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4月20日(月)

「そんなの売れないよ!」

 出版営業マンなら一日に一度は聞くこの言葉。裏を返せば編集者に同じ言葉をかけていることも多いのだが、じゃあ言われて悔しくないかといったらそんなことはない。例え書店さん同様「売れないだろうな」と思っていても、自社本には屈折した愛があるから、出すだけで意義があると思っている編集者に比べたらその悔しさは何倍にもなるだろう。

 また書店さんも営業マンも、未来が見えるわけじゃないから「売れない本」からベストセラーが出ることもあり、その指摘がすべてではないことも知っている。だから書店さんでチラシを前に「売れない」と言われたときに、悔しさとともにメラメラと燃えてくるじゃあ売ってやろうじゃないかと思う反骨心、それこそが営業の原動力なのかもしれないし、そのための創意工夫が営業という仕事なのかもしれないと気付いた37歳の春である。

 まあ売れないものを売るのが営業と言ったのは、私の尊敬する営業マンだったが、売れないもんはどうやっても売れないというのも真実だったりするから、難しい。磨いて磨いて磨きまくった末がダイヤモンドならともかく、石ころの可能性もないわけで、そうなると毎日の営業は、まさに不毛の連続だ。

 出版営業の虚しさは、注文=売上でなく、その後返品が発生するので、今日得た大量の注文が実は無駄になる可能性も大ということだ。こんなことを電車に揺られながら考え出したら、5月病はすぐそこ。転職、退職への道まっしぐらだと思うけれど、そんなものに価値を見いだしているうちは、営業なんてやってられない。

 じゃあ何に価値を見いだすのか。それは人それぞれだと思うけれど、僕は本を間に挟んで、シビアに多くの人に出会えるこの仕事は、たとえ最近、編集という仕事をやっていても手放せない。編集がアウトプットだとしたら営業はインプットの仕事。売場にある様々な情報を仕入れ、次なる営業、次なる本作りに活かすのだ。そして書店員さんのこの言葉を聞くために。

「あっ! 売れそうですね。注文いっぱい出さないと」
 

『尾道坂道書店事件簿』の3刷が決定!

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