第113回:湊かなえさん

作家の読書道 第113回:湊かなえさん

デビュー以降つねに注目され続け、最新作『花の鎖』では新たな一面を見せてくれた湊かなえさん。因島のみかん農家に育った少女の人生を変えることとなった本とは。社会人になってから青年海外協力隊の一員として滞在した南の島で、夢中になった小説とは。それぞれの読書体験のバックグラウンドも興味深い、読書道のお披露目です。

その6「新作『花の鎖』」 (6/6)

花の鎖
『花の鎖』
湊 かなえ
文藝春秋
1,440円(税込)
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――そんな新刊『花の鎖』は、今までの作品とはまた違ったテイストですね。3人のタイプも生き方も違う女性の話がそれぞれ別に進んでいって、なかなかそのつながりがわからない。それぞれに謎めいた事柄もある。それが、後半になって、ああ! と。

:数独パズルにハマっていた時期があったんです。パズルのように、3人の主人公の話が最後に「ここにこれが入るから成立する」という風にはまっていく話ができないかな、と思いました。人と人のつながり、関わり方を書いてみたかったんです。3人はそれぞれ性格は違うけれど、それには理由があって...そこを話すとネタバレになりますね(笑)。旦那さんに尽くす人も、自立心の強い人もいますが、それぞれに共感できるところがあるんじゃないかなあと思っています。私はここに出てくる人たちが大好きなんです。みんな一生懸命頑張っていて、書き終えた時にはそれを見届けたような気持ちでした。

――Kという謎の人物が出てくるんですが、それぞれの主人公の関係者にイニシャルKの人が出てくるので、一体誰なんだろう、と。犯人当てではなく、人間関係の謎に興味を持ちながら読み進めました。あと、きんつばが食べたくなる(笑)。

:以前いた職場の人の半分以上がイニシャルKだったので、Kならいけるかな、と(笑)。きんつばは、3人の関係性が分からない程度に同じものを出したくて、商店街にある和菓子屋を出したんです。私の住んでいる場所の近くにも、きんつばが美味しいお店があるんです。年に一回、祭の日に買うんですけれど、それを食べるとああ一年経ったな、と感じるんです。登場人物たちみんなが共通して食べているもの、知っているお店として出しました。クリームと餡が混ざったきんつばは、実際にはないです(笑)。あとは、アイテムとしてお花を入れたかったんです。うちの花壇にもバラを植えているし、花って生活に必要じゃないものですけれど、植えたり飾ったりして気づくことや、嬉しいことってあるんだなあって思っていたので。

――これまでの作品では人間の暗い部分が負の連鎖を呼び起こす展開が多かったように思いますが、今回は違いますね。心温まる、感動的な作品です。

:これは、いい話ですよね(笑)。デビュー作が雑誌に載ってからいろんな執筆依頼がきている中、『別冊文藝春秋』の方に「数独パズルのような話が書きたい」と言ってプロットを見ていただいたら、OKをくださって。『告白』が話題になっている頃だったので、ああ、私がいい話を書いてもいいんだ、ってほっとしました(笑)。別に感動させようという狙いがあった訳ではなくて、人と人とのつながりって、いい方向にも行くんじゃないかなということを考えて書きました。読み終えた後で、誰かに「ありがとう」って言いたくなってくれたらいいなと思います。

――この作品を書き上げたことで、また新たなステージに上った、という印象です。

:デビューした後の目標はみんなに名前を知ってもらうことでしたが、次の目標は「『告白』の湊さん」の「『告白』の」を取ることなんです。そこに向かっていけるものが書けたかな、と思います。こういうものも書く人なんだと思ってもらえたら。

――今後はどんな作品を発表していく予定ですか。

:秋に双葉社から書き下ろしを出すんですが、これが先ほど言った、去年2、3か月で書かなくてはいけなかった書き下ろし小説です。朝日放送の60周年記念ドラマになる予定なんですよ。ドラマなのでこれも、見終わった後に「よかったね」と言ってもらえるように、と考えました。初の誘拐ものです。今年の刊行は『花の鎖』と、その1冊の予定です。

(了)