第89回:平山夢明さん

作家の読書道 第89回:平山夢明さん

夜眠れなくなるくらい怖い話、気持ち悪くなるほどグロテスクな話を書く作家、といったら真っ先に名前が挙がる平山夢明さん。ご自身も、幼少時代に相当な体験をされていることが判明。そんな平山さんが好んで読む作品はやはり、何か同じ匂いが感じられるものばかり。そのキテレツな体験の数々を、読書歴に沿ってお話してくださった平山さん、気さくな喋り口調もできるだけそのまま再現してあるので、合わせてお楽しみあれ。

その5「書く仕事を始める」 (5/6)

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――「週刊プレイボーイ」や「宝島」で、ホラー映画評などを書かれるようになったきっかけは。

平山 : 大学時代に知り合いだった人に、「週刊プレ」で仕事を広げるんでお前も書かないかって言われて。当時はレンタル屋なんてなかった頃なんだよね。「友&愛」っていう貸しレコード屋が貸しビデオを始めるかどうか、っていうくらいの頃。そんな世界の話です。

――「Z級ホラー」について書いていた、というのをどこかで読んだことがあるのですが、B級でもC級でもなくZ級って、何ですか。

平山 : そこから先はない、ってことよ(笑)。そこから先は映画にもなっていない、お金を払えないっていう限界映画。そんなヘンな映画ばっかり集めて見ていたね。

――書く仕事をやってみて、面白いと思ったのですか。

平山 : いや、面白くないよね。ただ、コンビニよりはラクだった。コンビニはツラかったもんね。もう、寝れないしさ。コンビニよりラクかどうかってことが今でもオレの労働基準になっているの(笑)。

――社会人になってからの読書生活は。

平山 : 読んでいたよ。面白い仕事をしていないからストレスがたまるわけ。ウサを晴らすために面白いものが読みたくなるの。味の強いもの。その頃だよ、式貴士を読んだのは。『カンタン刑』とかさ。筒井さんも読んだ。椎名誠さんも結構読んだなあ。村上龍も、『コインロッカー・ベイビーズ』とか好きだった。

――そういえば、女性作家さんの名前ってなかなか挙がりませんね。

平山 : うーん。宮尾登美子さんの『鬼龍院花子の生涯』とか、内田春菊さんの『ファザーファッカー』とか。

――その後、実話を集めた『「超」怖い話』という長寿人気シリーズの執筆に参加されましたが、その経緯は。

平山 : オレも怖い話は刺激が強いから、相当いろんな人から聞いていて。『「超」怖い話』を書いていた樋口さんが怖い話を集めていて、オレの知り合いに「誰かお化けの話が得意で変わった奴いないか」って聞いてきてオレが紹介されて、新宿の喫茶店で会って。いろいろ話をしていたら「君ライターやっているなら書いてよ」って。それで入ったんです。

――どの話も本当に怖いですよねえ。

平山 : そう?

――うう。平山さんは、怖いものってないんですか。

平山 : あるよ! 締め切りとかさ、締め切りの時の担当編集者の冷めた声とか(笑)。いきなり殴られる、とかは怖いよ。訳もわからずに刺されるとか。

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――いきなり...って、ありえなさそうですが平山さんの場合ありえそうで心配です。さて、その後、ノンフィクション『異常快楽殺人』を発表し、『SINKER――沈むもの』で作家デビューされたわけですが、書くことに対する心境の変化があったわけではないのですか。

平山 : オレなんかの場合は、引き算で仕事を選んだからさ。これできない、あれできない、と引いていったら残ったのがこれしかなかったからさ。本当に勧められない職業選択の姿だよね(笑)。

――小説を書くようになってから、読書で選ぶ本は変わりましたか。

平山 : やっぱり味の濃い、ガツンとくるものがいいよ。読んでも読まなくても平気、っていうものは要らない。

――作家さんのお知り合いもたくさんいるなかで、この本が面白い、といった情報交換をされたりは。

平山 : 読み巧者の人たちって知的健康優良児だから、良作だろうが駄作だろうが、なんでも読んじゃうの。あいつらに聞くとダメ。何でもかんでも面白いって言うからさ。読むものが偏っている、専門店みたいな奴に聞くといいよ。そういう人が言う面白いものは、本当に面白い。テツとかさ。福澤徹三のことだけど。

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