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9月17日(木)

 帰宅後のランニングから戻ってくると、いつもは寝ているはずの息子が二階から駆け下りてきた。

「今日、早いじゃん! あのね、うちにでっかい兄ちゃんが来たんだよ。足でこうやってやるやつに乗って」。

 息子はそうやって足で地面を蹴る真似をした。おそらくキックボードに乗っていたのだろう。

「誰? 何しにきたの」
「えっ?! ねーねとドラクエしてた」

 そういえば数日前、娘に言われたのであった。
「もうさ、パパに頼らなくてもドラクエ進められるよ。転校生がもうクリアしていたから学校で教わってるの。でもさ、みんなにラブラブとか言われるのが超ムカつくんだよね」

 ラブラブということは、その転校生は男ということではないか。それは許さぬ、断じて揺るさぬと思っていたのであるが、敵も去るもの、もう家まで来ていたのか。妻は何をしているのだ。悪い虫がつきそうになったら追い出すのが役目ではないか。

「みんなでね、お菓子とジュース飲んだの」

 と息子は報告する。接待してどうする。追い出さんかい。

 風呂に入って汗を流す。今日は自慢の肉体を鏡に映して鑑賞している場合でない。あわててタオルで拭き、二階に上がって行くが、果たして娘にどう声をかけたらいいんだろうか。

「もうチューとかしてんじゃねーだろうな?」

 とはさすがに聞けないし、こういうのは聞き出そうとすればするほど言わないもんだ。何となくそっち方面に話がいくように展開しなくてはいけない。任せておけ、俺は会話だけで人生を生きている営業マンなのだ。

 娘はソファーに座って、ニンテンドーDSを覗き込んでいた。ドラクエに夢中のようだ。いやもしかしたらドラクエをやっている彼に夢中なのかもしれない。いかんではないか。つうか「おかえり」ぐらい言ってくれ。

「何やってんの?」
「ドラクエ」
「進んだ?」
「進んだ」
「......」

 会話が終わってしまったではないか。彼はどうした彼は。こういうことはそっちから報告しなさいよ。聞きづらいじゃないか、父さんは。電子レンジで食事を温め、ひとり食卓で食べる。そうか息子をダシに使えばいいのか。

「ゴウちゃん、今日なにしてたの」
「えっ、今日?」
「そう今日」
「電車」
「電車?」
「プラレール」
「ああ、プラレールか」
「そう」
「誰と?」
「ママと」

 そうじゃねーだろが!!! でっかい兄ちゃんの話を出せっつうの。

 私と息子の無用なやりとりをしている間に、娘は歯を磨いて、布団の敷いてある部屋に行ってしまった。どうなってるんだ、転校生は。

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