第89回:平山夢明さん

作家の読書道 第89回:平山夢明さん

夜眠れなくなるくらい怖い話、気持ち悪くなるほどグロテスクな話を書く作家、といったら真っ先に名前が挙がる平山夢明さん。ご自身も、幼少時代に相当な体験をされていることが判明。そんな平山さんが好んで読む作品はやはり、何か同じ匂いが感じられるものばかり。そのキテレツな体験の数々を、読書歴に沿ってお話してくださった平山さん、気さくな喋り口調もできるだけそのまま再現してあるので、合わせてお楽しみあれ。

その6「最近の読書、最近のお仕事」 (6/6)

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羊たちの沈黙 (新潮文庫)
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――最近読んで面白かった本、昔から好きで今でも読み返す本を教えてください。

平山 : 最近ではテツの『怖い話』っていう本が面白かったねえ。あとはコーマック・マッカシーの『ザ・ロード』。何回か読み返しているのはグレゴリー・マクドナルドの『ブレイブ』。ジョニー・デップが監督して映画にもなったんだけど、ネイティブ・アメリカンの何の知識もない男の子が、家族のためにスナッフフィルムに出ることを決意するんだよ。愕然とするような悲しい話。あとは、『羊たちの沈黙』はバイブル的に読んでいるね。あとはマシスンとか『佇むひと』とか『コインロッカーベイビーズ』かな。ブコウスキーは『くそったれ! 少年時代』とか『ポスト・オフィス』とかね。

――今年の2月は映像の撮影でお忙しかったそうですが、何を撮られていたんですか。

平山 : TBSで深夜ドラマになって、あとDVDにもなるらしいんだけれど、『眼球遊園』っていうシリーズ3本の中の1本の脚本を書いたの。「大日本ノックアウトガール」っていうね、日ごろのウサをノックアウト強盗ではらすっていう女の子の話なんだよ。最初はメリケンサックでぶっ叩く役にしたんだけど、テレビだからさ、メリケンはダメだっていうからしょうがないからデコピンで倒すということにして(笑)。

――そういう枷はあるものの、文章と映像、それぞれの面白さはありますか。

平山 : 文章にする時は限界がないわけ。地球に隕石が50個ぶつかってもいいし、地球が半分に割れて中から赤ん坊が出てきてもいい。映像だと銭がかかるから限度がある。でも限度の中で遊ぶっていうこともできる。実際問題として、視覚と聴覚で一気に攻める、という、小説とは別の味わいがあるよね。

――小説も書けばノンフィクションも書けば、脚本も書くという。

平山 : 自分の中に何か創作できるものがあって、実現可能であれば、ジャンルや形態を問わず何でもやろうと思いますよ。作曲とかはやりそうにないけど。何も限界を決めないでやってる。自分で小説家一本でやっていきますって宣言しても、お座敷がかかんなくなったらしょうがないしね、オレら芸者なんだから。

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)
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――平山さんの小説を読むと、肉体など、有機的なものが変容していくグロテスクさを本当に怖く、本当に気持ち悪く書くなあという印象です。

平山 : 『SINKER』とか『独白するユニバーサル横メルカトル』とか『他人事』とか『ミサイルマン』はさ、オレという店を出したばかりなわけだから、どんな商品を扱うのか教えなくちゃ、ということもあったわけ。あともうひとつ、そういう中で読者を殺す、読んだ人をノックアウトさせようと思ってたってこともあるね。でもその手がいつまで続くかというと、それはどうか。ノックアウトも純化して、深度を深めていかないと、ただの駄菓子になっちゃうからね。それは課題です。これからは、見た目は優しく見えたりするものにしますよ。でも食ったら死ぬ、っていう。これからはそういう偽造をほどこさなくちゃ、と思っているからさ、小説界の船場吉兆を目指して頑張りますよ(笑)。

(了)