『ぼくはこうやって詩を書いてきた 谷川俊太郎、詩と人生を語る』谷川俊太郎 山田馨

●今回の書評担当者●HMV & BOOKS TOKYO 鈴木雅代

  • ぼくはこうやって詩を書いてきた 谷川俊太郎、詩と人生を語る
  • 『ぼくはこうやって詩を書いてきた 谷川俊太郎、詩と人生を語る』
    谷川 俊太郎,山田 馨
    ナナロク社
    3,024円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

 日本で生きていると、自然と谷川さんの詩が日常にあることに気づく。
 これは谷川さんの詩だ、と認識したのはずっと後からだったけれど。

 再放送で『鉄腕アトム』を見て、「空をこえてー ららら 星のかなたー」と覚えようとせずとも歌えたし、小学校二年生では『スイミー』を丸暗記する授業があったし、夜明けの景色とともに淡々と詩が語られるCMに皆がほうっとした記憶がある。

 無意識な出会いを経て、高校生の時に高田渡の『ごあいさつ』を聴き、詩が谷川さんだと知って驚いた。それまで教科書の中の詩のひとだったのに、この『ごあいさつ』はかなりふざけている。(基本的にふざけている人が好きなのだ。)そのあとからは気になって、何冊か詩集を買ったりした。

 私が意識する前からずっと、谷川さんは国民的有名詩人だった。

 詩は知っているけれど、あの詩人・谷川俊太郎にはいつなったんだろう。みんなが好きなのはなぜだろう。その謎を解明すべく、ぶ厚いとびらを開くことにした。 ぎいいいい(重い....なにせ735ページもある)。

 この本は谷川さんと、山田馨さんが、それまでまじめに話し合うことのなかった詩について、ちょっぴりお酒をなめながら、好きなことを言い合って遊ぼうと始めた対談をまとめたもの。

 元編集者としての山田さんが、詩の解釈を谷川さんに話し、創作の裏話や、過去だとしてもこんなに晒してしまっていいのかとどぎまぎする私生活のことまでを親友として引き出し、詩人が詩を書く過程を、一般人がわかり易いことばで紐解いてくれている。終始二人の会話が、

山田 うまいですよー、なんともうまいっ(笑)。
谷川 そりゃー、それでなきゃ金とれませんよー。

 長音符多めのこんな感じのやりとりなので、楽しく気軽に読めてしまう。
 詩人という存在が一般人には遠いので、どうやって詩人となったのか、どうやって仕事を得て食べているのかといった話からとても興味深かった。

 私の勝手なイメージだが、創作が湧いて出たその時その時に書き溜めたものを発表しているのかと思っていたら、そうではなく、注文があってから初めて書くのだということ。「だってオレ、注文なきゃ書くことないんだからさ、別に」。

 詩人というのはどちらかというと負の感情がたまったり、社会の矛盾がそれに向かわせたり、「ぜつぼう」と書いてみたくなったりして、うわーっと創作するものだと思っていた(あくまで勝手なイメージ)。

 小説を読んで、作品と作家の人生を結びつけて読もうとは思わないが、詩人とその人生を結びつけがちなのは、 それまで個人の恨みつらみで書いている人が多かったからだろうか。

「かなしみ」、それから「さみしさ」っていうのが、ポエジーの基本にある、と本人は言い、作品からはそういうものも確かに感じるが、谷川さんからはもっと圧倒的な明るさ、開かれた空間、そして地面ぎりぎりの目線から はるか宇宙からこちらを覗いたような目線までも感じる。

 また驚くべきは、何冊か詩集を読むとわかるが、とにかくその時々で書き方が変化する。長く長く書いたり、できるだけ沈黙に近いものを書きたいと、ことばを最小限にしてみたり、オールひらがな詩や現実の会話を引用したり、モノやモノゴトを完全に定義することに挑戦したり、とにかく固定したスタイルというものを意識的に持とうとしないのだ。手練手管に長けているらしい...。(本人談)

 そして谷川さんのいちばんの魅力はやはり、ことばのリズムや声で発した時の音、ことばの「音」から生まれるユーモアだろう。

『ほかの詩人たちとちょっと違うところは、自分の詩の源が、ことばにはないということ』
『意味なんかなくても楽しけりゃいい、人生は味わって美味しければいいってタイプだから、意味から逃げられない詩よりも、意味ではないもので人を感動させる音楽に惹かれるんでしょうね。』

 ことばを音として捉え、意味よりは、その人がそこに生きていることの表情みたいなものがにじみ出てくる詩。ここがいちばん幅広く好かれる理由なのだろうと思う。

 つらかったり悲しかったりというふうにしか、普段は考えていない感情を、詩の場合には、それをもうちょっと深いところで捉えられる。音にして読んだときの一瞬の真実性のようなものが谷川さんの詩のおおきな魅力なのだ。

 長くなりましたが、最後に締めの『ごあいさつ』

 どうもどうも やあどうも
 いつぞや いろいろ このたびはまた
 まあまあひとつ まあひとつ
 そんなわけで なにぶんよろしく
 なにのほうは いずれなにして
 そのせつゆっくり いやどうも

« 前のページ | 次のページ »

HMV & BOOKS TOKYO 鈴木雅代
HMV & BOOKS TOKYO 鈴木雅代
(旧姓 天羽)
家具を作る仕事から職を換え書店員10年目(たぶん。)今は新しくできるお店の準備をしています。悩みは夢を3本立てくらい見てしまうこと。毎夜 宇宙人と闘ったり、芸能人から言い寄られたりと忙しい。近ごろは新たに開けても空けても本が出てくるダンボール箱の夢にうなされます。誰か見なく なる方法を教えてください。