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1月26日(水)

 久しぶりに日本代表の試合を手に汗握って見てしまった。
 私たちが育てた長谷部や細貝の活躍に感動す。
 やはり横ではなく縦にボールが入るサッカーは面白い。

 眠たい目をこすりながら直行で取次店へ。『世にも奇妙なマラソン大会』の見本出し。
 
 会社に戻ると高野さんがやってきて、サイン本作成。

「やっぱり本ができるの、うれしいなあ」

 その一言が聞きたくて頑張っているのだが、できることなら「やっぱり本が売れるの、うれしいなあ」と言われるような営業になりたい。 

1月25日(火)

 いよいよ、2011年本屋大賞ノミネート作品の発表の日である。
 なんだかんだ言いつつ8回目となり、もはや私がなぜこんなに本屋大賞、本屋大賞と書いているのかもわからない人がほとんどだが、それはそれでいいのだ。

 そんななか古い手帳が出てきたので、ペラペラと見ていたら2003年のちょうど今頃、後に本屋大賞を作ることになるキッカケとなる飲み会のいくつかが開かれていたのだ。

 あのときみんなで酒を飲んで心底心配していたのは、本の未来だった。売れない、売れない、本がどんどん売れなくなっていく。

 底なし沼のような絶望の淵で、このままじゃいけないよと危機感を抱いた書店員さんたちがいたのだ。そして自分たちの手で何かしようと始めたのが本屋大賞だった。

 当時、投票してくれた書店員さんたちも同じ気持ちだったと思う。
 その気持ちを私は絶対忘れない。

★   ★   ★

 夜、高野秀行さんの待望の旅もの『世にも奇妙なマラソン大会』の見本が届く。
 月に一度程度、高野さんとはどこかの喫茶店でコーヒーを飲みながら話を聞いているのだが、そのなかで「それ面白いから書いてくださいよ」とお願いした話が3つ収録されている。

 一つは表題作となっている「世にも奇妙なマラソン大会」で、こちらは高野さんの得意とするところの海外体当たりもの(しかし西サハラ情勢に関してはきちんとルポになっているのがすごい)、あと二つは誰がどう見ても怪しい状況なのに変なおじさんに付いて行って大変な目にある「ブルガリアの岩と薔薇」、目的のために手段を選ばず暴走する「名前変更物語」とまさに高野ワールド全開の作品集になっているのだ。ファンだけでなく、笑える本ないかなあと思っている方はぜひ。

 それとなんと今作では書きおろしで、世界の不思議な話「謎のペルシア商人──アジア・アフリカ奇譚集」を収録。高野さんのまわりで起きた説明しようのない「謎」な話は、読んだあとも不思議な余韻を残す。

 ちなみに私にとって、『辺境の旅はゾウにかぎる』『放っておいても明日は来る 就職しないで生きる9つの方法』以来、高野作品3作目の編集&営業作品。売れろ、いや売るぞ!

1月24日(月)

 昨日は、東京堂書店にて『身体のいいなり』(朝日新聞出版)発売記念イベントとして内澤旬子さんと大竹聡さんの対談があり、またもや私は自社本でもないのに会のセッテイングしたので、お手伝いに向かうこととなった。

 最近社内では、私がボランティア精神にあふれる立派な人間なのではないかと思われているフシがあり、「伝票の打ち込みが終わらない」とか「取材の人手が足りない」とか「お茶淹れてくれ」とかいろいろ頼まれることが多い。そうではないのだ。以前も書いたとおり、私はものすごく長期戦略の計算高い人間で、25年後には内澤旬子さんも大竹聡さんも村上春樹のような大人気作家となり......以下同文。

 それにしても打ち上げのカラオケは効いた。
 あれは日曜日の夜にすることではないし、そもそもカラオケが大嫌いなのだった。しかし行ったからには歌わないのも野暮ということで、娘がいつも聞いているAKB48の「ヘビーローテーション」を歌ってみたら、妙に盛り上がった。盛り上がるとついつい頑張ってしまうのが営業マンで、そんなところで燃やさなくてもいいのについ「営業魂」に火がついてしまったのが、間違いだった。

