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4月1日(金)

秋葉原事件―加藤智大の軌跡
『秋葉原事件―加藤智大の軌跡』
中島 岳志
朝日新聞出版
1,512円(税込)
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 恐ろしい本である。ものすごく恐ろしい本だ。

『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』中島岳志(朝日新聞出版)

 秋葉原の歩行者天国にトラックで突っ込み、そののちナイフを振り回し、7人を殺し、10人に負傷を追わせたあの男の、まさに生まれてから今までの軌跡を追ったノンフィクションである。

 何が恐ろしいかというと、人間というものの、あるいは社会というものの恐ろしさが、この淡々と事実を伝える本によって、身に染みてくるからだ。

 この本を読む限り、彼の母親はたしかに過剰で異常ともいえる育児をしているが、彼自身は決して不幸には見えない。それどころか正直私より友だちがいるようにみえるし、職場の仲間にも恵まれているように思える。それでも彼は殺人を犯す。

 ただしこの本はその原因を母性やネットや派遣労働といったものに安易になすりつけるような本ではない。もっともっと大きな、社会や自己や他者やいろんなことを見つめさせてくれる本だ。著者が「是非、先を急がず、ゆっくりと彼の人生と向き合ってほしい。少しずつ立ち止まりながら、読んで欲しい」と書くような本だ。

 しかしおそらく読み出したらページをめくる手を止めることはできないだろう。
 それほど恐ろしい本だからだ。

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