第185回:遠田潤子さん

作家の読書道 第185回:遠田潤子さん

奄美の民話をベースにした深遠なファンタジー『月桃夜』で日本ファンタジー小説大賞を受賞してデビューした遠田潤子さん。その後は人間心理を丁寧に描くミステリー作品を発表、最近は文庫化した『雪の鉄樹』がヒットして話題に。非常に幅広く本を読んできた様子の遠田さん、なかでもお気に入りの作品とは?

その2「中高大学時代にハマった作家」 (2/5)

  • そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
  • 『そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
    アガサ・クリスティー
    早川書房
    821円(税込)
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  • 点と線
  • 『点と線』
    松本 清張
    文藝春秋
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  • 或る「小倉日記」伝 (新潮文庫―傑作短編集)
  • 『或る「小倉日記」伝 (新潮文庫―傑作短編集)』
    松本 清張
    新潮社
    767円(税込)
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――その後も小説は海外ものが多かったのですか。

遠田:高学年くらいになると母が買ってきたミステリーなどを読むようになり、アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』や松本清張の『点と線』などを知りました。クリスティーは『そして誰もいなくなった』を読んで「うわ、すごいわ」と思ってそこから何冊か読んだのですが、それで立ち消えになり、その後は何十年も読まなかったです。それよりは松本清張のほうが面白いなと思って。『点と線』は何度も読みました。東京駅のホームでのトリックがあるんですけれど、東京駅に来るたびに思い出していました。テレビで映画を観るのも好きで、清張の『砂の器』が面白かったので図書館で原作を借りて読み「ああ、映画と小説ってこんなに違うんだ」とショックを受けたのを憶えています。清張作品で一番好きなのは『或る「小倉日記」伝』です。
その頃、松本清張と並行して、星新一のショートショートにすごくハマりました。星新一繋がりで筒井康隆さんにハマりまして、そこから中学、高校くらいまでひたすら筒井さん、筒井さん、という感じでした。

――幅広く書かれている方ですが、どのあたりの作品が好きだったのですか。

遠田:長篇も短篇もSFもなんでも。全部好きだったんです。やっぱり『家族八景』とか本当に好きでしたし、『宇宙衛星博覧会』のようなえぐい短篇集も好きでした。文章がもう、生理的に気持ちいいんですよね。『笑うな』という短篇集の表題作はお腹が痛くなるくらい笑いました。ギャグとかお笑いとか漫画ではなく、あの短篇を読んだ時が一生でいちばん笑った時です。筒井さんをずっと読んできたので、たいていの表現は平気になりました。自分がどんなことをどう書こうが大したことがないな、と麻痺してしまったところはあります。

――学校の課題図書で芥川龍之介や太宰治なども読まれたと思うのですが、いかがでしたか。

遠田:芥川の短篇はすごく好きでした。「杜子春」や「地獄変」のあたりが非常に面白く感じました。漱石もちょっと手を出してみたんですけれど、中学生で幼かったせいかあまり良さがわからなくて。「これは漱石の名作なんだなあ」と思ってスルーした感じでした。筒井さんのほうがインパクトがあって、面白かったので、いわゆる名作はあまり読んでいません。
筒井さん繋がりでは、どちらかというとSF方面に行きました。半村良さんとか光瀬龍さんとか。高校に入ってもやっぱりずっと筒井さんを読んでいて、その時期になって今度は澁澤龍彦さんにハマって。

――おお、いきなりですね。何かきっかけはあったのでしょうか。

遠田:たぶん、背伸びしたかったんだと思います。当時河出文庫で出ていて手軽に読めたし、おしゃれというか、知的に見えたというか。エッセイも好きでしたが、「ねむり姫」という中篇がすごく好きでした。なんか、エロティックだったんです。直接の描写は何もないんですけれど、そこはかとなく。たとえば姫が眠っていて、犬だか狼だかに両方の手を食いちぎられる描写があって、「これはもしかしたらすごくいやらしいことなんじゃないだろうか」と思っていました。

――読んだ本について、同級生と情報交換したりしていましたか。

遠田:いえ、私は自分の読んだ本を人に話すのが好きじゃなかったというか、自分の中で大事に一人で抱えておきたかったというか。感想文を書けないのと同じで、人に何か薦めたりとか、感想を話したりというのができなかったです。どんなふうに言ったらいいのかわかりませんでした。
そうそう、高校の最後のほうで連城三紀彦さんの短篇を結構読みました。『戻り川心中』あたりが面白かったです。

――部活は何かやっていませんでしたか。

遠田:実は新聞部です。でも1枚ぺらっとした校内新聞を出すだけで、あとは部室をもらえたので、そこで放課後インスタントラーメンを作ってうだうだして(笑)。取材に行くのも「ああ、たるいな」と思いながら。校門の前の食堂に広告をもらいに行ったりとか、体育会の写真を載せたりとか。

――大学に進学されてからはいかがですか。

遠田:第一志望に落ちまして、ドイツ文学科に入ったんです。ドイツ文学が好きとかいうことではなかったんです。でも、読んでみたら面白かったですね。クライストという作家の『ミヒャエル・コールハースの運命』がすごく好きで。あれ、現代に翻案して書いてみたいなと思っているんですけれど。

――理不尽な目に遭い続けて、しまいには...という男の人の話ですよね。

遠田:そうです。馬を奪われて、奥さんを殺されて、で、復讐のために街を焼いたりする話です。ちょっと前にマッツ・ミケルセン主演で映画にもなったんですよ。クライストは他に『チリの地震』という短篇集もあって、それもとても面白かったんです。

――学生時代、ドイツ文学以外に読んだものといえば。

遠田:大学でできた友人が村上龍の大ファンだったんです。で、『コインロッカー・ベイビーズ』をぜひ読めと薦められて読んだら「面白いじゃないか」と。しばらくはそれを読み返していました。

  • チリの地震---クライスト短篇集 (KAWADEルネサンス/河出文庫)
  • 『チリの地震---クライスト短篇集 (KAWADEルネサンス/河出文庫)』
    H・V・クライスト
    河出書房新社
    864円(税込)
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  • 新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)
  • 『新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)』
    村上 龍
    講談社
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