 そんなわけで月曜日の朝だというのに、フラフラになって出社すると、返金保証という掟破りの販促で『だいたい四国八十八ヶ所』を販売してくれている、丸善ラゾーナ川崎店の沢田さんからメールが届く。

「すでに45冊も売れており、これ以上減ると多面展開が難しい。よって100冊追加注文したい」

 どひゃーである。
 私が作り売っているのは『だいたい四国八十八ヶ所』であって、『KAGEROU』ではないのだ。もしやエイプリル・フールではないかと思ってカレンダーを見たが、1月24日だった。

 社内の在庫を確認すると、注文のちょうど半分50冊あった。残りは倉庫から直送するとして、とにかくある分だけは持って行こうと、助っ人学生をひとり連れて、川崎へ。

 そこではたしかにあれほど積まれていた『だいたい四国八十八ヶ所』が半分に減っていた。

 残念ながら沢田さんは食事休憩に出ており、お会いできなかったのだが、私が浮かれている間にも沢田さんは次なる戦略というか、『だいたい四国八十八ヶ所』がより多く売れることを真剣に考えてくれていた。

「ウチで100や200売ってもそれだけでは意味無くて、極端な話、全国の書店で一ヶ月に1冊ずつ売れればそれだけでアッと言う間に数千部ですからね。ウチの数字を足がかりに、どうにかして『だいたい四国八十八ヶ所』の面白さを伝えたい」とメールが届く。

★   ★   ★

 結局、自社本でもないイベントのお手伝いにいくのも、自店の売上以上にその本、その著者のことを考えるのも、惚れるってことではなかろうか。
 
 惚れているんだな、私も沢田さんも宮田さんに。
 そしてそれ以上に本に惚れているんだとも思う。

 しかしどうしたら本の面白さをより多くの人に伝えられるだろうか。

1月21日(金)

  • 二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)
  • 『二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)』
    西村 賢太
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    482円(税込)
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  • 人もいない春
  • 『人もいない春』
    西村 賢太
    角川書店(角川グループパブリッシング)
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 家のパソコンをごちょごちょやっていたら、いつぞや作った西村賢太さんの単行本収録作品をその書かれている年代ごとに並べたリストがでてきたので、芥川賞受賞記念&これから西村賢太さんの作品を読むひとのために少しでも役立てばということで、ここに掲載します。

 ちなみに『苦役列車』で描かれる友人は、『小銭かぞえる』で山志名という名でその後の人生が描かれているのでこちらも合わせて読まれることをオススメ。


【十代】

「潰走」(『二度はゆけぬ町の地図』収録)
 主人公:貫太(十六歳)
 雑司ヶ谷のアパートの老家主との戦い

「貧窶の沼」(『二度はゆけぬ町の地図』収録)
 主人公:貫太(十七歳)
 彼女:佐久間悠美江
 酒屋でバイト。店主と揉め、女ともケンカする

「人もいない春」(『人もいない春』収録)
 主人公:貫太
 製本所で働くが自分だけ契約延長してもらえず、夜、鴬谷へ飲みに行き、帰路タクシーの運転手とケンカ。

「腋臭風呂」(『二度はゆけぬ町の地図』収録)
 主人公:私(十八歳)
 住居:飯田橋
 銭湯でものすごく腋臭臭い男と出会う。そして二十年後もの凄く臭いホテトルの女と出会う。

【二十代】

「春は青いバスに乗って」(『二度はゆけぬ町の地図』収録)
 主人公:私
 居酒屋で働いていたが、先輩の遠井と大ケンカ。その際、止めに入った警官を殴り、公務執行妨害の疑いで、留置所に。

「二十三夜」(『人もいない春』収録)
 主人公:貫太(二七歳?)
 通い慣れた古書店に配達に来た喫茶店の女の子に入れあげる。

【三十代】(同居する女(秋恵)と出会う前)

「けがれなき酒のへど」(『暗渠の宿』収録)
 主人公:私
 ソープ嬢・恵理に貢いで騙される。苦しい暮らし。

「墓前生活」(『どうで死ぬ身の一踊り』収録)
 主人公:私
 藤澤清造の菩提寺で、墓標を見つける。


【三十代】(女(秋恵)と同居後)

