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1月6日(月)〜1月10日(金)

1月6日(月)

 仕事始めと言うからつい下を向いて電車に乗るのも嫌になってしまうのであって、ここはひとつ仕事キックオフと言いかえてみる。これから始まる八時間いったいどんな試合展開が待っているのかー!!って気分を盛り上げようとするも、あまり効果なく、どうやら「仕事」という言葉が私をブルーに引きずり込んでいるようだった。我らがマルティノスのように「帰りたくない」と京浜東北線の車中でつぶやいてしまう。

 浜田、高野、小林、松村と新年の挨拶(出社順)。編集発行人の浜本は今日まで休みらしい。

 コンクリートの床や壁が冷え切った社内で「浜田寝るなよ!寝たら死んじゃうぞ!」と凍傷の心配をしつつ、溜まっていた郵便物やFAXを仕分け。取次店さんに電話を入れ、「本の雑誌」2月号の部数確認。二軒の本屋さんから閉店の連絡が届く。絶望。新年の挨拶で伺った書店員さんからもこんな言葉がこぼれ落ちる。

「最近、書店員でいられてることが奇跡みたいって思うのよね」。

 それは私もまったく同感で、よくこんな状況下で本の仕事を続けてられるなと感じるのだった。本の近くで暮らしていけてることに、ただただ感謝の想いしかなく、昨年の仕事納めの日には御茶ノ水から西日暮里まで歩いて帰りながら自然と涙があふれてしまったほど。

 いい年になるとはなかなか思えないが、本の周りがいい年になりますように。



1月7日(火)

『ごろごろ、神戸。』平民金子(ぴあ)読了。エッセイを読む喜びがすべて詰まった一冊。現代の日常エッセイの最高峰。帯には"異色"とあるけれどエッセイとしては王道中の王道、2010年代後半の街や景色や心情を、時にユーモアを交え、時に詩情豊かに、平静な眼差しで綴られている。

 昨年より御茶ノ水店に異動になられた丸善のSさんとランチ。これまでのお付き合い史上最も近くにいらっしゃるわけで、こんなに心強いことはない。これから頻繁に本のことや販売のことで相談にあがるべし。

 その後、千駄木の往来堂書店Oさんと『本を売る技術』の出版イベントのご相談。こちらも大変頼もしく、やはり大切なのは、まさに"本を売る技術"をもった書店員さんの力なのであった。その力なくして、本が読者に届くことなし! という想いを胸に『本を売る技術』をこの世に生み出す。



1月8日(水)

「本の雑誌」2020年2月号搬入。今号より「その出版社、凶暴につき」の集中連載がスタート。

 高野秀行さんと辺境ドトールで打ち合わせ。データのやり取りがあったのでノートパソコンを開いて、「さすが僕たちIT作家とIT編集者ですね」と胸を張っていると、なんと高野さんが私のパソコンのないはずのところにUSBを挿そうとする。思わず大爆笑していたら、あらま!? まさかこんなところにUSBポートがあったのかっ!!

 2020年を迎え、高野秀行さん、本当にIT作家に生まれ変わっていたのであった。



1月9日(木)

 引き続き、新年のご挨拶と営業。年末年始はわりと売上のよかった書店さんが多く、会話も弾む。やはり営業は楽しい。

 ただし消費税アップからのキャッシュレス決済の増加には、手数料やキャッシュフローの問題で頭を抱えている様子。またまた書店さんだけが苦しめられる問題になりませんように。



1月10日(金)

 今年初のスッキリ隊出動のため、朝8時に高田馬場駅へ。スッキリグリーンの立石書店岡島さんの運転するワゴン車でスッキリイエローの古書現世向井さん、スッキリブルーの浜本とともに依頼主が待つ藤沢へ向かう。今回は庭に建てられたおよそ三畳ほどの書庫を完全整理。

 いつものように浜本がお客様と本の思い出を語り合っている間に、岡島さんと向井さんがどんどん紐で縛り、私がその本を車に運ぶのであった。外での作業ながら気づけば汗が額を流れ、ダウンやトレーナーを脱いで、シャツ一枚で勤しむ。身体を使う仕事はなんて心地よく楽しいのであろうか。

 そして作業している間や道中での岡島さんや向井さんとの会話の楽しいことといったら。同じ本の世界にいるとはいえ、新刊と古本ではまったく別の世界であり、その別の世界のことを聞くのがたいへんたいへん幸せな時間なのであった。

 世の中多くのことがお金で計られることが多いけれど、私はこの向井さんや岡島さんとの会話、あるいは日々書店さんや著者の方などから伺える話ほど財産はないと思っている。お金には変えられないプライスレスで大切なことだとひしひしと感じているのだった。

 帰路の車中でまた二軒の書店さんの閉店の連絡が届く。

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