« 2018年9月 | 2018年10月 | 2018年11月 »

10月15日(月)

 知人のツイートで知ったnote連載の古き良き時代のノンフィクション書籍編集者氏による「その出版社、凶暴につき 情報センター出版局クロニクル」を読む。涙があふれてくる。そうだった。自分は椎名さんや藤原新也さんの本を読みこのH山さんに憧れてこの世界に飛び込んだのだ。H山さんが後に設立した三五館には手紙と履歴書送ったこともあった。

 本の面白さを十代後半になって初めて知り、あの最後のページ閉じた瞬間のもう別世界にいるような気持ちを前に、自分も本を作りたい、自分がこうして本を読んで人生を変えられたように誰かの人生を変える本を作りたいと思ったのだ。いやそんな大それたことを考えたのではなかった。ただただ圧倒的な力のある本というものに関わって生きたいと願ったのだった。

 どうにか幸運にもこの業界の片隅に潜り込め、片隅ながらも最初はその想いのもと、必死に本と格闘してきた。

 それがいつの間にか今の自分に満足したり、他人の評価を気にしたり、うまく立ち回ろうとしたり、社内のくだらぬことに愛想を尽かしたりしてるうちに出版がすっかり仕事になっていた。

 毎月雑誌を出して、単行本の営業や編集をしているうちに、あの十代最後に本気で本気で苦しんで、寝ずに過ごした明け方に覚悟を決め、親に土下座して一年分の支払った予備校の授業料をドブに捨て、少しでも本の周辺に近づこうとした情熱や想いを見失ってしまっていた。情けない。

 自分なりには頑張ってきたつもりだったけれど、自分なりなんて言い訳に過ぎない。本当に人の気持ちを揺さぶる本を作り、売ることができる人間は、こんなもので満足するものじゃない。一生満足なんてしないのだ。

 こんな惰性で生きるくらいなら、大学に行ってふつうに就職してたって何にも変わらなかった。自分はあの時、仕事を選んだんじゃない。生き方を選んだはずなのだ。

 両頬を思い切り叩かれ倒れたところを腹蹴りされた気持ちで、何度も何度も「その出版社、凶暴につき」を読み、何度も涙を流す。

 原稿の向こうで十代の自分が睨みつけている。すまなかった。こんなもんじゃない。こんなもんじゃない。

10月14日(日)

「父ちゃん!」

 グラウンドでは聞きなれない言葉が耳に入る。顔を上げると部活が休みで私の試合についてきた中二の息子が手を挙げ、スペースに向かって走っている。

 幼稚園の運動会では圧倒的なビリッケツ、小学校の少年団では6年間ベンチを守っていた息子が今や中学の部活でレギュラーをつかみ取ろうとしている。続けて入ればいればいつか大きくジャンプする時がくるのだ。もはや私よりずっと上手い。たぶん中二の時の私よりも上手い。

 息子が走り込んでいるスペースは私にも見えていたのだ。

 バスを出す。

 息子に繋がればあとはシュートを打つだけ。今の息子の技術なら簡単に決められるはずたった。

 しかし一呼吸遅れたボールは相手選手にカットされてしまい逆襲を食らう。やばいと思った時には相手の背中を息子は追いかけていた。そして身体を入れてボールを外に出した。

 プレイが切れたので、息子にごめんと声をかける。息子は汗をぬぐって、親指を立てた。

10月13日(土)

  • サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う
  • 『サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』
    智彦, 鈴木
    小学館
    1,742円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • 文庫 貸本屋のぼくはマンガに夢中だった (草思社文庫)
  • 『文庫 貸本屋のぼくはマンガに夢中だった (草思社文庫)』
    裕, 長谷川
    草思社
    990円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

 午前中、体調悪し。15キロほどランニングしてるうちに回復。

 Jリーグもプレミアリーグも代表WEEKのため何もすることがなく、午後はベットの上で過ごす。鈴木智彦『サカナとヤクザ』(小学館)、長谷川裕『貸本屋のぼくはマンガに夢中だった』(草思社文庫)読了。

10月12日(金)

 編集の高野に頼まれ撮影の車出しの予定だったのだが、朝からビシャビシャと雨が降り、自宅待機。しばらくすると撮影中止との連絡が届く。

 遠田潤子『ドライブインまほろば』(祥伝社)読了。タイトルだけ見たら書き下ろし文庫のほっこり系かと思うけど、遠田潤子がそんな話を書くわけはなく、相変わらず野茂英雄のトルネード投法並みの常識外のモーションから豪速球の物語を投げつけてくるのであった。

 これだけ期待値が高くなっているのにそれを充分満足させる最新刊。いやはやもう脱帽というか、バットを一ミリも動かすことが出来ずに茫然自失の見送り三振だ。

 それにしてもこの人が書いている小説はどう表現すればいいのだろうか。イヤミスというジャンルががあるけど、イヤ家族小説と呼べばいいのだろうか?

