第94回:北山猛邦さん

作家の読書道 第94回:北山猛邦さん

大胆な設定、魅力的なキャラクター、意外性たっぷりの物理トリックで本格ミステリの醍醐味を存分に堪能させてくれる北山猛邦さん。あの独特な世界観は、どんな読書遍歴の中から生まれてきたのか? 本格ミステリとの出会いから、トリックに対する思い、自作のキャラクター誕生の裏話まで、意外性に満ちたお話を披露してくれました。

その5「その後の執筆生活、交友関係」 (5/6)

――トリックを考える作業は、どのようにしているのですか。

北山 : ひたすらノートにああでもない、こうでもない、と図を描いたりして考えています。実際に模型でも作ることができたら面白いんでしょうけれど、なかなかそこまでやっていられない。ただ、最初に細かいことを決めておかないと書けないので、毎回ノートにレジュメのように、順番に細かい部分を書いていっています。以前、そのノートを新幹線に置き忘れてしまったことがあって。あれを拾った人は、とんでもないものを見てしまったと思っているのでは(笑)。

――殺人計画が書かれたノートだと思ったりして(笑)。それにしても、机に向かっているだけでアイデアが浮かぶものなんですか。

北山 : 実際にどうやって考えだしているのかは、自分でも分からないんです。だいたいは何かを思わぬ形で使う、ということが発想にヒントになっているんですけれど。なんでもない物を、どういう使い方ができるのかな、という。

――ところで、作家生活は孤独との戦いということでしたが、その後作家同士の交流などはなかったのですか。

北山 : 最初はなかったんです。でも3年か4年経った時に、『ファウスト』の企画で作家たちが3泊4日で沖縄で書くという企画があったんです。そこで乙一さん、滝本竜彦さん、佐藤友哉さん、西尾維新さんにお会いして、はじめて他の作家さんたちと会話を交わしました。わりと年が近いこともあって、萎縮せずにすみました。僕としては作家さんと話したいというより、友達がほしかったなっていう(笑)。

――先日雑誌で辻村深月さんのインタビューを読んでいたら、仲のよい作家さんとして北山さんのお名前が挙がっていましたよ。

北山 : 以前『ミステリマガジン』で、笠井潔さんの評論の連載が単行本になる際の企画として、若い作家と鼎談しようということになって、笠井さんと辻村さんと米澤穂信さんと僕でお会いしたことがあったんです。ちょうどその日、鼎談の後に鮎川哲也賞のパーティがあったので、そのまま一緒に会場に行って。その時にはじめてお会いして、そこからちょこちょこ遊んでいただいています。

――東京に越してきたのはいつですか。何かきっかけがあったのでしょうか。

北山 : 去年の6月頃ですね。いつまでも実家にいてはいけないとも思ったし、あと太ってきたんで(笑)。一人暮らしをしたら痩せられるかなと思ったんです。

――え。またもや、意外な理由。

北山 : 実家だと何もしなくてもご飯が出てきますからね。しかもいっぱい出てくる(笑)。盛岡で一人暮らしをすることも考えたんですけれど、それだったら東京に出るのも一緒だし、東京のほうが仕事関連も迅速にやりとりができますし。

――一人暮らしを始めて、痩せましたか。

北山 : 東京は家の近くにコンビニがあるのでお菓子を買い込んだりしてしまいますね(笑)。かえって太ったかもしれない。自分では分かりませんが。

――執筆スタイルに変化がありましたか。

北山 : ちょっと行き詰まるとパソコンを持って喫茶店に行ったりしています。そういう風に自分で切り替えを作らないと、ダレますね、一人暮らしの生活は。

――東京暮らしで、読書生活はどうなりましたか。

北山 : 東京にはモノがあふれていますね。本もすぐ手に入る。盛岡では自転車で遠くまで買いに行っていたのに、東京はちょっと行けば大きい本屋があって、ほしいと思っていた本がそこにある。最近は単純なんですけれど、平積みされている本や○○賞受賞、といった本を手に取りますね。本屋さんの術中にハマっています。まあ、国内のミステリがほとんどです。それと、編集者の方から本をタダでいただけたりするので、助かっています(笑)。そこから普段は手に取らないようなものも読むようになりました。

――本屋で必ず買う作家さんはいますか。

北山 : メフィスト賞受賞作が出るとどうしても気になって買って読みます。同じメフィスト賞から出ている作家として応援したいなという気持ちがあって。

――ミステリの中でも、自分はこういうものが好きだ、という傾向はあるのでしょうか。

北山 : 最近は叙述トリックで読者を驚かせるミステリが多いように思うんです。読む側としては面白ければそれでいいんですけれど、もっと図版が載っていて、実はこういうトリックだったと驚かせるものも読みたいですね。図版が載っているだけでワクワクしますし。書く側としてはできるだけそういうものを提供できたらと思います。

――読者をどう騙そうか、意識しながら作りこんでいくのですか。

北山 : ミステリの読者には騙されたい気持ちがあるだろうし、僕も騙してやろう、と思って作品を書いたこともあります。でも最近はそこから一歩はなれて、騙す騙さないではなく、ミステリ本来の、犯人がこういう仕掛けを作って殺人を犯して、それを探偵役が暴いていくというスタンダードさが必要だなと思って書いています。

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