マキタスポーツさん

矢沢永吉さんや長渕剛さんのマニアックなモノマネで知られる、マキタスポーツさん。"ネタのできるミュージシャン"であり、ロックバンド「マキタ学級」を率いるピン芸人でもある。浅草キッドをはじめ、多くの業界人を唸らせてきた異才が選ぶ一冊とは―――。

野生児が読書に目覚めた瞬間

まったく本とは無縁だった少年時代

浅草キッド・水道橋博士をして「才能が渋滞している」と言わしめた、マキタスポーツさん。著名アーティストになりきり、オリジナルソングを歌う「作詞作曲モノマネ」をはじめとする“音楽ネタ”を得意とする。楽曲の背景にある“思想”そのものを抽出し、再現する。その卓抜した眼力とセンスを育んだ一冊とは――。

「本を読むようになったのは大学時代ですね。それまでは、まったく本とは無縁。本を読むより、木登りをしているほうが楽しいような子どもで、小学校6年間でまともに1冊も読んでないんじゃないかな。読書をするよう、しつこく言われて、しぶしぶ『一休さん』を読んでいるフリをしたんだけど、その本が逆さま。そんなマンガみたいな出来事もありました」

バブル景気に取り残され、読書に目覚める

おとなしく本を読む時間があったら、外を駆け回っていたい。そんな少年時代を送ったマキタスポーツさん。しかし、大学進学をきっかけに生活は一変する。

「当時はバブル景気の終わり頃で、世の中全体が浮かれていた。僕自身も『俺もチャラチャラしようぞ!』と意気込んで上京したわけです。でも、全然ダメ。海外旅行や車の話ばかりしている同級生たちに、まったくなじめませんでした。時期を同じくして田舎から出てきた地元の友人と、ブルースを聴きながら『日本の音楽なんてダメだね』『何がイカ天だ。時代と寝やがって!』と夜な夜な語りあう。そんなイヤな大学生でした」

最初に手にとったのは、泉麻人さんのテレビ評。また、中沢新一さんや浅田彰さんの本も購入していたという。

「引きこもってテレビを見たり、ラジオを聴いたりするような生活をしていたので、なじみやすかったんでしょうね。中沢新一さんや浅田彰さんは当時すでに人気があって、“文系のスター”のような存在でした。その本の内容は僕には難しくて、最後まで読み切れない。でも、一応買うし、読み始める。当時、自分をとりまく“世間”とは何なのかを知りたくても、なまじプライドが高いから周囲には聞けなかった。それも読書に向かう原動力になっていたのかも」

本も音楽も“理系的な骨子”に惹かれる

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「クイックジャパン」(太田出版)などで、コラムも手がけるマキタスポーツさん。“文系的な領域”で仕事をする上で、影響を受けた相手として名前が挙がったのは意外な人物。戯作者であり、エッセイストでもある別役実さんだ。

「とくに好きなのは『もののけづくし』や『けものづくし』といった“づくしシリーズ”ですね。別役さんのエッセイは文章の構成が非常に理系的。そこには、さまざまなトリックが仕掛けられている。アカデミックな口調で語られる、おとぼけ。不親切を装いながらごく丁寧に物語を紡ぐ。筒井康隆さんや星新一さんのショートショート、清水義範さんのパスティーシュ集にも通じる“理系的な骨子”が好きなんでしょうね。そこにはイリュージョンのような“見えざるリアリティ”がある」

ボキャブラリを増やすといった、意図的な文章修行をしたことはない。だが、文章を読めばその「構造」や「文体」が気になり、その背景にある“ロジック”を知りたくなるという。

「音楽を聴いていてもそうですよ。これは多分、癖のようなもの。僕がギターを惹き始めた1980年代半ばはヘヴィメタルが大人気で、早弾きがすごく流行っていた。でも、僕は雑誌『明星』の付録だったYOUNG SONG(ヤンソン)で覚えたコードで当時の邦楽を弾くほうが楽しかった。『桑田佳祐という人は、このコードが来たら、次はこのコードに行くな』みたいなことを思いながら、ごく限られた友人だけにで歌ってみせていた。高校生くらいの頃には、今やっているネタのようなことをしていましたね」

