第111回:梓崎優さん

作家の読書道 第111回:梓崎優さん

2008年に第5回ミステリーズ!新人賞を受賞、その受賞作を第一話にした単行本デビュー作『叫びと祈り』で一気に注目の人となった梓崎優さん。今後の活躍が大いに期待される新鋭の読書遍歴とは? 覆面作家でもある著者に、特別にお話をおうかがいしました。

その5「現在の兼業生活、次回作について」 (5/5)

大誘拐―天藤真推理小説全集〈9〉 (創元推理文庫)
『大誘拐―天藤真推理小説全集〈9〉 (創元推理文庫)』
天藤 真
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ミステリーズ!vol.44
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卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)
『卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)』
デイヴィッド・ベニオフ
早川書房
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アレクサンドリア (ちくま学芸文庫)
『アレクサンドリア (ちくま学芸文庫)』
E.M.フォースター
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――さて、今お勤めもされている中で、執筆時間はどう取っているんですか。

梓崎:できる限り1日1回はパソコンを立ち上げて少しでも書くようにしています。そうしないと忘れるんです。1週間くらい経つと、自分が何を考えてその伏線をはったのか分からなくなってしまうんで。

――プロットを事前に作りこんだりはしないのですか。

梓崎:作るんですが、書いていると物語が自分の想定しないほうに動き始めたりするんです。そういう時はあまり逆らわないようにしています。自分の書いたものの中でいちばん作りこんでいないのは「凍れるルーシー」のラストだと思います。前段で終わるところまでしか考えていなかったんですが、書き進めていったら、落としどころが勝手に口を開けて待っていました。

――最近の読書生活はどうですか。

梓崎:会社が終わって時間がある時に、行きつけの本屋が2、3軒あるのでそこで面白そうな本を見つけて読みます。でも読書家って名乗れるほどは読んでいないと思います。ジャケ買いもしますが、最近は編集者に薦めていただいたものを読んだりもします。編集者に怒られたのは、天藤真さんの『大誘拐』を読んでいなかったこと。「僕は『大誘拐』も読んでいない人の担当なんですか」「読書家としてあるまじきことだ」って(笑)。読んでみたら、文句なしに面白かったです。最近では『ミステリーズ!』の12月号に掲載されているミステリーズ!新人賞佳作のお二人、明神しじまさんの「商人の空誓文」と深緑野分さんの「オーブランの少女」が、それぞれ独特の世界が作られていて面白かったですね。あとはデイヴィッド・ベニオフの『卵をめぐる祖父の戦争』。タイトルで惹かれて表紙も可愛くて、導入部分も面白そうだと思って買いました。それと、小説ではないんですが、ちくま学芸文庫から出ている『アレクサンドリア』という、E.M.フォースターが都市の歴史をコンパクトに書いているものがよかったですね。最近ミステリばかり読んでいるなと気づいて、人間を狭めているんじゃないかと急に不安になってミステリ以外のものを読もうとしている時に、たまたま目に入ったんです。

――さて、今後の刊行予定はいかがでしょう。

梓崎:目下執筆中のものを、今年のうちには出したいですね。『リバーサイド・チルドレン』という仮題です。子供が視点人物で、カンボジアが舞台です。

――カンボジアには行ったことがあるんですか。

梓崎:ないんです。取材旅行に行ったほうがいいかなという思いと、そんな時間があるのか、という思いと...。長編で書いてみたい主題が、カンボジアを舞台にしたら明確に伝えられるんじゃないかと思って選んでいるんですが。

――『叫びと祈り』も世界各地が舞台になっていましたが、行ったことのない場所を舞台にするのって、難しくはないですか。

梓崎:海外を舞台にしたいと思っているわけではないんですが、でも海外を書くことに抵抗はないですね。区別がないともいいます。物語の要請があれば、日本でも外国でも書くと思います。

――楽しみです。最後に、今後専業作家になる可能性はありませんか。

梓崎:外からの刺激がなくなるのもちょっと怖いですね。自分で意識してアンテナをはっていればいいのかもしれませんが、外との接点がなくなることで社会の流れが肌で感じられなくなったら、作品にどう影響するだろうかと思ってしまう。ただ、もっと時間がほしいなあ、という気持ちはありますね。

(了)