第8回「そこにある“リアル”を描くマンガ家たち」

Page 1 超現場主義から生まれるリアル――山本英夫

超現場主義から生まれるリアル――山本英夫

新・のぞき屋 第1集 (ヤングサンデーコミックス)
『新・のぞき屋 第1集 (ヤングサンデーコミックス)』
山本 英夫
小学館
524円(税込)
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いつの時代もマンガには、現実という限界を飛び越える世界を描き出してきました。一方、説得力ある作品には、そのどこかに強烈なリアリティが盛り込まれています。圧倒的な説得力で読者をひきつけるリアリティはどこから生まれ、作中のどこに反映されるのか――。

この連載の第2回目「時代の空気を感じるマンガ」の回でも触れましたが、山本英夫という作家の取材力――というか取材にかける情熱には頭が下がります。現代社会の裏側や暗部をのぞき込み、作品に反映していく。

「のぞき屋」「新・のぞき屋」シリーズの執筆前には、探偵学校に入学するだけでなく卒業までしたそうですし、「殺し屋1」では作中に登場する"ヤクザマンション"のモデルとなった歌舞伎町のマンションに数ヶ月間滞在し、「ホムンクルス」では西新宿でホームレス生活まで体験した。そうしたディテールがこの人の作品にはあちこちに登場するのです。

すべての土台は、体感することにある

殺し屋1 第1巻 (ヤングサンデーコミックス)
『殺し屋1 第1巻 (ヤングサンデーコミックス)』
山本 英夫
小学館
525円(税込)
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しかもその描写がほとんどの作品で第1話から盛り込まれている。「新・のぞき屋」では第1話の1ページ目で盗聴アイテムの描写から始まっています。「殺し屋1」にも1話目で"ヤクザマンション"の説明がなされていますし、「ホムンクルス」にもやはり第1話にホームレスの食事のシーンが描かれています。連載のド頭から説得力あるシーンで読者を引きずり込んでいく。

以前、英夫さんと話したときに、「ホームレスってさ。案外いいもん食べてるんだよ」と言っていましたが、まさに事実は小説より奇なり。イメージや想像だけでそこにあるリアリティを描き出すのは難しい。実体験は何よりも強固なリアリティを持って読者に届きます。「殺し屋1」や「ホムンクルス」といった、現実離れしたマンガでこそディテールが持つリアリティは重要な要素になってくる。山本英夫というマンガ家はそんな人間心理を実に深く理解している作家なのです。

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