第112回:林真理子さん

作家の読書道 第112回:林真理子さん

小説もエッセイも大人気、文学賞の選考委員も務める林真理子さんが元文学少女だったことは有名な話。“小説の黄金期”をくぐり抜けてきたその読書遍歴のほんの一部と、作家になるまでの経緯、そして作家人生ではじめて書いたという児童文学『秘密のスイーツ』についてなどなど、おうかがいしてきました。

その1「実家は山梨の小さな書店」 (1/5)

本を読む女〈1〉 (大活字文庫)
『本を読む女〈1〉 (大活字文庫)』
林 真理子
大活字
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海のおばけオーリー (大型絵本 (17))
『海のおばけオーリー (大型絵本 (17))』
マリー・ホール・エッツ
岩波書店
1,512円(税込)
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陽のあたる坂道 (角川文庫)
『陽のあたる坂道 (角川文庫)』
石坂 洋次郎
角川書店
843円(税込)
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赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ〈1〉 (新潮文庫)
『赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ〈1〉 (新潮文庫)』
ルーシー・モード・モンゴメリ
新潮社
724円(税込)
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風と共に去りぬ (1) (新潮文庫)
『風と共に去りぬ (1) (新潮文庫)』
マーガレット・ミッチェル
新潮社
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細雪 (中公文庫)
『細雪 (中公文庫)』
谷崎 潤一郎
中央公論新社
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――林さんが文学少女だったことは有名ですが、林さんのお母さんも文学少女だったそうですね。

:そうなんです。母は今年95歳になります。『本を読む女』という小説にも書いたことがあるんですが、「赤い鳥」に投稿して第二の樋口一葉といわれたくらいで。作家になりたかったようなんですが、その夢は破れて結婚して。戦後、私の父が戦争で行方不明になってしまっていた時期からは自分の本を売って、あとは神田に仕入れにいって小さな本屋をやっていたんですね。少しでも本に触れる仕事をしていたかったんだと思います。

――その影響はやはり大きかったですか。

:田舎の小さな本屋ですけれど、売るほど本はあるわけですから、私も子供の頃からむさぼるように読んでいました。『海のおばけオーリー』など、岩波書店の子供向けのものが多かったですね。あとは母親が私と弟を主人公にした童話を作ってくれたりしたんです。児童書からわりとすぐに大人向けの本も読むようになりました。乱読という感じでしたね。

――外で遊ぶよりも本を読むことが好きでしたか。

:昔の子供ですから、外でドッヂボールをしたり、自転車で遠出をしたりもしていました。仲のよい子と「みつばグループ」というのを結成して、子供たちだけで紙芝居をしたりと、地域のボランティアをやってテレビや新聞に出たこともあったんです。自分たちで作詞作曲した「みつばグループの歌」もありました。

――そんな活動も!そしておうちでは本を読んで過ごすという。

:当時のベストセラーもずいぶん読みましたね。石坂洋次郎さんも『陽のあたる坂道』や『乳母車』など、すごく読んだんですけれど、だんだん同じ文章ばかりで飽きてきてしまって。一人の作家を夢中で追いつつ、追いすぎて途中で嫌になるという。

――早熟な少女でしたか。

:だったと思います。中学生でトマス・ハーディの『テス』なんかも読みましたが、何が起こったかわからなくて。昔の本だからぼやかして書いている部分も多いんです。もっと大人になってから、ああそういうことか、と理解しました。

――今と比べて、以前は子供もよく海外文学を読んでいたような気がします。

:河出の世界文学全集のタイトルを眺めて、あれも読んだ、これも読んだ、という感じでしたよね。『レベッカ』や『ジェイン・エア』が好きだったし、若い頃って咀嚼力があるから、『アンナ・カレーニナ』も読んだし、『戦争と平和』や『チボー家の人々』も途中まで読んだし...途中までって、自慢にならない(笑)。『赤毛のアン』のシリーズは中1くらいで『アンの娘リラ』まで読んだ気がします。あれは第一次世界大戦の影がさしてくるところが面白かったですね。大人になってプリンス・エドワード島にも行ったんですけれど、どこを見ても絵葉書みたいな景色ばかりで、きれいなものって退屈するなって思ちゃった(笑)。アガサ・クリスティーも夢中になって、電車を乗り過ごしたくらい。『風と共に去りぬ』は中2の時に読んで、映画も観にいって、すごくショックを受けました。

――ヒロインに感情移入するタイプだったんですか。

:そうです。それで朝起きてうちの汚い染みのある天井を見て、どうしてこういうところで生きていかなきゃいけないんだろうって、涙が出てきちゃって。きっとどこかにドラマチックな人生ってあるんだろうけれど、それを手に入れるにはどうしたらいいんだろうって考えていました。

――国内作品は他にどのようなものを読みましたか。

:三島由紀夫を読んでいました。あとはやっぱり、谷崎潤一郎の『細雪』はすごく好き。中1くらいで読んだと思います。太宰治は、私はあまり惹かれなかったんですけれど、『斜陽』にはうちの母親の物語があるんです。昭和22年、本の仕入れに神田に行って、仕入れたものの中に『斜陽』があって、ホームで読んで泣いたらしい。父が行方不明の頃で、私の兄となる一人目の子供は赤ん坊の時に死んでしまって、一人で生きていかなきゃいけないって覚悟をしていた。その時に『斜陽』を読んで号泣したそうです。その後、父も戻ってきて、私が生まれたわけですが。他には、五木寛之さんや花登筺といったベストセラー作家の作品もずいぶん読みました。

――林さんはいつか東京に行きたいって思っていましたか。

:いとこたちが東京の学校に行ったこともあって、私もいつかはこんな町飛び出してやろう、って思っていました。今では山梨から東京には1時間半くらいで来られますが、あの頃は2時間半から3時間半かかった。東京はすごく遠いところというイメージでした。

――どんな女の子だったのでしょう。

:ぐずでした。中学の頃はいじめられっ子だったし。頭もそんなによくないし。小学校の作文に「作家になりたい」とは書いてあるんですが、自分にはそういう才能はないから編集者などのマスコミの仕事につきたいなという気持ちはありました。

――作文は得意でしたか。

:うまかったと思います。朝日新聞の子供の投稿欄に出して何度か載って、記念品のバッジをもらいました。東京タワーに行ってみたいなっていう憧れを書いていたんだから、時代を感じさせますね。読書感想文は学校では1、2位になるけれど全国大会にはいかなかったですね。勉強はできないけれど、書けばうまいんじゃん、みたいな気持ちはあったかな。その頃書いた作文は、エッセイ集の『私のスフレ』にも載せています。

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