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3月4日(月)書評家という人生

活字競馬 馬に関する本 究極のブックガイド (競馬王新書)
『活字競馬 馬に関する本 究極のブックガイド (競馬王新書)』
北上 次郎
白夜書房
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高橋 克彦
双葉社
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ツリー(下)
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高橋 克彦
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 つい先日、椎名とスケジュール表の話になった。どういうふうにスケジュールを管理しているのか、というやつだ。私はA4のコピー用紙を縦6つ、横5つに割り、まず30の枡目を作っている。縦が1週間で、それが6つということは6週間ということだ。以前は縦4つにして1カ月のスケジュールを作っていたが、この数年は6週バージョンにしている。縦5つの枡目は月曜から金曜までの5つだ。土日は競馬のために空けているので枡目は5つでいい。

 その枡目の中に、その日の予定を書き込んでいく。6週の間にある締め切りを書き、その原稿を書く時間、そのために読む本を記入していく。締め切りが近いものは読む本も決まっているから書名を記し、まだ本が出ていない場合は、そのために読む冊数だけ○印をつけていく。書名が決まったら、その○の中に書名を書き込めばいい。午前と夜に○がひとつずつ。午後は仕事場で原稿書き、というのが私の通常パターンだ。
 その枡目の大きさは、横5センチ、縦4センチで、その中に1日のすべての行動が記されている。忙しいビジネスマンなら、そんな5センチ4センチの枡目の中に1日の予定を書き込むことなど不可能だろうが、午前と夜に○ひとつずつで、午後も原稿書き程度なら、このくらいのスペースがあれば十分なのである。スケジュール表とはいっても、すごくシンプルだ。

 外に出掛けるときは、時間と場所を書き込み、それは忘れないように赤で囲む。ところが私のスケジュール表で赤囲みの箇所は極端に少ない。そのときも、「ほら、この2週間で外に出るのはこの2回だけ」とスケジュール表を見せながら言うと、椎名が言った。
「外に出ないで何をしてるの?」
「だから、本を読んでるんだけど」
「やだな、そんな人生(笑)。おれ、書評家になんてなりたくないな」

 高橋克彦『ツリー』(双葉社)上下は、短いプロローグのあとに、新人賞の選評から始まっていく。落選した小説「ゲーム」について半分以上を費やした異色の選評である。その選評が主人公に送られてきたのは、最終候補に絞り込む段階でその作品を強く推したのが彼だったからだ。きみが強く推薦して最終候補にした作品はおしくも落選したけれど、選考委員の一人はこんなにも強く推していると、編集者が教えてくれたわけである。新人賞の下読みをやっているということは、この主人公、書評家なのだ。で、編集者が選評をファクシミリで送ってきたというわけ。

 物語は、その「ゲーム」の作者の居所が不明なので探してほしい、と編集者から主人公が依頼されるところから始まっていく。その作者、なんと最近までプロレスラーをしていたという。ここから主人公のとんでもない冒険が始まっていくのだが、いやあ面白い。特に、途中からどっちの方向に行くんだ、という強引な引っ張り方が面白く、一気読みしてしまった。書評家が主人公の小説というのは珍しいが、そのためにこんな台詞も飛び出してくる。

「なんの仕事をしている?」
「おれか? 書評で飯を食ってる」
「──」
「本を読んで宣伝する。たまに悪口を書く」
「呑気な仕事だ」


「書評だけで食ってるのは三、四十人のもんだろう。もっと少ないかな」
「凄いじゃないの」
「それだけ食えないってことさ」

 たしかに呑気な仕事と言えなくもない。実は先週、月曜から金曜まで毎日外に出掛けたが、これはこの10年で初めて。こんなことは滅多にない。たとえば、来週からの1か月で外に出掛けるのはなんと1回だけである。あとはひたすら部屋のなかで本を読んでいるだ
けだ。

「いやだな、そんな生活」とたちまち椎名に言われそうだが、そのたった1回が3月21日(木)の神田東京堂書店のイベントだ。『活字競馬』という本を北上次郎名で書いたのだが、その発売記念の公開対談(&サイン会)を、亀和田武氏を招いて7時から行うのである。3月ただ一度の外出の、間抜け面をどうか見にきていただきたいと思う。

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