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3月8日(日)

「本の雑誌」フェアの一環として行う編集長・椎名誠トーク&サイン会3本勝負!の1本目の戦いが銀座・教文館で行われた。(2本目は3月20日(金):オリオン書房ノルテ店、3本目は4月16日(木)ジュンク堂書店池袋本店で開催の予定)

 トークは教文館の方々の的確な仕切りと、もはや落語家のような独特な間(ま)で会場を笑わす椎名さんの力によって無事終了。続いてサイン会となるのだが、私は椎名さんの脇に立ち、ずらりと並んだお客さんから本と名前の書かれた紙を受け取り、椎名さんがサインしやすいよう補助する役目となる。まあ、慣れた役割なので別にいいのだ。

 何人目かの方が「一緒に写真を撮らせていただけますか?」と願いでて、椎名さんが了解したところから、サイン+写真撮影会の様相になだれ込む。そしてもちろんその隣に意味もなく(ほんとはあるんだけど)立っている私が、シャッター係になる。

 こちらも慣れているので「はい、撮りますよ〜、笑顔が素敵ですね〜、はいチーズ」なんてインチキ篠山紀信となり写真を撮るのであるが、いやはや、デジカメに携帯にと日常的にカメラを持ち歩いている人がここ数年でぐっと増えているから、何度もカメラを構え、シャッターを押す事になる。

 その被写体は椎名誠+読者であり、椎名誠は64歳の、言うなればおっさんである。悔しいではないか。私は現在37歳で、背は低いが毛はまだある。腹も出てなければ水虫でもない。親友シモザワが唱える中年4大苦のうちのひとつしかクリアしていないのである。それなのに、私は「はい、キムチ」なんて、写真を撮り続けなければならないのである。

 これでも中学校の卒業式の日は、女子生徒が家に列を作り、ボタンどころか、制服もジャージもカバンも、すべてなくなったのである。高校の卒業式は、学校にほとんど行っていないにも関わらず、下級生からラブレター入りの花束をたくさん貰い、写真撮らせてくださいといわれて、校門で何人もの女の子と並んで写真を撮ったのである。私のボタンや写真をいまだ大切に持っているであろう彼女たちが、今のこの私の姿を見たらきっと泣き崩れるであろう。いや私が「見ないでぇ」と泣き崩れるだろう。

 というわけで、写真を撮りながら、椎名誠と私を比較してみる。背は較べる必要もなく負けている。財力も負けているのは間違いない。ケンカだって、私が強いのは口喧嘩であって、腕力ではどうしたって柔道黒帯、ストリートファイト多数の椎名誠には、かなわないだろう。

 そういえば私も本を出しているのだ。作家としてはどうだと思ったが、実はこの会が始まる前に教文館の人が気を利かせて「本日は炎の営業・杉江さんもいらしているのでご希望の方はサインを申し出てください」なんて言ってくださったが、誰も私の前に本を持ってくる人はいなかったではないか。著書多数、作家生活30周年と処女作にして引退作の私とは、明らかに差がある。

 しかしなあ、例えばこれが女性だったらどうだ。いくら遺伝子的に負け組を引き継いでしまったとしても、64歳の女性と37歳の女性が並んでいたら多くの男が37歳の方に並ぶのではないか。そういう意味でいうと、男の勝負は年齢という絶対差が役立たないため、モテ・カーストに下克上がありえないということなのではないか。というわけで、私は「はい、チーズ」の人となり、約100人のサイン会&撮影会を終えるとヘトヘトになり、酒も飲むパワーもなくなり、家に帰った。

 家に着くと、そこに最後の砦である妻がいたので「俺と椎名さんと両方独身だったらどっちと結婚する?」と聞いてみたところ、妻は「椎名誠」と即答。たぶんその回答は、椎名誠以外でも同じ結果になったのではないかと思うが、完敗の夜。

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