「暗渠の宿」(『暗渠の宿』収録)
 主人公:私
 女が出来、部屋を探し、同居を始める。古書店の棚で他の客と揉める。そのときの女の行動に頭に来る。

「焼却炉行き赤ん坊」(『小銭をかぞえる』収録)
 主人公:私
 同居した女が子どもを欲しがり、それを拒絶すると犬のぬいぐるみを溺愛し出す。最後はぶちぎれぬいぐるみに報復。

「小銭かぞえる」(『小銭をかぞえる』収録)
 主人公:私
 藤澤清造全集制作のお金に困り、旧友山志名に無心しにいくか散々な目に会い、同居する女の実家に泣きつく。結果金の話で女と大揉め。

「乞食の糧途」(『人もいない春』収録)
 主人公:貫太
 女:秋恵
 秋恵が職場で嫌なことがあり、貫太も若かりし頃働いていた運転助手のあるシーンを思い出す。晩飯で揉めるが、貫太はぐっと堪える。

「赤い脳漿」(『人もいない春』収録)
 主人公:貫太
 女:秋恵
 美味しい中華料理屋を見つけ、秋恵に食べさせようとするが、麻婆豆腐が嫌いなことを知る。時を同じくして秋恵の幼少時代のアルバムを見てインポになる。無理矢理麻婆豆腐を食べさせようとし、S的快楽に気づく。

「昼寝」(『人もいない春』収録)
 主人公:貫太
 女:秋恵
 二人が風邪を引き、なんと仲が良くなる!!

「どうで死ぬ身の一踊り」(『どうで死ぬ身の一踊り』収録)
 主人公:私
 清造忌をするが、帰ってきたところで女と揉め、女が出て行く。

「膿汁の流れ」(『瘡瘢旅行』収録)
 主人公:貫太
 女:秋恵
 祖母の入院で実家に帰る秋恵。その間に貫太は遊びまくる。

「廃疾かかえて」(『瘡瘢旅行』収録)
 主人公:貫太
 女:秋恵
 秋恵が友達の久美子からお金を無心される。

「瘡瘢旅行」(『瘡瘢旅行』収録)
 主人公:私
 酒屋の配達女子にかけた言葉をセクハラだと女に罵られ、ケンカする。仲直りのつもりで岐阜の古書店へ一緒に旅に出るが、そのころすでに女には別の男の陰が。

「一夜」(『どうで死ぬ身の一踊り』収録)
 主人公:私
 「根津権現裏」の額装ができ嬉しさのあまり女にカニなどを買って帰るが、女は気に入らず。その夜、女が全集の校正に間違いばかりするので叱るとケンカへ。女は出て行き、十条の男のもとへ。


※「悪夢」(『人もいない春』収録)恐怖のネズミによる逆襲劇。唯一、私小説でない。


1月20日(木)

 通勤読書は、唯一他チームながら私のヒーローである、カズことを三浦知良の『やめないよ』(新潮新書)。日本経済新聞に2006年から2010年にかけて連載されていたコラムをまとめた本なのだが、この本を読むとカズにとってサッカーはもはや単に仕事でもスポーツでもなく、人生そのものになっていることがわかる。それは精神的な観点からだけではなく、カズはこう漏らしているのだ。

「ときどき僕は思う。本当に身体がボロボロにになるということは、どういうことなのだろう、と。身体がボロボロになったら、サッカーをやめるどころか、人生をやめなきゃならなくなるんじゃないかとお、と思って怖くなるときもある。過酷なことをやってきたツケとして、普通の生活になった途端にある種のリバウンドが起きて歩くことさえできなくなるんじゃないかという恐怖。筋肉に覆われていた関節が、筋肉が落ちて、持たなくなるんじゃないかという恐怖──」

 『だいたい四国八十八ヶ所』も無事搬入となり、バリバリと営業。
 オープンして約3ヶ月の吉祥寺のJ書店を訪問し、Mさんと棚の話。

「ジャンル事に棚に本を詰めていくんですけど、やっぱり目線の高さ(ゴールデンライン)にそのジャンルの一番売れ筋の本を置きたいんですよ。例えばうちの場合、外国文学は各国ごとの年代順に並んでいるんですけど、ドイツならカフカやヘッセをそこに置きたい。年代順に置くと一番したにいっちゃったりするのを崩しつつ、棚を順々に直していっているんですけど、直したところから売れて行くのがうれしいですね」

