
作家の読書道 第177回:竹宮ゆゆこさん
『とらドラ!』『ゴールデンタイム』などのライトノベル作品で人気を集め、5月に〈新潮文庫nex〉から刊行された『砕け散るところを見せてあげる』も大変評判となった竹宮ゆゆこさん。無力ながらも懸命に前に進もうとする若者たちの姿を時にコミカルに、時に切なく描き出す作風は、どんな読書体験から生まれたのでしょう。インタビュー中に、突如気づきを得た様子も含めてお届けします。
その2「少女小説&少女漫画」 (2/6)
――子ども向けの本はあまり読まなかったのでしょうか。
竹宮:小学校低学年くらいから、自分で本を選ぶという意識が芽生えてきました。この時に出合ってはじめて「先が読みたい」という感じになったのが、『おちゃめなふたご』シリーズだったんです。寄宿舎に入る金髪の双子の女の子の話で、もう心躍る設定しかない。それまで読んできた、いわゆる子ども向けの本って、みんないい子で、幼稚園でも先生の言うことを聞いて、という世界観でしたが、『おちゃめなふたご』は結構性格が悪いんですよ。意地悪とかもするし、他の子の悪口とかも言うし、それがすごく面白くて。今でいうスクールカースト的な問題もあったりしました。
――寄宿舎で食べ物持ち寄ってパーティーしたり。
竹宮:そうそう。「オイルサーディンってなんだろう」という。「1シリングって言ってるけれどシリングっていくらなんだろう」とか。分からないけれど素敵に思えるんです。それで、女の子もののストーリーがあるものにハマって、コバルト文庫に行くんです。図書館で、『おちゃめなふたご』のすぐ近くにコバルトのコーナーがあったんですよ。それで、自然にふわーっとそちらに行きました。姉とともにハマった最初の1冊目が、倉本由布の『恋は風いろ 不思議いろ』。これはもう、少女の心を捉えましたね。今となっては細かいストーリーは思い出せないんですけれど、「こんなの読んだことない」って思いました。そこから倉本由布先生はずっと読み続けて、唯川恵さんや山浦弘靖さんを読み。山浦さんはちょっと大人っぽい作風の旅ものを書く人です。それから、『なんて素敵にジャパネスク』。
――氷室冴子さんですね。
竹宮:そうです! それととりかえばやの話の『ざ・ちぇんじ!』。とにかく『なんて素敵にジャパネスク』にハマることで、日本の少女たちの古文の成績はどれだけよくなったかということですよね。
小さい頃は姉が「りぼん」を買い、私が「なかよし」を買っていたんですが、だんだん姉が漫画や本から離れていって「最近『りぼん』が手に入らないぞ」という雰囲気になって。そこから『なんて素敵にジャパネスク』の漫画版が連載されているらしいということで「花とゆめ」に行きました。この時の「花とゆめ」は『僕の地球を守って』や『動物のお医者さん』が連載していたんです。で、川原泉にハマるんです。『笑う大天使』が大好きです。
「花とゆめ」は本当に面白くて、中学生、高校生になっていくにあたり、私の中で少女漫画ブームがありました。だからあんまりこの頃は文学作品を読んでいないですね。漫画ばかりでした。『BANANA FISH』の連載が始まったのもこの頃です。教室中をあの黄色い本が授業中に回されまくっていました。CLAMPもすごく人気がありました。それで、少女漫画をちゃんと勉強しなくちゃ!という気持ちになって、みんなが「いい」という古典的な漫画を読もうと手に取ったのが『日出処の天子』。これは本当に、いまだに眠れない夜に「厩戸皇子はどうすればよかったんだろう」と考えます。
他は『ベルサイユのばら』とか。『ざ・ちぇんじ!』もそうですけれど、男装の麗人ものも大好きでした。『エロイカより愛をこめて』はエーベルバッハ少佐が大好きでした。
――歴史ものがお好きだったんでしょうか。
竹宮:いえ、その当時に「よい」とされていてとりあえず読まなきゃいけないとされていたのが、そうしたものだったんですよね。あとは『オルフェウスの窓』も。外国が舞台のものが多かったですね。
――ところで、部活は何かやっていたんですか。
竹宮:恥ずかしいのであまり言ったことがないんですが、中高時代、創作ダンスをやっていました。私はそれなりに青春を賭けてやっていたんですけれど、でもやっぱり言うのは恥ずかしい。
――なぜ恥ずかしいんでしょう。竹宮さんだったら文化系のクラブかなと思ったら、思い切り体を動かすほうだったんですね。
竹宮:側転もできないのに。仲良かった子が入ったからという軽いノリでした。ちゃんとやっていた人たちは本当にすごいので、あんまり自分がやっていたと言えないんです。部活が恥ずかしいというのではなく、自分が恥ずかしいっていう。
そして、高校を卒業するんです。「少佐大好き」とか言いながら、中高一貫の女子校を卒業するわけですよ。そこから毒の時間が始まるわけですよ。