第94回:北山猛邦さん

作家の読書道 第94回:北山猛邦さん

大胆な設定、魅力的なキャラクター、意外性たっぷりの物理トリックで本格ミステリの醍醐味を存分に堪能させてくれる北山猛邦さん。あの独特な世界観は、どんな読書遍歴の中から生まれてきたのか? 本格ミステリとの出会いから、トリックに対する思い、自作のキャラクター誕生の裏話まで、意外性に満ちたお話を披露してくれました。

その4「作家生活がスタート」 (4/6)

『瑠璃城』殺人事件 (講談社文庫)
『『瑠璃城』殺人事件 (講談社文庫)』
北山 猛邦
講談社
637円(税込)
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――メフィスト賞を受賞してデビューして、さあ、作家としてやっていくぞ、という感覚はありましたか。

北山 : なかったですね。卒業したらどうするかを考えていなくて、あわよくば大学院に行ってダラダラとして、社会には出たくないな、というようなことを考えていて(笑)。今でこそ作家としてやっていけていますけれど、一歩違っていたら間違いなくニートでした。まわりが就職活動を一生懸命やっているのを見て、それだけは嫌だと思っていましたし。

――なぜそこまで就職活動が嫌だったんですか。

北山 : うーん。頭を下げたくなかったんでしょうね(笑)。みんな、100社まわった、なんていう話をしていて。就職氷河期の真っ最中だったので。

――受賞後、間をあけずに二作目が刊行されていたので、仕事として小説を書いていく自覚があったのかと思いましたが。

北山 : 『「瑠璃城」殺人事件』もデビュー前に投稿していたんです。二作あわせて受賞したようなものです。なので、最初の二作は本当にフリーダムで。恐れを知らずにやっている。

――執筆活動を開始して。卒業後は大阪を離れたのですか。

北山 : 実家に戻りました。メフィスト賞は受賞パーティもないので誰かと顔を合わせる機会もなく、東京と盛岡なので編集者としょっちゅう会うわけでもなく。フリーターのような、いえ、フリーターよりも外との接点のない生活が始まりました。大学生時代から作家になって3、4年は、孤独との戦いでした。

――読書生活は。

北山 : 書くようになってから、読む量は減りまして。大学生の頃が一番読んでいましたね。デビューしてからは、人の作品を読むとひきずられてしまう。どうしても「これよりも面白いものが書きたい」とか「これ以上に面白いものなんて書けない」と思って、気持ちが揺さぶられてしまうので、手に取りづらくなってしまったんです。

――小説以外、まったく違うジャンルのものに触れたりは。

北山 : なので映画など本と関係のないものは、わりと接していました。映画はアクションもサスペンスも、何でも観ますね。ただ、あんまり感動モノは好きじゃない。

――安い涙は流したくない、というような(笑)?

北山 : いえ、ストーリーを延々と見せられると疲れてしまうんです(笑)。メリハリのある、単純なアクション映画などのほうが好きですね。タランティーノとか。銃をバシバシ撃っているものなんかが好きです。

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