第1回 大森の大盛りの続きなのだ
さて、『本の雑誌』5月号での「大森で大盛り定食」の取材で訪れることのできなかった東京くりから堂がどうしても気になる。
ということで、再挑戦すべく、土曜の午後にまたしても大森駅にやってきた。北口に出てジャーマン通りをのぼっていく。この道を歩いていると、新宿や渋谷ではない「普通の」東京の落ち着いた街の感じがしてナカナカいいですね。恵比寿も昔はこんな感じだった。今でも、恵比寿駅西口から渋谷に向かっていく通り(ピーコックのある通りの果て)はちょっとだけ似ている雰囲気だなと思いつつ、ズンズン歩いていると、東京くりから堂に到着する。おお今日はやっていたぞ!
ちょっとうれしくなる。店の外には絵本やらいろいろとあり、100円均一もなかなかいい。私の持っている本がなんとなく多いな。 時折、古書店の棚でそんな偶然にぶつかることがあり、ひょっとして家の本が勝手に売られたのではないかと妄想してしまうのだった(そんなことはありませんがね)。まあそれはともかく、自分の持っている本が古書店にあるときは親近感がわく。 続けて店内に入ると、こりゃまたいい店内。食、文学、旅行など香ばしいコーナーが充実している。特に食のコーナーをみていると、私の定食関係の執筆の端緒となった『東京定食屋ブック』(交通新聞社)もあったよ!
ますます親近感を覚えて棚をみていると、薄井恭一『随筆 味めぐり』(柴田書店)という本があった。戦前、戦後の食に関する記録が記された一冊で、とても役に立ちそうなので買う。500円。著者紹介をみると文藝春秋に勤めていた人で、なんと大森駅近くの山王に住んでいた模様。知らず知らずのうちにご当地本を買えていたわけでますますとうれしくなる。
かくして、大満足で店を後にして、この書店のすぐそばにある『太郎』という実にステキそうな食堂に行くが、こっちは残念ながら休み。まあ人生はすべてがうまくいわけではありませんね(笑)。
あきらめて大森駅のほうに戻っていく。途中で『大興苑』という中華料理屋がよさそうだったのでここに入ろう。
入ると細長い店内で、まさに昔ながらのいい感じの中華料理店。土曜の午後遅い時間のせいか、客はいなくておかみさんとご主人がテレビをみていた。うーん、何にしようか。中華丼785円もよかったが、ここは今週の定食「エビ・豆腐うま煮」600円をいってみよう。注文して出てきた水を飲みつつテレビのバラエティ番組をみて待つ。カウンター内から調理する威勢のよい音とよい香りがしてきて、定食が登場。
おお、味噌汁、お新香のなかに中華が組み込まれている!まさに和と中のハイブリッド定食だ。
まずは味噌汁を。ワカメの味噌汁でこれはしみじみおいしい。続いてメインに。豆腐、エビ、にんじん、ピーマン、キクラゲと色もとりどり。エビの赤いのがとてもきれいだ。まずはピーマンから。どうも野菜やエビは最初に揚げているようで、カラリとした触感でサクサクしている。そこにトロリとしたアンの塩加減も絶妙。入っている豆腐は大きめにカットされていて、ご飯の上にのっけて食べるととてもよいおかずになるなあ。ちょっと箸休めにお新香を。たくあんと白菜の二種類だよ!
少なくとも白菜は自家漬けのようで、味わい深い。やはり自家製の漬け物は相当うれしいなあ。...あっ、でも漬け物が自家製だとわかるとうれしくなるのは、おっさんになった証拠かもしれないなあと思いつつ、カリッと揚がったエビを食べたのであった。