賞の先輩の村山由佳さんに「恐れずにしっかり書きなさい」とアドバイスをいただいて、あえて主人公の職業も、自分と同じ自由業にしたんです。書き上げてみると、神名と私は全然違いましたね。友達からは、私はハセオに似てるって言われるんです。知らん顔しているけれど実は面倒見のいいところとか。そうか、私はみんなの"男ともだち"なんだ!って思っています(笑)。
(了)