 棚作りの工夫というのはいくらでもあるのだな。

「それとやっぱり一番左端。人間って不思議と左から見るものらしく、そこに一番の売れ筋や分かりやすい本を置いています」

 私が本屋さんで本を買うとき、一番大切なのは最初の1冊だったりする。
 1冊パッと輝く本が見つかったときは、「本を買おう」という欲求が高まり、次から次へと面白そうな本が見つかるのだが、1冊目がうまく見つからないと何も買わずに出てくる時が多い。おそらくMさんのように様々な工夫をされている棚ほど、その1冊目の本が見つかりやすいのだろう。

1月19日(水)

 お遍路グッズを持って川崎ラゾーナのM書店さんへ。

 こちらの担当Sさんは、『だいたい四国八十八ヶ所』の営業でチラシを見せた瞬間に「これ売れるよ」と言って、いきなり100冊の注文をくれたのであった。思わず私は「一、十、百」とその桁を数えてしまったが、どうも間違いないらしい。

 あまりに心配なので後日ゲラを送ってみたのだが、今度は「これマジで面白いよ。だから返金保証でどーんと売るよ」と掟破りの販売方法を提案してきたのであった。

「読んで更改したら返品受けます」
 それは書店員さんにとって本気も本気、ありえない本気だ。

 そこまで言われたら私も黙っているわけにはいかないので、1冊でも多く売るために何でもしようと、ひとまずお遍路といえばの菅笠と白衣を用意し、ポップ代わりに飾ってもらおうと持参したのだが、Sさんはマネキンを用意して待っていてくれたのだった。

「いやあ探せばあるね」

 恐ろしい人だ。

 恐ろしいのはそれだけでなく、そのSさんから「杉江さんの目標は?」と尋ねられたので、「とにかく注文いただいた分、売り切りましょう!」と答えると、ものすごく不満そうな表情をして、こう言うのであった。

「おれ、追加注文する気だから。待っててよ」

 明日から男たちのプライドをかけた戦いが始まる。

1月18日(火)

 宮田珠己さんがサイン本を作りにやってくる。
 宮田さんは初めて手にした『だいたい四国八十八ヶ所』にとても満足してくれた様子だった。本は著者の作品でありながら、商品でもあり、その辺のせめぎ合いのなか、この半年苦労して来ただけにとてもうれしい。

 あとは読者が喜んでくれるのを待つばかり。

 本の雑誌社では定期的に事務の浜田が文房具を頼んでくれているのだが、なぜか他のみんなが注文したペンだの伝票だのは届いたのに、私が以前から注文していたファイルが届かない。

「あれ? 俺のファイルは?」と尋ねると「あれ〜? どうしたんだろう、こびとかな」とかいって誤魔化している。小さないじめを積み重ね、私を追いだそうとしているようだ。負けるもんか。

1月17日(月)

  • サッカープレーヤーズレポート 超一流の選手分析術
  • 『サッカープレーヤーズレポート 超一流の選手分析術』
    小野剛
    カンゼン
    1,760円(税込)
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    honto
 この一年、娘の所属するサッカーチームでお手伝いコーチをしているのだが、そうなると数多ある戦術本や戦略本がどうでもよくなってしまった。どうしたら技術が身につくのか、あるいはサッカーに必要な技術とは何か、という方向に俄然興味が湧いているのである。

 そんな目で読んでも面白かったのが『サッカープレイヤーズレポート』小野剛(カンゼン)。今現在、それぞれのポジションにどんな能力を持った選手が求められているか、スター選手のどこがすごいのか、そういったものがどこから生まれてくるのか、それらが具体的に示されており、子どもたちを教えるのにも参考になる記述がたくさんあった。

★   ★   ★

『だいたい四国八十八ヶ所』宮田珠己著と『世にも奇妙なマラソン大会』高野秀行著の編集作業が一段落し、やっと私の本業である営業に専念できるときがやってきた。

 そんななかとある書店さんのコミック担当の方と棚作りについて話をうかがう。

「棚って意外とそのジャンルに興味がない人がやった方が売上あがったりするですよね。売れている本をデータに基づいて発注して切らさないように淡々とメンテナンスして。好きな人が担当するとつい自分の趣味に走っちゃって、そこに合わないお客さんは買いづらくなっちゃうんでしょうね。8割客観、2割主観ぐらいがちょうどいいバランスかなあ」

 その8割客観は、当然そのお店お店の客層によって違うそうだ。

★   ★   ★

 我が最愛の小説家のひとり西村賢太氏が、芥川賞を受賞!

