第89回:平山夢明さん

作家の読書道 第89回:平山夢明さん

夜眠れなくなるくらい怖い話、気持ち悪くなるほどグロテスクな話を書く作家、といったら真っ先に名前が挙がる平山夢明さん。ご自身も、幼少時代に相当な体験をされていることが判明。そんな平山さんが好んで読む作品はやはり、何か同じ匂いが感じられるものばかり。そのキテレツな体験の数々を、読書歴に沿ってお話してくださった平山さん、気さくな喋り口調もできるだけそのまま再現してあるので、合わせてお楽しみあれ。

その3「超現実よりも現実の恐怖を」 (3/6)

冷たい方程式―SFマガジン・ベスト1 (ハヤカワ文庫 SF 380 SFマガジン・ベスト 1)
『冷たい方程式―SFマガジン・ベスト1 (ハヤカワ文庫 SF 380 SFマガジン・ベスト 1)』
トム・ゴドウィン
早川書房
756円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS
町でいちばんの美女 (新潮文庫)
『町でいちばんの美女 (新潮文庫)』
チャールズ ブコウスキー
新潮社
853円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS

――読み物として惹かれるのは、どんなテイストだったのかというと...。

平山 : 人の優しさとか愛とか希望とか、ああいうのって照れくさいんだよね。歌うたいじゃないんだから、そういうことを大声でいうのはいかがなものかって思っちゃう。まあそれも大事なことなんだけど、人が賞賛するような気持ちって、まあそれなりに分かるわけ。でも気味の悪いこと、恐怖の類に入ることって、まだまだ未知の領域だよね。人はどれくらいのことを考えられるのか、ってことに興味がわく。グロテスクなことを、どれくらい考えられるのか。ただグロテスクでも、厚化粧っぽいのは面白くないのよ。名刀の切れ味があるグロテスクがいいじゃない。トム・ゴドウィンの『冷たい方程式』とかいいんじゃないの。ブコウスキーの短編集『町でいちばんの美女』の「レイモン・ヴァスケス殺し」もすごいよね。

――グロテスクなもの、という点を考えると、怖い話といっても例えば宇宙人とか世界の七不思議といった方向へは興味は向かなかったのですか。

平山 : 現実とリンクしていないと興味がわかないの、あんまり。化け物がワーッと出てきてどうこうする、というのはあんまり興味がないんだよね。人間は一番最後に死というものがやってくるわけだけど、その過程で自分が思ってもみない不幸に見舞われたりする。その思ってもみないことを見たいの。実生活者に対してよりリアルに影響を及ぼすものじゃないと、あんまり面白くない。リアルに起こりうるんだけれどめったに起こらない、もしも起きたら大変、というものがいい。だから『激突!』なんかはよかったんだよね。

――では例えば映画ですが、『エルム街の悪夢』みたいなものは...。

平山 : あれはファンタジー。ダークファンタジーだからね、おつまみみたいなもの(笑)。それよりも隣に気の狂った人が住んでいて、普段は常人のように振舞っている、というようなものが読みたい。ドキュメンタリーとかルポルタージュのように書かれたものではなく、そこに物語としてのある意味の芸術性が、ちょっとあるのがいいんだよ。新聞記事をびゃーっと広げたような小説は、新聞を読めばいい。それを小説にするということはさ、ある種の娯楽性があったり芸術性が含まれているということが必要なんだろうなあ。

――世代としては、ノストラダムスの大流行とかありませんでしたか。

平山 : あったね。みんな「死ぬんだ!」ってすごく言ってた。それで言うなら『日本沈没』なんかもあったよ。みんな「沈むんだ!」ってすごく言ってた(笑)。オレは「いいんじゃないの」って思ってた。それよりもコックリさんだね、オレの周りで流行ったといえば。

――男子もやるんですか。

平山 : やったよ。あれって最後は帰さないといけないのに、途中でやめちゃったことがあるんだよね。そうしたら誰もいない木造の中学校の廊下を、馬が何頭もダダダダダダッ! って走っているような音がしたんだよね。もうみんなギャーギャー言って大騒ぎしてさ。樋口さんなんか「今まで教えてくれてありがとう、どうすればいいですか」みたいなことを聞いたら、仲間のうちの一人に「飛んでください」って。机からですか、って聞いたら「もっと高く」、二階からですかって聞いたら「もっと高く」、屋上からですか、「もっと高く」......。で怖くてやめちゃったって。

――怖いです......。心霊現象なんかは怖くないですか。

平山 : あれはオレの中では娯楽。聞いて楽しい、しゃべって楽しい。まあ、昔は怖かったよ。18歳か20歳くらいまでは。今は、どんな話が出てくるのかなっていう興味で聞いているけど。

» その4「自主映画制作に夢中」へ