第3回「嗚呼!! 素晴らしきギャグマンガの世界」

Page 1 『天才バカボン』は天才の手で生まれた...のだ!!

『天才バカボン』は天才の手で生まれた…のだ!!

天才バカボン (1) (竹書房文庫)
『天才バカボン (1) (竹書房文庫)』
赤塚 不二夫
竹書房
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「ギャグとは何か?」。ギャグマンガについて語るときに、この命題から逃げるわけにはいきません! なぜなら劇画など一部の作品を除いて、現代のマンガ作品にはどこかしらに必ずギャグの要素が入ってきているからです。ひとくくりに「ギャグ」といっても、そこには風刺、ナンセンス(不条理)から共感(あるある)モノに、ダジャレやパロディ、下ネタまで、細分化すればキリがない。逆説的に言えば、ギャグマンガとはそれほど広いフィールドを網羅する、まさに本質とも言える部分に特化したマンガなのです。

となると、やはり『天才バカボン』をまず挙げなければなりません。その少し前に『おそ松くん』でブレイクした赤塚不二夫による、日本のギャグマンガ至上に残る超名作です。アニメしか見たことのない方にも、ぜひマンガで読んでいただきたい。というのも、バカボンにはおよそ考えられる限り、すべてのギャグの要素が盛り込まれているのです。

30代以上の方には説明するまでもないでしょうし、20代以下の読者もそのキャラクターくらいはご存じでしょう。『天才バカボン』というマンガはそのタイトルにも関わらず、主役は「バカボンのパパ」。もうこの時点で不条理きわまりない。「ダジャレ野球はキビシイのだ!!」という回では標題の通り、ダジャレがてんこ盛りですし、後期に登場する「おまわりポリ公のダジャレ合戦」シリーズでは、タイトルにまで風刺を盛り込んでいる。もともと赤塚不二夫というギャグマンガ家は風刺ネタが大好きだったようで、バカボンパパが理解不能な事態に直面したとき、当時参議院議員だった青島幸男を揶揄するかのように、「国会で青島幸男が決めたのか!?」と不思議がるという定番のギャグもありました。しかし赤塚不二夫という作家のギャグセンスは、作中だけにとどまるものではなかったといいます。

実は赤塚不二夫は、生きるギャグだった…のだ!!

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例えば『天才バカボン』連載中の話として、こんな話を聞いたことがあります。いつものように原稿を受け取りに現れた編集者に、バカボンのパパとママのSEXシーンが描かれた原稿が渡されたというんです。当然仰天した編集者は「少年誌にこんなものを載せられるか」と猛抗議。対してアシスタントも含めた赤塚サイドは「このシーンがあるからこそ、このギャグがいきるんだ」と真っ向勝負......。というのは、実はフリでしかなく、このやりとり自体が赤塚のイタズラで、他にきちんと掲載用の別原稿を用意していたというんです。週刊誌に毎週3本の連載をするという激忙ぶりなのに、「これは面白い!」と思いついてしまい、やらずにはいられなかったんでしょう。編集者はもちろん、イタズラに加担したアシスタントたちですら「そんな時間があるなら、本当の原稿をもっと早く描けばいいのに」と唖然としたという見事なオチまでついています。

赤塚不二夫という人は生き様自体がギャグそのものと言ってもいいほど、ギャグになるエピソードが数限りなくあります。九州から連れてきた素人時代のタモリや、由利徹の弟子であるたこ八郎を自宅に居候させ、自らは事務所暮らし。自分の"先っちょ"にラー油を塗っては「ダメ。ラー油はやめた方がいい!」と、もがき苦しんだこともあると言います。さらには担当編集者を「線路に寝かせて、電車に轢かせようとした」揚げ句、「そうしたらすごい暴れるの」と、誰がどう見ても「当たり前だろ」とツッコミを入れたくなるような暴挙まで。時代もあるのでしょうが、まさに生きるギャグ。現在、大御所とされる"クリエイター"の人々が霞んでしまうほど超クリエイティブなアイディアの数々には脱帽というほかありません。アイディアをストックすることなく毎週ゼロから作りあげたという珠玉のギャグの数々は、いまも燦然と日本のギャグマンガ史上に輝いています。

その最終回まで徹頭徹尾、ギャグであることを貫いたのも赤塚不二夫というギャグマンガ家の素晴らしいところです。マンガ版バカボンの最終回は、いつも通りのナンセンスギャグで普通に終わる。『いきなり最終回』という、いろいろなマンガの最終回ばかり集めた宝島社の書籍でご本人がその理由を語っている。「『天才バカボン』というマンガはギャグマンガ以上でも以下でもない。だから最終回もいつも通りのバカボンで終わりたかった」ということを言っている。ギャグとは何かを知り尽くしているからこそ出てくる、大変ロックなセリフと言えるでしょう。

他のインタビューでも「ナンセンスというのは本当にナンセンスをわかる人じゃないとわからないんだよ。難しい」と哲学的なような、単に酔っぱらっているだけのようなコメントを口にするあたりも、まさにナンセンスのカリスマ(笑)。才能の枯渇しがちなジャンルにおいて、汲めども尽きぬギャグの泉を湧かせ続けた赤塚不二夫――。一周忌も近くなりましたが、そんなときこそ赤塚作品でバカ笑いする。思いを傾けるならそんな追悼スタイルを故人は望んでいるような気がします。

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