 登場人物全員が大きなマイナスを背負っており不幸のどん底の中でギリギリ暮らしているにも関わらず、マイナス×マイナスがプラスに転化するかのごとくほんの少しの幸せを手に入れる様に安堵する。遠田潤子にしか書けない、まさに遠田ワールド。

10月11日(木)

  • 水の匂いがするようだ 井伏鱒二のほうへ
  • 『水の匂いがするようだ 井伏鱒二のほうへ』
    野崎 歓
    集英社
    2,420円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う
  • 『サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』
    智彦, 鈴木
    小学館
    1,742円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

 雨。娘を車で駅に送る。その後、合羽を着て自転車で駅に向かう。昨日の棚詰めのせいか内腿が若干筋肉痛。

 午前中は「本の雑誌」の座談会に立ち会い、午後は大阪より初出店する140Bの代役として神保町ブックフェスティバルの説明会に参加。同じく初出店の八角文化会館の編集長Iさんと当日の打ち合わせもする。

 あれもこれもやらねばと思っているのだけれど、デスクワークは進まず。気づけば週末から始めてみようと考えているパン焼きのことを調べてしまう。発酵機というのを購入しないとできないのだろうか。

 夜、飲み会までに時間があったので本屋さんに行って、本を買い求む。高野秀行さんから「杉江さん、井伏鱒二が好きじゃなかったでしたっけ? 野崎歓先生の井伏鱒二エッセイの新刊、すごくいいですよ」と薦められていた『水の匂いがするようだ』(集英社)と下半期ノンフィクションの話題作となるであろう鈴木智彦『サカナとヤクザ』(小学館)、そして今や最も新刊が待ち遠しい作家である遠田潤子の『ドライブインまほろば』(祥伝社)を手にする。

 某鳥料理屋にて、取次店さんの人たちと「どうしたら文芸書が売れるか」語り合う。本屋大賞を作った頃を思い出す。

 夜遅く帰宅すると中二の息子が勉強していた。何やら明日が中間テストらしい。

「学校の勉強なんてしないでいいぞ」と肩を叩くと、「パパの時代とは違うんだよ。今はね、いい高校に行って、いい大学に行って、いい会社に入らないと幸せになれないんだよ」と反論される。

 もう少ししたら何が「いい」のか悩むだろう。それこそが勉強だ。

10月10日(水)

 直行で津田沼の丸善さんへ。ただいまほぼ全面改装の大規模なリニューアル中で、本日は文庫の棚を移動すると聞き、日頃お世話になっている店長Sさんに恩返しすべく手伝いに行くことに。というかどんなリニューアルをされるのか好奇心でしかないのだけれど。

 棚や平台に並んでいる文庫本をブックトラックに載せて、新たに設置された棚に並べるだけのことなのだけれど、背伸びしたりしゃがんだり、あるいは5冊10冊の本を鷲掴みにしたりとで、まるで野球のキャッチャーをしているような重労働なのであった。本を作るのが大変? いやいや並べるのはもっと大変です。

 ハヤカワ文庫(トールサイズのせいで棚板をハメ直すことに!!!)、創元推理文庫、平凡社ライブラリー、白水uブックス、文庫クセジュ、冨山房百科文庫を並べ終えたところで16時半。まだまだ作業を続ける店長Sさんやお店の人たちに後ろ髪を引かれながら、今晩、山本貴光さんと円城塔さんのトークイベントをする渋谷のHMV BOOKS SHIBUYAさんへ向かう。満員御礼。担当Yさんの完璧な応対と進行に感動す。たくさん本も売れて、幸せな気分になる。ただし疲労困憊のため打ち上げには参加せず、帰宅。

 気づけば、朝、家を出た7時半から帰宅する22時半まで昼食をとっていた30分以外はずっと立ち放しだったので、さすがにサッカーやランニングで鍛えている足もパンパンに。息子にマッサージしてもらっているうちに寝落ち。

10月9日(火)

  • サバイバルボディー:人類の失われた身体能力を取り戻す
  • 『サバイバルボディー:人類の失われた身体能力を取り戻す』
    スコット・カーニー,小林 由香利
    白水社
    2,420円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

 三連休明けで健やかな気分で出社すると事務の浜田が眉間に皺を寄せ、頭から煙とツノを出して怒り狂っていた。何やら自分にはまったく関係ない仕事のトラブルに巻き込まれ三連休はおろか、楽しみにしていた今年最後の神宮球場での野球観戦もままならなかったらしい。かわいそうに。着信拒否と迷惑メールの設定の仕方をアドバイスする。

 先週搬入した新刊、坪内祐三『昼夜日記』の追加注文が立て続けに入り、浜田の機嫌も若干回復。近場の本屋さんには早速直納に向かう。

 午後、営業。千駄木・往来堂書店の店長Oさんに神田村の某取次店の自主廃業をお伝えする。

 帰宅後、『サバイバルボディー』スコット・カーニー(白水社)を読み進める。あるトレーニングを積んだ上、雪積もる山を裸で登っていったり、人類が本来持っていたであろう身体能力を解き明かしていく。面白い!

