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9月16日(木)

引かれ者でござい―蓬莱屋帳外控
『引かれ者でござい―蓬莱屋帳外控』
志水 辰夫
新潮社
1,728円(税込)
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つばくろ越え
『つばくろ越え』
志水 辰夫
新潮社
1,836円(税込)
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 新作が発表されるとあわてて「小説新潮」を購入し、むさぼるように読んでいた志水辰夫の時代小説<蓬莱屋帳外控>シリーズだが、いざ単行本になると、なんだか読むのがもったいなくて、積ん読にしていたのであった。

 しかし、もう我慢できないとページをめくる。
『引かれ者でござい』(新潮社)。

 前作の『つばくろ越え』のときにも書いたとおり、もはや志水辰夫の時代小説は日本の宝である。今後何十年も読み継がれるのが、今からわかる。それくらい素晴らしいのである。

 物語はすべて「通し飛脚」の目を通して描かれているのだが、たいていこの手の物語はその主人公のヒーロー小説になるだろう。必ず届けなければならない荷物を手にした主人公、そこに様々な困難が待ち受けていて、力と能力で解決するという。

 ところが志水辰夫の主人公はそこまでのヒーローではない。仕事は全うするが、百戦錬磨の強さはない。無頼の徒に襲われれば逃げることもあるし、うまくいかずに反省したりもする。それなのにそんな主人公がものすごくカッコいいのは、真っ当に生きているからだろう。

 そしてもうひとつの大きな魅力は、背景として描き出される様々な人間の暮らしであろう。武士と農民だけでなく、炭焼きや商人、絵師、木樵といろんな職業の人たちが登場し、例え数行であったとしても、彼らがどのように生きているのかしっかり伝わってくる。志水辰夫が書こうとしているのは、江戸時代の人の営みそのものなのかもしれない。そしてそれはどんな時代も変わらないはずなのだ。

 もはや傑作とかそういうレベルを超えた作品だ。



 9月末でいったん閉店してしまう上野のブックエキスプレスを訪問。Hさんにご挨拶。いつもあまりに忙しそうで声もかけずに店内を見るにとどめているお店なのだが、いやはやこのお店が無くなってしまうなんて想像ができないし、相棒トオルは勤務先が上野で、毎朝晩、こちらのお店で本を物色していたのだそうだ。「頼むから再開してくれ」と節なる願いのこもったメールが私あてに届いていた。

 この規模でありながら、文庫や新書の売り上げは全国ランキングでベスト10に入ることも珍しくなく、だから今回の閉店は出版社にとっても大問題で、多くの営業マンがここの売り上げをどこで埋めたらいいのだと頭を抱えているのであった。

 そんな数字だけでなく、このお店の展開はいつも素晴らしく、発見にあふれていた。しみじみと棚を見つめる。

 夜、もうかれこれ十年以上も続いているとある飲み会に参加。
 この飲み会は年齢層が高く、私なんかひよっこも同然。50代、60代の現役営業マンの興味深い話を食い入るように伺う。私もいつかこういう営業マンになりたい。

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