絶賛し始めると避けたくなる。だが例外もあった。

流行りものも、他人に勧められるのも苦手。みんなが「いい!」と絶賛し始めると避けてしまう性分だというマキタスポーツさん。唯一の例外は、水道橋博士さんだとか。

「博士は“活字ラブ”の勢いがハンパじゃないんですよ。『××を読むといいよ』ではなく、『読め』といって、本を渡してくる。自分の本ならまだしも、他人の書いた本をわざわざ買って渡す人なんてそうそういないですよ。実際に博士が薦める本は面白いんですが、それ以上にその“熱”が信用できます」

時間があるときは、日がな1日本屋巡りをする。「腰が悪いのは立ち読みのしすぎなんじゃないか」と笑う。

「面白い本に出会うと、立ち読みでほとんど読んでしまったりする。あるとき、人文書コーナーでごくごく生唾を飲みながら読んでいる自分に気づいて、本当に恥ずかしかった。不思議なもので、買って帰ると、あまり読まない。かといって本は捨てられないし、気持ち的に売ることができない。“積ん読”の状態のままになった本の山がたくさんあります」

良書との出会いには自己投資が必要

まとまって本を読む時間はとれるようで、なかなかとれない。その一因になっているのがインターネットでのやりとりだとか。

「以前は自宅から仕事に向かう移動時間を読書にあてていたんです。でも、最近はメールのチェックに加えて、ツイッターなんか始めてしまったものだから、まとまった時間をとりづらくなっていますね。インターネットに限った話ではありませんが、物事は良き面と悪き面がある。簡単に情報を摂取できて、リリースできる環境が整うことで、じっくり本を読み込む機会が減っているのかもしれない」

それなりに時間とお金を投資しなければ「どんな本が一番面白いのか」という疑問の答えは見つからないというのが、マキタスポーツさんの持論だ。

「読書に興味が沸いたら、やみくもに読み始める。一見遠回りのように見えるけれど、じつはそれがいちばんの近道なんですよ。例えば、僕は1000ページ単位の分厚い本は読まない。読んでも集中しきれないということを過去に何度も経験し、自分の器ではないと知っているから。いきなりゴールを目指すのではなく、試行錯誤する。自分にとって読みやすいものは何なのかを探すと、おのずと読書の愉しさを体感できるようになるのではないでしょうか」

オトコの課題図書。それは『浅草キッド』だ

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『浅草キッド (新潮文庫)』
ビートたけし
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無数の本との出会いによって、男としての器は磨きをかけられ、深みを増していく。オトコなら一度は読んでおきたい“課題図書”とはどのような本なのか。

「しいて一冊をあげるとしたら、ビートたけしさんが浅草フランス座での下積み時代を綴った自伝エッセイ『浅草キッド』です。あの本を読むと、たけしさんがお笑い芸人でもなければ、映画監督でもないことがよくわかる。行動のひとつひとつが発明的であり、ベンチャー。名も無き青年の成長の物語であると同時に、夢だのなんだのとウットリしていて、好きなところにチャンスがあると思うなよ、という強烈なメッセージが秘められている一冊でもあります」

プロフィール

今年2010年は東スポ映画大賞・ビートたけしのエンターテインメント賞にて第一回『期待賞』受賞を皮切りに注目をあつめ始めた。三浦大輔監督作品「ボーイズ・オン・ザ・ラン」や北野武監督最新作映画「アウトレイジ」にも出演、印象に残る役を見事演じきり、今年は役者としても飛躍が楽しみな逸材だ。
更にはミュージシャンとしても自身初となるネタアルバムCD「オトネタ」をリリース。
レコ初記念として行った単独ライブ「オトネタ2」では入場できない客が続出するなど早々とチケットソールドアウト。
音と芸を融合させた新しい[カタチ]を貫くマキタスポーツに益々期待が膨らむばかりだ。

著作紹介

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