9月21日(火) ちょっとした話

漂砂のうたう
『漂砂のうたう』
木内 昇
集英社
1,785円(税込)
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荷風 百けん 夏彦がいた 昭和文人あの日この日
『荷風 百けん 夏彦がいた 昭和文人あの日この日』
大村 彦次郎
筑摩書房
2,415円(税込)
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文士のたたずまい 私の文藝手帖
『文士のたたずまい 私の文藝手帖』
豊田健次
武田ランダムハウスジャパン
1,890円(税込)
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・青春と読書10月号の巻頭は、木内昇のインタビュー。最近、集英社から『漂砂のうたう』という長編を上梓したばかりの作家である。で、そのインタビューのページを開いてみたら、なんと女性の写真でびっくり。そうですか。有川浩や桜庭一樹や沢村凛が女性作家なのだから驚くことはないのだが、男性作家だとばかり思っていたので、いやはや。

・佐々木崇夫『三流週刊誌編集部』(バジリコ/2006年刊)は、副題に「アサヒ芸能と徳間康快の思い出」と付いた回顧録だが、その冒頭近くに、「週刊アサヒ芸能」前史として徳間康快が緒方竹虎を会長に印刷会社を興す挿話が出てくる。徳間康快が初めて社長職を経験したその新光印刷という会社は、「余談だが、作家の椎名誠氏が一時勤務していたことでも知られている」と言うのだ。そんなに「知られている」ことを私は知らなかったのか、と驚いてしまった。

・野村胡堂の妻ハナが日本女子大附属高等女学校で教えているとき、同じ附属幼稚園で保育士をしている井深という女性がいた。彼女には就学前の大(まさる)という男児がいて、休みの日にはこの子を連れてよく野村家に遊びにきた。のちにこの子は早稲田の理工学部に入学したが、胡堂夫妻はその将来を楽しみにしていた。戦後、井深大は盛田昭夫と東京通信工業という全社員五名の会社を興したが、金策がうまくいかず、胡堂夫妻に借金を申し込んだ。もちろん夫妻は快く応じ、この資金をもとにやがて爆発的な人気商品を生み出し、社名をソニーに変えた。晩年、胡堂夫妻は家が貧しく学業を放棄しなければならない青少年のために、野村学芸財団を創立したが、胡堂の死後は井深が財団の理事長を務めた。(大村彦次郎『荷風百けん夏彦がいた』筑摩書房)

・「イン・ポケット」9月号の後ろのほうに掲載されている「ホロスコープ読書占い」のベストは、なんと天秤座。仕事運、金運、健康運が◎なのである。特に、金運が◎、というのは嬉しい。やったね、と思ったらこれは9月15日から10月14日までの運勢だというのでがっかり。というのは、その翌週が菊花賞、その次が天皇賞。秋の大きなレースはその直後なのである。なんとかならんのか。もっとも、9月18日からの3日間競馬でボロ負けしたから、金運が◎というのもアテにならない。

・ジョー・ウォルトン『バッキンガムの光芒』(茂木健訳/創元推理文庫)は、1941年にナチス・ドイツとイギリスが講和した世界を描く3部作の完結篇で、今度は1960年が舞台。この中に、ソ連が崩壊したので日本とドイツが国境を接しているという数行の記述が出てくる。どういうふうに分割したのか、その細部を知りたいと思うのだが、この小説はそちらの詳しいことは何も語ってくれないから、とても気になる。

・豊田健二『文士のたたずまい』(ランダムハウス講談社/2007年)に出てくる挿話を一つ。文学界創刊五百号を記念して小林秀雄と河上徹太郎の対談を企画したときの話である(この二人は若いときからの盟友であり、ライバルでもある)。このとき、河上徹太郎は何も語らず、さらに「俺は酔った。お先に失礼する」と帰ってしまったから、編集長の豊田氏が慌てたのも無理はない。せっかくの対談なのに、これではページを飾れない。すると小林秀雄は「心配しなくてよろしい。ぼくがチャンとかっこうつけるから」といい、すべてをまかせるとアラ不思議。河上発言を創作して、見事な対談に仕上げてくれたという。