10月8日(月・祝)

 昨夜ベッドに入り、タイトルとカバーに惹かれて購入していただけで特に期待もせずに読み始めた白岩玄『たてがみを捨てたライオンたち』(集英社)があまりにおもしろく、結局本を閉じることができず朝までかけて一気に読んでしまった。眠いけど、幸せ。読書の醍醐味。三連休でよかった。

 子どもができてイクメンと呼ばれるような日々を送っているにも関わらず仕事ではぱっとせず悶々としている直樹、数年前に離婚したものの広告代理店勤務でお金にも女性にも困ることもないのになぜか物足りなさを感じている慎一、コンプレックスの塊でまったくモテずにアイドルオタクとなった幸太郎の三人の男性が、それぞれの男女関係から自分を見つめ直す小説なのだけど、この十数年、自分の中にあったモヤモヤした想いが、すべてこの小説の中に描かれているのであった。

 父性や父権が崩壊し、村上龍が「すべての男は消耗品である」と言ってから30年が経ち、その間にまさにたてがみを失ってしまった男たちは、現代においてどう生きていけばいいのか。脇役に至るまでのそれぞれの登場人物がしっかり描かれており、またユーモアと感動のバランスも完璧。年末ベストに必ず入ってくるであろう傑作だ。

 昨日の不調は嘘のように消え去り、朝ラン15キロ。
 シャワーを浴びて、DAZNでマンチェスター・シティー対リバプールを観る。PKスポットにマフレズが立った時に「なんでお前が!」と叫んでしまったが、ボールは大きく枠を越えて消えていく。無念。

 昼は子どもたちにはラーメンとチャーハンを作り、自分はきしめんを茹でる。

 午後は某広報誌に頼まれた原稿を書いた後、DAZNでチェルシー対サウサンプトンを観る。アザールのステップを真似しにボールを持って空き地へ行く。当然できず。

 日暮れ時に近所のツタヤへ。雑誌があって、コミックがあって、文庫があって、ガイドがあって、単行本があって、そんな普通の本屋さんが近所にあることを幸せに思う。

10月7日(日)

  • 肉まんを新大阪で (文春文庫)
  • 『肉まんを新大阪で (文春文庫)』
    昌克, 下田,洋子, 平松
    文藝春秋
    704円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • ひつじ村の兄弟 [DVD]
  • 『ひつじ村の兄弟 [DVD]』
    シグルヅル・シグルヨンソン,テオドル・ユーリウソン,シャルロッテ・ボーヴィング,ヨーン・ベノニソン,グヅルン・シグルビョルンスドッティル,グリームル・ハゥコーナルソン
    ギャガ
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

 すこぶる体調悪し。力が入らず、だるい。頭が重い。台風が過ぎ去った気圧の変化だろうか。何もする気が起きないのだけれど、これほどの晴天の中、何もしないでいると気分がどんどん塞がっていき、より体調不良となりそうなのでランニングへ。しかし吐き気がしてきたので5キロほど走ったところで帰宅することに。シャワーを浴びて、とぼとぼと図書館へ。

 近所の図書館は、おそらく日本一サッカー本が充実した図書館なのであるけれど、目当てのペップの本はすべて貸出中。みんな「ALL OR NOTHING MANCHESTER CITY」を観たのだろう。仕方なく今夜戦うクロップの本を借りる。昼ごはんを作る気力がわかず、スーパー「ヤオコー」で弁当を買って帰る。

 1時よりDAZNにて浦和レッズ対ベガルタ仙台を観戦。そう簡単に強くなれないのがサッカーか。ナバウトの復活がうれしい。

 その後、ベッドに横になり、昨日読み終えた平松洋子さんの『肉まんを新大阪で』(文春文庫)で紹介されていた「ひつじ村の兄弟」をPrimeVideoで観る。つい先日『羊飼いの暮らし』を読んだばかりなので、その暮らしぶりがよくわかり、またアイスランドの景色の美しさに癒される。

 夜、DAZNにてマンチェスターユナイテッド対ニューカッスルを観つつ、ベッドで過ごす。

10月6日(土)

 朝ラン、10キロ。娘は大学受験の模試へ、息子は中間テスト対策で塾に行ってしまう。

 サッカーバカ仲間のキリちゃんから教わった昨シーズンのマンチェスター・シティーを追ったドキュメントが観たく、AmazonのPrime会員になる。さっそく「ALL OR NOTHING MANCHESTER CITY」を見つけ見始めるも、なんとこれ約50分×8本立てだったのだ。しかし途中でやめるなんてことは当然できず、結局半日使って第8話「勝ち点100への挑戦」まで一気に観てしまう。マイナスなシーンは取り除かれているとしてもこれほどクラブチームに迫ったドキュメントがこれまであっただろうか。1998年のフランス代表を追ったドキュメント(あれはどこかでパッケージ化されていないのだろうか)とともに傑作サッカードキュメントだ。

 夜、某広報誌から頼まれている原稿を書く。

« 2018年9月 | 2018年10月 | 2018年11月 »