第111回:梓崎優さん

作家の読書道 第111回:梓崎優さん

2008年に第5回ミステリーズ!新人賞を受賞、その受賞作を第一話にした単行本デビュー作『叫びと祈り』で一気に注目の人となった梓崎優さん。今後の活躍が大いに期待される新鋭の読書遍歴とは? 覆面作家でもある著者に、特別にお話をおうかがいしました。

その4「ミステリ・フロンティアに憧れて」 (4/5)

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――いろいろ読んでいる中でも、その後、自分で書くならやはりミステリを、と思ったのでしょうか。

梓崎:本当の意味で小説を書こうと思ったのは社会人になってからですね。短編小説を一本、何も考えずに書いたらミステリになっていたんです。それで『ミステリーズ!』の新人賞に応募しました。この賞を選んだのは、出来上がったものがミステリであったことと、短編であったということもありますが、何よりミステリ・フロンティアのレーベルを出している出版社ということが大きかった。西澤保彦さんを一通り読み終えて次に何を読もうと思った時、先ほど言ったようにジャケ買いの感覚で手にとったのがミステリ・フロンティアから出ている米澤穂信さんの『さよなら妖精』だったんです。ああこれはすごく面白い、と思ってこのレーベルに興味を持ったんです。次に手にとったのが伊坂幸太郎さんの『アヒルと鴨のコインロッカー』で、もうこのレーベルは外れがないんじゃないだろうかと思い、さらに畠中恵さんの『百万の手』や石持浅海さんの『BG、あるいは死せるカイニス』など、読む本読む本面白いということで、ミステリ・フロンティアというものにある種の憧れを抱いていたんです。

――最初に応募したのは、どんな内容の短編だったのでしょう。

梓崎:1次で落ちたんですけれど、歌詞を読み解いていくというものです。それが、もろにプロのミュージシャンの歌詞を使っていたので、著作権の問題があったんです。もちろん、トリックもどうなのかというものだし、文章も下手くそだったんですが。なんでそんなものを応募したのかと訊かれたら「申し訳ございません」としか言いようがありません。それで落ちた時に、これはジャンルも何も考えずに書いたけれど、じゃあ1回ミステリというジャンルを意識して書いてみたらどんなものができるだろう、と考えたんです。それで書いたのが「砂漠を走る船の道」でした。

――それが第5回ミステリーズ!新人賞を受賞するわけですね。『叫びと祈り』の第一章となる、砂漠という場所の特性を生かしたミステリ。

梓崎:砂漠を舞台にしたのも、たまたまだったんです。トリックはトリックで別に考えてあった頃、テレビか雑誌で砂漠の特集を見ていて、砂漠で物語を作るならどうだろうとぼんやりと考えるようになって。それぞれ別個のものとして考えていたら、ある日カチャッとふたつが繋がったんですよね。それで、ああした形になりました。

――受賞の知らせをもらった時はどうでしたか。

梓崎:メールでいただいたんです。選考会が昼間にあって、私は仕事中だったので電話は繋がらなかったんだと思います。突然メールが来たので詐欺にあった気分でした(笑)。でもアドレスを見ると東京創元社のものになっているなあ、と。

――その時には、もう連作集にするということは考えてあったのですか。

梓崎:いえ、まったく考えていませんでした。編集者の方からは次の作品はこの系統で続けてもいいし、まったく別のものでもいいと言われていたんです。でもしばらくして、連作化も可能かなと思うようになって。というのも、次の「白い巨人」は受賞が決まる前に書いていて、登場人物もまったく違っていたのですが、これを砂漠の話とくっつけることもできなくはない、と思ったんです。趣向としても、連作短編になっていて最後にすべてが繋がる、というのは読んでいて得した気分になれる。統一感があるほうが本としてもキレイだなと考えて、「連作短編でお願いします」とお伝えしました。

――そう聞いて編集者は大変驚いたそうですね(笑)。難しくないんだろうか、って。

梓崎:その時には自分の中にはもう、「叫び」のテーマと「祈り」のテーマが頭の片隅にありました。当初「叫び」のメインのネタはまったく違う舞台設定を考えていたんですが、連作のためなら舞台はジャングルになるかな、と。

――ああ、もうその頃には「叫び」と「祈り」もあったんですか。

梓崎:いや、たいしたことのないきっかけといいますか。ミスター・チルドレンが大好きなんですけれど、『HOME』というアルバムの最初に、インストゥルメンタルで「叫び 祈り」という曲が入っているんです。それを勝手な解釈で、砂漠とか、そういう話の雰囲気に響きが近いなと感じていて。タイトルを見た時に「叫び」と「祈り」というテーマでひとつの本が組み立てられるかもしれないと思っていたんです。それが、連作の話が持ち上がったことで具体化しました。

――この連作集は、設定もトリックも驚きに満ちていますが、それだけではない余韻が残りますよね。

梓崎:「砂漠を走る船の道」を書いた時から意識していたんですけれど、ジャンルに関係なく物語性のある話が好きで読書してきたので、自分でも単純にトリックが炸裂して終わりになるものにはしたくなかったんです。トリックと物語性だったら、自分は物語性を優先するように思います。トリックが開陳されたことで物語性の部分が大きく花開くものが、自分の中では理想ですね。ただ、まだ完全にトリックを捨て去って物語だけ書く、というところまでは考えられませんが。

――アンソロジー『放課後探偵団』に寄せられた短編も、驚きと切なさがありますよね。

梓崎:あれは学園ものというテーマがあって書いたものです。でも学生が主人公ではなくて同窓会が舞台という、コンセプトエラーぎみなものになりましたが(笑)。

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