プチ鹿島さん

政治や芸能、プロレスなど幅広い分野の出来事を時事ネタに絡め、"時事芸人"の異名を得たプチ鹿島さん。そんな独特のキレとコクがある面白さは、ラジオや雑誌コラムで評判に。そんな独自の切り口で世の中を笑いに変換するプチ鹿島さんの原型を作った一冊とは――。

メタからベタへ

本から広がる自分の話芸

最悪 (講談社文庫)
『最悪 (講談社文庫)』
奥田 英朗
講談社
946円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> ローソンHMV

本サイトのメルマガ「プチ鹿島の思わず書いてしまいました!!」の名物コーナー「この本はこう読め。」で、さまざまな本を紹介し、自分の見立てを披露。プチ鹿島さんにとって、本は自分の表現をするためのツールだという。

「メルマガをやるなら僕を知らない人でも楽しめる内容で勝負したいと思ってたんですよ。それでこのサイトは本がテーマだから、本を読み解いてみようと思ったんですね。本をきっかけに何かを解釈する。それでやってみたら時事ネタを一冊の本から解釈することから、同じテーマの二冊の本の違いを解釈したりする面白さがあることに気付きました。僕にとって、本はそれ自体に影響されるものではなく、自分の見立てや考えを飛躍させるものになってますね」

昨年10月に開催した単独ライブでも本の読み比べを披露し、大ウケ。このメルマガがきっかけにしゃべり芸の幅が広がったと言うが、メルマガのネタ本読破のためにプライベートで本を読む時間がなかなかないんだとか。 唯一好きな小説家もいるが、そのきっかけは意外な出来事だった。

「小説って面白くなかったらどうしようと思っちゃって、全然読まないんです。でも10年以上前、僕の後輩に、“最悪”ってあだ名の芸人がいたんですよ。それでそいつの誕生日プレゼントに、たまたま奥田英朗さんの『最悪』を見つけたんでシャレでプレゼントしたんですよ。後日、そいつが絶賛していて、悔しくなって没収して読んでみたら『面白いな!』と思ったんです。それで好きになりましたね。奥田英朗さんの新作は必ず読んでます」。

報道を楽しむようになった一冊の本

幻影(イメジ)の時代―マスコミが製造する事実 (現代社会科学叢書)
『幻影(イメジ)の時代―マスコミが製造する事実 (現代社会科学叢書)』
D.J.ブーアスティン
東京創元社
2,376円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> ローソンHMV

メルマガでは、時事ネタそのものだけでなく、ときにマスコミにも言及するプチ鹿島さんだが、そこには大学でジャーナリズムを学び、一冊の本に出会った過去がある。

「大学は、専攻が放送学科だったんですよ。この頃からやっと本を読むようになったんですけど、そこで出会ったのが、この『幻影(イメジ)の時代』って本なんです。40年以上前に出版された本ですけどマスメディア研究の名著なんです。この著者はニュースを“擬似イベント”と名付けているんです。要はマスコミが人工的に作るイベント、例えば政治家にインタビューして『ノーコメント』と言われたら、それ自体がニュースになりますよね。ニュースが発生しますよね。大衆の期待に応えるために、興味や価値を付けて提供していく、それがマスコミだって書いてあって面白かったですね」

マスコミの本質、ニュースを作ってしまうマスコミの業を知ったプチ鹿島さんは、ニュースをエンターテインメントと捉え、そこから自分なりの面白さを考えたという。

「今、よく『マスゴミ』と言ってマスコミに怒る人がいますけど、気持ちはわかるけどそれじゃ楽しくないでしょ。だから、僕は“オヤジジャーナル”って定義して、ニュースの大半は実はオヤジ発信で、オヤジにだけ響いてるんじゃないかって唱えているんですよ。そうすると、週刊誌の見出しとか社説とかすごく愛くるしい。オヤジの希望や夢がそこに現れているんですから、そう捉えると腹が立つ前に、笑えてくるんです」

本や活字に惹かれたきっかけはプロレス

週刊 プロレス 2013年 3/27号 [雑誌]
『週刊 プロレス 2013年 3/27号 [雑誌]』
ベースボール・マガジン社
463円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp

世の中で報道されるニュースを独自の視点で楽しむプチ鹿島さん。そもそもジャーナリズムに興味を持ったきっかけは、中高生の当時、流行していたプロレスにあったそう。

「最初は『月刊ゴング』ってプロレス雑誌を読んでいたんですよ。写真もキレイで海外のプロレス情報も集約されている正統派な雑誌でした。それが80年代後半になって、ライバル誌の『週刊プロレス』(以下、週プロ)の編集長になったターザン山本が、とにかく読者を煽ってたんです。そこから試合そのものよりも、その見解を週プロがどう書くかという“活字プロレス”の時代が創造されたんです」