 候補作になる前から「苦役列車」が絶対受賞すると騒いでいたので、何件かの書店さんから「おめでとう!」と祝福の電話が入る。私には一切関係ないのだが、涙が出るほど嬉しい。

 そうなのか。賞というものはその作家、作品だけが幸せになるのではなく、このようにファンや関係者を幸せにするのだ。

 本屋大賞もそういう賞になりたい。

1月14日(金)

 直行で『だいたい四国八十八ヶ所』の見本を持って取次店さんを廻る。

 本日、見本を出だすと19日、20日搬入になるので、混雑しているかと思いきやガラガラだった。新刊点数減っているのか。

 すべての見本出しを終え、いったん会社でメール・チェック。
 それが済むとまた会社を飛び出し、「KAGEROU24時」の取材立ち会い。

 そして夜は、本屋大賞の会議。
 今週はよく働いたと思う。

1月13日(木)

  • 別冊カドカワ 総力特集 佐野元春  カドカワムック  62483‐67 (カドカワムック 364)
  • 『別冊カドカワ 総力特集 佐野元春 カドカワムック 62483‐67 (カドカワムック 364)』
    角川マーケティング(角川グループパブリッシング)
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 通勤読書は「別冊カドカワ」の佐野元春特集。
 私にとって佐野元春は、十代から今まで唯一憧れ続けているアーティストであり、すべてのアルバムをIPodに入れている数少ないミュージシャンでもある。

 ファンにとっては至れり尽くせりな特集号、一字たりとも読み飛ばすところがないのであるが、ファンからの質問コーナーで「佐野さんが思うつまらない大人とはどういう大人ですか?」という問いかけに、佐野元春が回答しているのだが、それを読んだ瞬間、涙があふれてしまった。

『ガラスのジェネーレション』の「つまらない大人にはなりたくない」のその言葉だけを胸に生きて来た私にとって、佐野元春のこの回答は今までの人生が間違っていなかったと肩を叩かれたような気分なのである。

★    ★    ★

 朝、宮田珠己著『だいたい四国八十八ヶ所』の見本が出来上がってくる。
 梱包用紙で包まれたその本を開いた瞬間、ビビビと脳天からつま先まで電流が走る。

 これはなんだかとんでもなく素晴らしい本を作ってしまったのではないか。装丁、イラスト、写真、そして本文とすべてが満点というか、企画段階で想像した完成形の姿を超えた気がする。

 著者の宮田珠己さんは「anan」によると今年ブレイクする作家らしいので、ぜひともこの『だいたい四国八十八ヶ所』でブレイクして欲しい。

 午後、永江朗さんと『本の雑誌』3月号の記事「KAGEROU24時」の取材立ち会い。夜は、『だいたい四国八十八ヶ所』の初回注文締め作業。

1月12日(水)

 朝、『本の雑誌』2月号の搬入作業をしていると、トーマス改め発行人改め編集発行人となった浜本茂から声をかけられる。

「お前、今晩、時間ある?」

 営業でおそらく2000人以上の人と出会って来た私であるが、用件を言わずに人のスケジュールを確認する人ほど信用できない。なぜなら時間があると答えた時点で、すでに断れない状況に陥れているのだ。

 ちなみに本日、浜本が誘って来たのは、この夜行われる予定の「浜本茂新編集長、試練の3晩勝負!」と称した坪内祐三さんの編集長講座に一緒に来ないかということであった。

 それなら要件を先に言えというもので、当然OK。『世にも奇妙なマラソン大会』の入稿作業を終えた17時、浜本とふたり新宿・池林房に向かったのである。

1月11日(火)

