『日本のセックス』樋口毅宏

●今回の書評担当者●うさぎや自治医大店 高田直樹

樋口毅宏作品が好きだ。最近もっともハマった人だ...。
なので、今回は「日本のセックス」。

まずはタイトルに圧倒される。
だって「日本の」って...。気持ちいいほどに潔い"代表"っぷり。まるでテキストのよう。そのまま宇宙に飛ばして「ニッポン」を喧伝してきてほしい。声高に。ジャパニーズカーマスートラかも知れないと思いながら(思わなかったが)、勢いで購入。そして一気読み。あの『民宿雪国』『雑司ヶ谷』シリーズの樋口さんの本だもの、期待値が半端じゃなかった。

樋口作品を読み進めた順序は...『民宿雪国』⇒『さらば、雑司ヶ谷』⇒『日本のセックス』⇒『雑司ヶ谷R.I.P』だった(かな?)。

ザックリ言ってしまうと、ノーマルな"営み"に満足できない夫婦が、より強い刺激を求めて様々に模索する内に大変な事に!という感じか。序盤の描写に怯むことなく、貪欲に読み進める事をおすすめする。そりゃ題材が題材なんで、"そういう"描写は避けて通れないでしょう。結構ガッチリとアダルトな感じが展開。めくるめいている。とっても。

健康な男児なら意気軒昂に読み進むでしょう。それこそ貪るように。
でもでも、この本の肝はそこじゃない!
"そういうの"が欲しい殿方は、黒地に黄文字(ピンクも)の背表紙の本が沢山並んでる棚に行くといい。望む世界が待っている。

話が少しそれた。盛り上がりすぎたかも知れない。軌道修正する。
更なる快楽を求めて彷徨する夫婦は、まさに「暴走」を見せる。そこで待ち受けていたのは、ノッピキナラナイ事件。「究極」はそこに行きつくのかなぁ...と怖くなる。でもその辺から物語が強烈にうねり始める。もうグッネグネに。さながら「ブレーキの付いていない暴走トロッコ」。でも、突拍子もない展開ながらなんとなく不自然じゃないんだよなぁ。それが不思議。
読者は翻弄されながらも"自然に"ついて行かされる。
全篇を通してふざけているわけじゃない、終わってみると「なんだかちょっとしっかりした本を読んだみたい」な感じすらする。

それにしても、樋口毅宏さんの本は読む人の心に確実に「澱」みたいなものを残す。そしてそれは、脳内麻薬みたいにとっても甘美な「澱」。「毒」というのもあっているようで、「トゲ」でもいいんだけれど、「澱」が一番しっくりくる気がする。それは、『民宿雪国』でも『雑司ヶ谷...』でもそう。

フィクションとドキュメントの狭間を行くようなその描写に、読者は不思議な「現実感」を味わう。物語の中で起きる"事件"も、どこかでホントに起きた事件かも知れないと思ってしまう。そんな妙な感じが、また次の樋口作品を渇望させるのかも。

もっともっと読みたい作家さんだ。

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うさぎや自治医大店 高田直樹
うさぎや自治医大店 高田直樹
大学を出、職にあぶれそうになっていた所を今の会社に拾ってもらい早14・5年……。とにもかくにもどうにかこうにか今に至る。数年前からたなぞう中毒になり、追われるように本を読む。でも全然読めない……なぜだ! なぜ違う事する! 家に帰っても発注が止められない。発注中毒……。でも仕入れた本が売れると嬉しいよねぇ。