当時、流行語にもなった“活字プロレス”。仕掛け人であるターザン山本が生み出したカルト的な人気とその教えは、冷静に世の中の出来事を判断する肥しになったという。

「当時、プロレスを観ていなくても週プロは読んでるって人もいたぐらいでしたからね、ターザン山本の熱量と人気はすごかったですよ。彼がよく言ってたのは、『行間を読め、想像力を楽しめ』ということ。だからこそ、僕はそのうちターザンだけを信じ込むんじゃなくて、あらゆる媒体の記事を読み込んでチェックしたうえで、自分の想像力や見解を組み立てたわけです。そういう意味では、メディアリテラシーを自然に学んで結果的に全て自分でジャッジしていたんですよ。半信半疑というスタンスはプロレスにもジャーナリズムにも共通するんです」

物事に対して自分で考えること、プロレスで学んだ情報判断。インタビュー中、プチ鹿島さん自身は自覚していなさそうだったが、幼少期に母親から教え込まれた言葉もあるようだ。

「母親はかなりの本好きなんですよ。それで常々言われていたのは、『面白い本は時間をかけてじっくり読みなさい』『本は味わって読みなさい』という言葉でした。今もそれを続けていて、今日はここからここまでと決めたらその部分だけを繰り返し、読むこともあります」

出会いは歯医者の待合室、今の自分を作った名作漫画

よりぬきサザエさん  1
『よりぬきサザエさん 1』
長谷川町子
朝日新聞出版
1,080円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> ローソンHMV

子どもの頃は野球小僧で体育会系でテレビっ子だったプチ鹿島さん。それこそ上記で挙げた『幻影(イメジ)の時代』までほとんど本は読んでこなかった。しかし、今“時事芸人”と呼ばれるに至った根本は、小学生のときにハマった一冊から始まっていた。

「小学生の時に、歯医者の待合室で読んだ『よりぬきサザエさん』には、すごく影響を受けていますね。アニメで観る『サザエさん』とまったく趣が違って、基本は新聞の四コマ漫画なので時事ネタなんですよ。それも連載は昭和49年で終わってるから、僕にとっては全て過去のこと。学生運動やベトナム戦争とかまったく知らない世界なのに、当時の空気感を残しながら、軽快でポップだから面白いんです」

オススメの本はと聞かれると必ず『よりぬきサザエさん』を挙げる。そこには面白さだけでなく、表現の素晴らしさと苦悩して作り上げた作者・長谷川町子へのリスペクトがある。

「僕は密室でしかできないネタは嫌いなんです。過激と言うけど、それは期待している人々に対して期待通りにこなすだけの、むしろお約束じゃないですか。ぬるいと思います。でも、「よりぬきサザエさん」は新聞という老若男女、読者の間口が一番広い媒体で、いかに面白さを表現するか、世間を向いて闘ってるんだなと、小学生ながらに思っていました。実際、今回復刊した版の巻末特集には、「ノイローゼで闘病中の長谷川町子」とかあって、悩んで悩んで身を削って、明るい面白いものを生み出したこともわかるんです。“メタからベタへ”。信頼する芸人仲間と最近掲げている言葉なんですけど、それを一番大きな“ベタ”のなかで達成しているこの作品が、僕の目標ですね」

プロフィール

1970年生まれ。お笑い芸人(オフィス北野所属)。時事ネタと見立てを得意とする。活字ネタでは電子書籍「うそ社説」(ボイジャー)を 2011年の年末に発売。時事、芸能、お笑いの見立てと裏と行間を書く「プチコラム」や話題の本を読み、独自の解釈で紹介する「この本はこう味わえ」など、盛りだくさんの内容で週一回、メルマガ「プチ鹿島の思わず書いてしまいました!!」(http://www.webdoku.jp/premium/merumaga/page/kashima.html)をお届け中!

著作紹介

『』
円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
東京ポッド許可局 ~文系芸人が行間を、裏を、未来を読む~
『東京ポッド許可局 ~文系芸人が行間を、裏を、未来を読む~』
マキタスポーツ,プチ鹿島,サンキュータツオ,みち
新書館
1,944円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> ローソンHMV
思わず聞いてしまいました!!【活字版】
『思わず聞いてしまいました!!【活字版】』
プチ鹿島,居島 一平
スコラマガジン
1,404円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> ローソンHMV
東京ポッド許可曲
『東京ポッド許可曲』
FUTABMUSIC
1,543円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
« 前の記事 | 次の記事 »