『チューバはうたう』

●今回の書評担当者●大熊江利子

自分が本を好きだと自覚したのはいつのことですか?

私は小学校に入って直ぐの頃です。バザーで松谷みよ子さんの「ちいさいモモちゃん」の古本を買ってもらいました。
我が家の方針では子供におもちゃなどを与えるのは年2回。クリスマスと誕生日。特別な日じゃないのに買ってもらえた驚きと喜びと、「江利子は本が好きだからね」という母親のせりふが私に本が好きということを自覚させたのでした。

そういう風に本が好きだということを自覚した瞬間は覚えているのですが、なぜ本が好きなのかと聞かれると上手く説明できません。仕事だから?趣味だから?もう習慣になっているから?難しいですね。友人とは冗談で、読書という文字が遺伝子に刻まれているのかもねと言い合ったりします。

最後に紹介するのは「チューバはうたう」です。

この本には、また性懲りもなく本屋めぐりをしていたときに出会いました。第一印象は綿矢りさの「蹴りたい背中」みたいな表紙だな、でした。そして帯を見て、そこに書いてあった本文から抜き出した文章に一目ぼれをしました。


「ならば、私が、吹いてやる。」
「私の肺は空気を満たし、
私の内腔はまっすぐに
チューバへと連なって
天へと向いたベルまで一本の管となり、
大気は音に変わって
世界へと放たれるのだ。」


この本には表題作「チューバはうたう」と「飛天の瞳」「百万の星の孤独」の3編が納められています。

「飛天の瞳」はちょっと翻訳を読んでいるような感触。
「百万の星の孤独」はちょっと芝居のシナリオのような感触。

表題作「チューバはうたう」
主人公は、26歳女性。製薬会社勤務。趣味チューバ。
この人は、チューバを吹くということが遺伝子に刻まれてているんだな。という話です。とても鮮やかに描かれています。

「何で好きだか良くわからないけどとにかく好き、受験にも就職にも役立たないけどこれがやりたい」という気持ちは青春小説に良く出てくるのですが、青春というか学生時代が終わった後こそ、趣味とどうやって向き合っていけばいいのかちょっと考えてしまいます。

そういうときに、是非読んでほしい本です。

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大熊江利子
大熊江利子
好きなジャンルはミステリー・青春・時代・ファンタジー・SF・ライトノベルなど。本棚に入りきらず部屋の床にじか積みしてある本は、震度3で崩れるので、地震のときに大体の震度がわかります。