 朝、会社に着くとFAXにエラーランプがついていた。

 詰まった紙を取り出すと、受信途中だったFAXが印刷されてきたのだが、それが止まらず次から次へと印刷されてくるではないか。

 この機械、ここ数週間調子が悪かったので、ついに壊れたかと思ったが、印刷されてくるのは本屋大賞の一次投票だ。そうなのだ、昨夜0時が〆切で、その投票用紙が今、出てきているのである。

 それにしても多すぎるのではないか。
 多いのはいいことだが、ネット投票と違ってFAX投票は改めて打ち込まなければならないのだ。
 誰が? 私がだ。
 しかも本日から集計が始まるわけだから、早急に打ち込まなければならない。

 私には今、連続刊行すべき単行本2冊の編集作業、その本の営業、「本の雑誌」333号記念特大号の特集など、本屋大賞がなくても人生で一番忙しい状況なのだ。しかし何を差し置いてでも、とにかくこの一次投票を打ち込まねばならない。

 というわけで朝9時から夕方まで延々と打ち込み作業。

 それを終えてやっと今日の仕事が始まる......はずが、今夜は『身体のいいなり』&『腰痛探検家』出版記念で、内澤旬子さんと高野秀行さんのトークショーがジュンク堂新宿店である。両著とも本の雑誌社の刊行物でないにも関わらず、なぜか私がセッティングなどしたもんだから立ち会わないわけにはいかない。

 その会場で高野さんに会うと「杉江さんはもう個人NPOみたいな人だよね。儲からないことばっかりやって」と笑われるが、そうではないのである。

 私はこう見えてもものすごく計算高く、常に利益のことを念頭において右手でソロバンをはじいているのである。ただふつうの人と時間の概念がずれており、今や企業は四半期ごとに決算をしているが、私の人生は、四半世紀ごとに決算しているのであった。

 だから本屋大賞にしても、この夜のイベントにしても一切私は儲からず苦労ばかりしているように見えているが、おそらく25年後には、本の雑誌社の本がまるで直木賞のように本屋大賞に毎年選ばれるようになり、そして高野さんも内澤さんもその頃は村上春樹のような大ベストセラー作家になっていて、私のフトコロはウハウハ。その頃、おそらく中国企業に買われそうになっているであろう浦和レッズを救う予定なのである。

 トーク終了後、ものすごく仕事が気になるが、大竹聡さんも交えて打ち上げ。

1月6日(木)

 年末に会社の机の大掃除をしていたら懐しいものが出てきた。REDS.JPG
 浦和レッズがJ2に降格し、そして一年で這い上がったときにチームから送られてきたメッセージカード。あれから10年が過ぎたということか。なぜ会社の机のなかにあったのかは謎。

★   ★   ★

 仕事を仕事だと思うから、電車の座席が突如ベットに変身したり、ドトールが職場に見えたりするのであって、仕事を自分が大好きなサッカーだと思えばいいのだと気づいたのは、初日の出を見ていた元日の朝でった。

 サッカーが仕事。それは夢見た暮らしではないか。
 私が毎日しているのは試合であって、そういえば営業という仕事は、私のサッカーのポジションであるFWそっくりなのであった。

 バスが来ようが来なかろうがFWはゴール前に飛び込まなければならないし、入ると思ってシュートを打たなければ話にならない。

 営業も本の内容に関わらず本屋さんに飛び込まなければならないし、売れると思って営業しなければらない。

 私のことをこれから炎のサッカー選手と呼んで欲しい。

★   ★   ★

 というわけで怒涛の営業。走って、飛び込んで、転ぶ。takahatahudou.JPG

 ただいま私がFWとなってゴールを目指しているのは、宮田珠己さんの初本格紀行文であり、代表作になるであろう『だいたい四国八十八ヶ所』と高野秀行さんの待望の旅もの『世にも奇妙なマラソン大会』である。

『だいたい四国八十八ヶ所』はゲラを読んでいただいた書店員さんから「ギャグがと言うより、宮田さんの性格が面白い。読んでると、自分もお遍路行ってみたくなる」や「ウケ狙ってるんではなく、ナチュラルに面白い。万人ウケしそう」とのものすごい高評価と大量注文をいただいたりしているので、命がけで売らなければならない。

