第112回:林真理子さん

作家の読書道 第112回:林真理子さん

小説もエッセイも大人気、文学賞の選考委員も務める林真理子さんが元文学少女だったことは有名な話。“小説の黄金期”をくぐり抜けてきたその読書遍歴のほんの一部と、作家になるまでの経緯、そして作家人生ではじめて書いたという児童文学『秘密のスイーツ』についてなどなど、おうかがいしてきました。

その2「70、80年代は小説の黄金期」 (2/5)

聖少女 (新潮文庫)
『聖少女 (新潮文庫)』
倉橋 由美子
新潮社
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新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)
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村上 龍
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風の歌を聴け (講談社文庫)
『風の歌を聴け (講談社文庫)』
村上 春樹
講談社
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四季・奈津子 (ポプラ文庫)
『四季・奈津子 (ポプラ文庫)』
五木 寛之
ポプラ社
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風に吹かれて (角川文庫―五木寛之自選文庫 エッセイシリーズ)
『風に吹かれて (角川文庫―五木寛之自選文庫 エッセイシリーズ)』
五木 寛之
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――高校時代はどのようなものを。

:女流作家が好きでした。有吉佐和子さんはすべて読んでいます。その後、大学生から宮尾登美子さんに傾倒しました。瀬戸内先生、田辺聖子先生も大好き。まだ直木賞をとる前に小さな講演会で「私は女流文学の系統を引いている」と言ったら、聴衆から「いい加減にしなさい」って言われました。私は自分の好み、書きたいものの傾向を言ったつもりだったんですけれど。「うぬぼれるな」っていう意味だったんでしょうね。

――今ごろ、そう言った人は反省していると思います。

:もう生きていないと思います(笑)。

――お年を召した方だったのですか...。さて、他には。

:倉橋由美子さんの『聖少女』とかも好きでしたね。高橋たか子さんも。ああ、女流とは別ですが庄司薫さんも。高校生が普通に本を読んで、純文学系がベストセラーになる、いい時代でした。懐かしいな、私の本棚...。

――友達と本について語り合うこともあったのですか。

:いませんでしたね。文学少女ってつねに孤独なんです。文学少年はいたけれど、キモッ...っていう感じの子で、友達になりたくなかった(笑)。まわりを見ていても自分がいちばん本好きだという自覚はありました。ああ、でも学校では放送部と、文学部に入っていたかも。詩を書いたりしていたかも。

――大学は日本大学の芸術学部に進学して、東京に出てきたわけですが、その頃の読書生活は。

:大学時代は本にまつわる思い出しかないかも。上池袋の四畳半の汚いアパートに住んでいたんですが、近くにおばあさんが一人でやっている貸し本屋があって、毎日1冊くらい本を借りていました。その隣に大判焼きを売っているお店があったので、お銭湯の帰りに大判焼きを買って、本を借りて帰るのが黄金のコース。電話番のバイトもしていたので、貸し本屋で借りた『オール讀物』や剣豪小説を読んでいました。富島健夫さんとか松本清張さんもそこで借りましたね。二段組の本はすごく得した気分になって、船山馨さんの『お登勢』なんかも読みました。当時のベストセラーも読んでいましたよ。

――当時のベストセラーといいますと。

:村上龍さんが『限りなく透明に近いブルー』で芥川賞を受賞してすごく売れていて。池袋の本屋に行ったら品切れで、24番目っていう整理券を渡されて一週間後に来るように言われました。あれは本当に憶えていますね。こういう書き方があるのか、素晴らしいなって思いました。当時大学生で『限りなく透明に近いブルー』を読んでいないなんて恥ずかしいという感じがありました。その頃村上春樹さんも出てきたのかな。『風の歌を聴け』は当時の女子大生はみんな読んだと思う。三田誠広さんも読んだし大庭みな子さんも好きでした。あとは五木寛之さんが女子大生にものすごい人気でした。格好よかったし。『四季・奈津子』の他には『風に吹かれて』とか、『朱鷺の墓』とか。地方の女の子たちは五木寛之先生の『四季・奈津子』を読んで胸をとどろかせる。この間雑誌の連載で『四季・奈津子』みたいに地方の女の子が野心を持って東京に出てくる話が書きたいって言ったら、「今そういう子はいません」って言われたんです。両親のもとで暮らすのがいちばんいいっていう子が多いそうですね。

――当時は、みんなヒロインに共感して。

:そうでした。あの頃は小説の黄金期ですよね。『オール讀物』や『小説現代』がガンガン売れた。井上ひさしさんの『吉里吉里人』も読みました。10数年前に直木賞の選考委員になった時は、末席に座ってみたら向こう側に井上先生、五木先生、渡辺淳一先生、田辺先生、平岩弓枝先生、黒岩重吾先生が並んでいて。もう声が震えてしまった。子供の頃から読んでいる人たちがずらっといたんだもの。

――女流作家ではどんな方が話題になっていたのでしょう。

:中沢けいさんが『海を感じる時』でデビューしたんです。美少女作家といわれてすごく注目されていて。ああ、こんな風に人気者になれるんだったら小説を書こうって思いました。それで『群像』を買って応募するぞと思って書いてみたけれど、10枚くらいしか書けなかった。何十枚、何百枚も書かないといけないなんて、小説って普通の根性じゃできないな、怠け者の私には書けないなと思って、挫折しました。

――エッセイやノンフィクションはお読みになりましたか。

:エッセイは田辺聖子先生の本を読みました。あとは桐島洋子さんや岸田秀さん。それと、フランクルの『夜と霧』を読んで、ユダヤ問題を調べたくなって。そこからずい分いろいろ読みました。今でもそうなんですが、ひとつのテーマに興味を持つと、ずっとそのことばかり追いかけるんです。海外の歴史ノンフィクションみたいなものも好き。ロシアの帝政時代、ニコラス二世の頃のこととか、ラスプーチンの頃のことが書かれたものは大学生の頃からわりと読んでいます。昔から華族関係の本もすごく持っています。戦前の女の人の手記、例えば文化学院の人とか、有名な人の娘で学習院を出た人の手記などをわりと集めていますね。ただ、日本の歴史はいまだに苦手。仕事で読むことが多いんですが、それは勉強という感じで、ついつい後回しにしちゃう。

――あれ、古典はどうですか。源氏物語関連の本もお書きになっていますよね。『六条御息所 源氏がたり』。

:あれは注文があったので。『源氏物語』は昔から寂聴先生のものを読んだりしていますが、今ちょうど原文を読んでいるところです。でもこれもお勉強という感じですね。ずっと読んでいると辛くなるので、幸田弘子さんの朗読のCDを聴いたりしています。

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