第102回:椰月美智子さん

作家の読書道 第102回:椰月美智子さん

講談社児童文学新人賞から作家デビューし、その後はバラエティ豊かな短編集や家族の小説、恋愛小説、さらには赤裸々なエッセイなど作品の幅を広げ続けている椰月美智子さん。意外にも幼い頃は本を読まなかったという椰月さんが、大人になってからよさを知り、今も読み返している作家とは? そして、つい最近、強烈なインパクトを与えられた小説とは? とっても率直な語り口とともにお楽しみください。

その3「1冊の本から抱いた決意」 (3/3)

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――そんな風に影響を受けたかも、と思うくらい強烈だった作品は他にありますか。

椰月:ええと...。映画ではナイト・シャラマンの『サイン』です。観たのは小説を書き始める前くらいだったと思うんですが。水がキーワードで、子どもが水をいろんなところに置いていく。あまりにもわかりやすい伏線なんですが、それがかえってよかった。こんなにも自分の伝えたいことをはっきりと作る監督ってすごいと思ったんです。あとは、伊坂幸太郎さんの『SOSの猿』ですね。

――『SOSの猿』とは、ずい分最近ですね。

椰月:昨年末読んで、ハッとしたんです。『サイン』を観たときと同じような感覚になったんです。伊坂さんの描く"何かと何かはつながっている"という現象がもとから好きなんですが、それを気持ちよく堂々と描いていて、ああ、自分が書きたいと思うことをしっかりと作品にしているんだ、と勝手な解釈ですがそう思って、感銘を受けて...。それで、自分も作家としての自覚をきちんと持って仕事をしようって思ったんです。書きたいものをおそれずに書こうって。腰を落ち着けて頑張りたいです。

――椰月さんの"書きたいもの"とは。

椰月:連載が一段落しそうなので、今、書き下ろしに取りかかっています。依頼されたものでもなく、自分が心から書きたいと思ったものを書いています。何が書きたいのかというと...え、なんだろう?(笑)漠然としていて、具体的に答えられないです、すみません。今書いているのは恋愛小説です。男女の恋愛で...としか説明できない(笑)。タイトルも『恋愛小説』ですし。ただ、書き下ろしで枚数の制限がないので、書きたいことを全部書けるのが楽しい。秋に刊行の予定です。次の連載の予定もありますが、これまでとちょっと意識を変えて、強い意思を持って書いていこうと思っています。

――現時点での最新刊『坂道の向こうにある海』も恋愛小説ですよね。四角関係だけど、ドロドロしてないという。4人の視点が交互に出てくる連作集で。

椰月:あれは最初、小田原のことを書いてくださいって言われたんです。なので第一章では小田原の地理的なことも書いていましたが、書いているうちにいつのまにか4人の恋愛物語になっていました。

――あ、連作などだと、プロットを考えずに書き始めるほうですか。

椰月:そうですね。最初の人物が出てこないと、次の人物が出てこないし、場面展開もそうです。物語の大まかな雰囲気は頭の中にありますが、登場人物たちが次にどうやって動いていくのかは、自分でもわからないです。

――『るり姉』も、各章で視点人物が変わりますよね。じゃあ、そのときも。

椰月:あれは当初第一章完結だったんですが、「続きを書いてください」ということで、周りの人の視点を書いていくことにしました。るり姉、というのは、『みきわめ検定』に入っている短編「川」に出てくる、るり子と同一人物で、登場する三人の姪についても、そこから人物関係図を持ってきたものなんです。で、「川」自体の設定も、そもそも私自身に姪が3人いるので、そこから持ってきたもので...(笑)。

――『るり姉』はなんともいえない余韻があって泣かされました。そうしたら、次のエッセイ作品『ガミガミ女とスーダラ男』が夫婦バトルのお話で、あまりにイメージが違うので驚きましたよ!

椰月:あれは、捏造なしの100パーセント事実です。あ、でも書けないこともあったから99%かな(笑)。筑摩書房の松田哲夫さんに、うちのダンナの話をしていたら「書きましょうよ」って(笑)。ストレスを吐き出したので、10枚のはずが20枚書いてしまったりしていました。

――ダンナさんの感想は...。

椰月:スーダラ男は、はもちろん読んでおりません(笑)。活字を読むと頭が痛くなるそうです。ただ、私はあれで驚く人こそ、驚きなんです。みんなどういう夫婦生活を送っているんだろう、どのくらいの節度を持って過ごしているんだろう、どんな夫婦喧嘩をするんだろうって。でも、ある方から、男って10人に1人はこうだよ、と言ってもらって救われました。世の中にスーダラ男もどきが1割もいるんだと思うと、うちだけじゃないんだな、と心強いです(笑)。

――さて、最近の執筆時間、読書時間のサイクルといいますと。

椰月:子どもが保育園にいっている間と、子どもが寝たあとの時間に書いています。読書もその合間に。

――ああ、お子さんに絵本などは読み聞かせたりしますか。

椰月:長男には、寝る前に絵本を読んでいます。自分で選んで買ったものより、姉のうちのお古だったり人からいただいたりしたものが多いですね。『かいじゅうたちのいるところ』とか『まよなかのだいどころ』とか、リズムがいいし面白いなあと思って。小さい頃にもっと読みたかったなあ(笑)。

――今後の刊行予定を教えてください。今年はかなり多そう。

椰月:今年連載が終わるものが多いんです。4月末に角川書店からアンソロジー『きみが見つける物語 ティーンエイジ・レボリューション』が出て、5月に同じ角川書店から『フリン』という不倫の短編集が出ます。6月に講談社から『しずかな日々』の文庫、7月に光文社から家族小説『ダリアの笑顔』、8月に講談社から『市立第二中学校2年C組』が出て、10月に祥伝社の雑誌『feel Love』の連載がまとまったものが出て、11月に講談社から先程言った書下ろしの『恋愛小説』が...。

――うわあ、めちゃめちゃ多いですねー!

椰月:たまたま重なっただけなんですよ(笑)。

(了)