 ただしもはや私ひとりがどう足掻こうと限界があるわけで、サッカーが一人で出来ないのと同様に、ここは『だいたい四国八十八ヶ所』にあやかり、私も神頼みすることにしたのである。ookunitama.JPG

 営業先で見つけた寺社仏閣に片っ端からお賽銭を投げ入れ、お願いするのだ。

 まさに高野秀行さんの著作『神に頼って走れ!』(集英社文庫)の営業バージョン。『神に頼って売れ!』だ。せっかくお参りするので、家内安全と厄払いも兼ねたいと思う。

 早速、本日廻った京王線では、いまだ初詣で賑わう高幡不動尊と大國魂神社をお参り。実は昨年末からこの八十八ヶ所営業神頼み作戦を決行しており、今までにお願いしたのは、根津神社、浅草寺、調神社、備後稲荷神社を含め6軒。残り82ヶ所巡らなければならないわけで、できることなら調布の深大寺も訪問したかったのだが、さすがに駅から遠くあきらめたのであった。

★   ★   ★kasa.JPG

 書店販促用に頼んだお遍路グッズが届く。
 これを被って営業しよう。




1月5日(水)

  • オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える (集英社文庫)
  • 『オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える (集英社文庫)』
    木村 元彦
    集英社
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  • 引き裂かれたイレブン ~オシムの涙~ [DVD]
  • 『引き裂かれたイレブン ~オシムの涙~ [DVD]』
    イビチャ・オシム,イビチャ・オシム
    アルバトロス
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 あけましておめでとうございます。
 今年も「本の雑誌」および単行本、そして「炎の営業日誌」をよろしくお願いします。

★   ★   ★

 年末に6歳になった息子が、ストーブの前に座る私に膝に乗り、目を真っ赤にしていた。
「パパ、会社行かないで」
 この一週間、とことん一緒になって遊んだため、淋しいようだ。

「ダメだよ。会社には社長という怪獣と浜田という化物がいるんだよ。パパ会社に行かなかったら食べられちゃうよ」
「そんなワルモノは、ぼくがやっつけてやるよ」

 できることならやっつけて欲しい。

★   ★   ★

 息子が泣こうが、私が泣こうが仕事は始まる。
 そして零細出版社には、試運転する時間もない。
 早速書店さんに向かい、年始の挨拶とともに2011年の営業活動がスタート。

 年末年始に売れた本をうかがうと、落ち着いたとはいえ未だにどんな小説よりも売れている『KAGEROU』齋藤智裕(ポプラ社)、年末のNHKの特集番組で再ブレイクした『くじけないで』柴田トヨ(飛鳥新社)、テレビCMが始まった『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉(小学館)あたりだそうだ。

 久しぶりに書店員さんが在庫確保の悲喜こもごもを語る姿を見た気がするが、それにしてもテレビの衰退が叫ばれるなか、その影響力が落ちないのはどういうことなんだろうか。

 ちなみに私は年末にフジテレビで放送された「私たちの時代 奥能登・石川県立門前高校 女子ソフトボール部3年間の記録」に号泣してしまった。

★   ★   ★

 年末年始の朝日新聞の工藤公康や岡野雅行の記事を読み、40代の仕事への意識というか生き方について考えされた。30代後半から、なんとなく惰性や諦めや言い訳ばかり増えていたような気がするし、営業も続ければ続けるほどごまかしや先入観が多くなって足を踏み出せなくなっていたのだが、そういう自分にすっかり飽き飽きしたので、社長と浜田とやっつける前に自分と戦おうと決意したのであった。

 そういうわけで本日は『オシムの言葉』木村元彦(集英社文庫)を再再再々読。何度読んでも素晴らしいノンフィクション。前夜、友人から借りていたDVD『引き裂かれたイレブン〜オシムの涙〜』を見ていたので全ての情景が映像として頭のなかに浮かぶ。

 オシムの言葉どおり、私もバーゲンで人々が溢れる新宿を疾走した。

★   ★   ★

 夕方、家から電話。息子の声。
「男は泣いちゃいけないっていうけど、ぼく。泣いちゃったんだよ。パパがいなくて」

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