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9月30日(木)

妻の超然
『妻の超然』
絲山 秋子
新潮社
1,512円(税込)
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 給料日。
 仕事を終えて向かった先は、ブックファースト新宿店。

 こんなことを大きな声で言えないけれど、実はこのお店だけは私の本屋さんの最後の砦として、営業マンとしてはほとんど訪問していないのである。この規模の本屋さんを営業訪問しないなんてとんでもないことなのであるが、会社から一番寄りやすい大型書店であり、ここだけは個人的に楽しめる場所としてどうしても取っておきたい。

 細かく枝分かれした売り場が使いやすいか? と問われたら疑問を感じるけれど、何ごとも使いやすいことがベストなのではなく人文書や理工書の売り場へ入るために別の入り口をくぐるのは、また別の本屋さんを覗いたようで気分が新たになるのが嬉しい。

 またこの日の文庫売り場では、「次に読むならコレ!」というフェアが行われており、集英社文庫や角川文庫の夏フェアの冊子じゃないが、お店独自のセレクトによって、人気文庫作品の次に読むべき本のセレクトフェアが行われているのであった(10月9日まで)。あまり語られていないかもしれないが、文芸書の壁棚などブックファースト新宿店のフェアは面白いのである。

 給料日、喜び勇んで購入したのはこの日が発売日の絲山秋子著『妻の超然』(新潮社)である。
 絲山秋子は私が今、もっとも愛する作家の一人であり、この作品が単行本になるのをどれだけ心待ちにしていたか。

 というわけで帰りの電車のなかで早速読み出したのだが、まず何よりもその文章表現の的確さに心地よく酔うのであった。例えば旦那が浮気していることにとっくのとうに気づいている妻の心理を描いた「妻の超然」の妻が、旦那の部屋のドアに指先で描いた一言。あるいは酒が飲めない男の子が酒好きの彼女との付き合いを描いた「下戸の超然」で、久しぶりに実家に帰りお母さんと向かった海浜公園の描写。作家とはストーリを考えるだけの生き物でなく、それをいかに伝えるのかという一番大事なことを思い出させてくれる中編集である。

 帯には辻原登さんの言葉として「超然とはパッション(受苦)である」とあるが、私は超然とは絶望の先にある赦しだと感じた。至福の時間。

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