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1月5日(火)

 2021年、仕事始め。

 今年こそはこの日記を毎日書くことと、出版営業マンが定年までに言いたい言葉ランキングベスト3である

第1位 もうお金刷ってるのと変わらないですよ。
第2位 紙が間に合わないんです。
第3位 取次の人が取りにきた。

 が言えるよう、本作りと営業に勤しむのを目標とするのであった。

 というわけで、緊急事態宣言間近であるというのに相変わらず人多く乗る電車に揺られ、やる気満々で出社すると、どうやら社員一同やる気満々で新年を迎えたらしく、11時には定員オーバーとなり、あえなくまったく会社にいる必要のない私が外に出ることになったのである。

 寒空の元、バリバリだったやる気は一気にしぼんだものの、神保町の交差点で自転車にまたがる青土社の営業エノ氏と会い、「やばいっすよ。三省堂書店さんでやっていただいてる年末年始のフェアでうちの本売れ売れですよ!」と強烈な営業魂を見せられ、こちらのやる気も再点火す。新年最初にいただいた注文『暗がりで本を読む』を届けに東京駅の丸善さんに向かう。

 その後、年末お会いできなかったしまぶっくの渡辺さんのところへご挨拶に伺い、様子を見ながらあちこちの書店さんにも顔を出す。すると同様に年始の挨拶に来ている顔見知りの営業マンとも会い、やはりまた本が売れた売れないで一喜一憂どころか千喜万憂する毎日が始まった実感が湧いてくる。

 まあ、来週にはこうして外回りができるかわからないし、そもそもお店が開いているのかすらもわからないのだけれど、とにかく今できることをやっておくしかないというコロナの中の暮らしが続いているのだ。

 家に帰るとネットで注文していた神崎宣武『包丁人営造の修行時代』(河出書房新社)が届いており、ほくほくする。

 神崎宣武氏は現在私が最もハマっている民俗学の書き手であり、そもそもは昨年12月に駒込のBooks青いカバさんに直納に伺った際、店頭の均一台で『盛り場のフォークロア』を手にし、それを読んですっかり魅了され、それから『わんちゃ利兵衛の旅』『大和屋物語』『聞書き遊郭成駒屋』『盛り場の民俗誌』『江戸の旅文化』とその著作を買い漁っているところなのだった。

 こうして思いもよらぬ偶然からお気に入りの本と出会い、その著者略歴から他の本を手に入れ、その著者の本が本棚に一冊一冊増えていく喜びは何事にも変え難い。

 また均一台には、2つの喜びがあり、一つは古書価のついているものを思わぬ安さで買えたときの相対的な喜びと、もう一つは古書価はついていないものの自分自身にとってはいくら出しても足りないくらい素晴らしい本との出会いという絶対的な喜び。

 おそらく神崎宣武の著作は後者になると思うのだけれど、私にとって希少価値や金額的評価よりも、最も興味のある分野を読みたい文章で綴られている本と出会え、読めることの方が満足度が大きく幸せなのである。

 帰り際にお参りした神社でおみくじを引いたら「中吉」だった。

「冬の荒波にも似た辛苦も過去のものとなろう。待てば海路の日和みありとか」

 最後についた「とか」が若干気になるものの、ついに私の身にも「もうお金刷ってるのと変わらないですよ。」の時代がやってくるのか。乞うご期待。

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