作家の読書道 第117回:内澤旬子さん

今年、癌の“頑張らない”闘病体験を率直につづった『身体のいいなり』で講談社エッセイ賞を受賞した内澤旬子さん。これまでにも国内外の各地を旅し『世界屠畜紀行』といった話題作を上梓してきたイラストルポライターであり、装丁家、製本家でもある内澤さんは、本とどのように接してきたのか。興味の対象が多方面に広がっていく様子がよく分かります。

その1「佐藤さとるやドリトル先生」 (1/4)

  • ふしぎの国の アリス (「国際版」ディズニーおはなし絵本館)
  • 『ふしぎの国の アリス (「国際版」ディズニーおはなし絵本館)』
    森山 京
    講談社
    13,622円(税込)
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  • しろいうさぎとくろいうさぎ (世界傑作絵本シリーズ)
  • 『しろいうさぎとくろいうさぎ (世界傑作絵本シリーズ)』
    ガース・ウイリアムズ
    福音館書店
    1,296円(税込)
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  • てのひら島はどこにある (新・名作の愛蔵版)
  • 『てのひら島はどこにある (新・名作の愛蔵版)』
    佐藤 さとる
    理論社
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  • ドリトル先生の郵便局 (岩波少年文庫 (023))
  • 『ドリトル先生の郵便局 (岩波少年文庫 (023))』
    ヒュー・ロフティング
    岩波書店
    513円(税込)
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――幼い頃、どんな本を読んでいたか憶えてますか。

内澤:保育園は途中で退園したので小さい頃は一人で家にいることが多かったんですが、その頃ディズニーの『不思議の国のアリス』なんかを読んでいたのは憶えています。うちの親は熱心に本を薦めるわけでもなかったので、家には子供向けの本は少なかったです。小学校に入って、友達の家で、いわゆる名作といわれる絵本、『しろいうさぎとくろいうさぎ』や『ぐりとぐら』『機関車トーマス』などを読みました。絵本を読む時期としてはちょっと遅かったと思います。さらに四年生になってクラスに児童書の編集者の娘さんがいて、そこに遊びに行くようになりました。エリック・ギルの作品が飾ってあるようなおうちで、書庫みたいな部屋があったんです。そこでいろんな児童書を貸してもらって読みました。佐藤さとるの本もありました。村上勉さんが挿絵を書くようになる前の初版本もありました。教育のある家っていいなあ、と思っていました。

――小さい頃からイラストを描くのは好きだったんですか。

内澤:それより手芸や工作が好きでした。ティッシュペーパーをまるめて人形を作ったりしていましたね。小学3年生の頃に、大高輝美さんという人のフェルトの人形を見て、自分でも作り始めました。当時かなり流行ったんです。大高さんの本を2、3冊買ってそれはもう熟読しましたね。中学に入ってからは一日一体くらい作っていました。手芸品店に20センチ四方くらいフェルトが売っているんですけれど、大流行するまでは肌色がなかなかなくて苦労しましたね。あっというまにどこの手芸店でも手に入るようになりましたけど。そのうち自分で描いたキャラクターのオリジナル人形を作るようになって。

――小学生時代に読んだ本で心に残っているものといいますと。

内澤:佐藤さとると「ドリトル先生」のシリーズ。同じものをヘビーローテーションで読んでいました。佐藤さとるは『てのひら島はどこにある』を最初に読んだと思います。前出の同級生に薦められたのがきっかけで。『だれも知らない小さな国』のシリーズは学校の図書室にあったのかな。あとは『おおきなきがほしい』とか『おばあさんの飛行機』とか『いたちの手紙』とか...全部読んだはずです。村上勉さんの絵もすごく好きでした。「ドリトル先生」は単行本で全巻買ってもらったんです。『ドリトル先生の郵便局』に入っている亀のドロンコに会いに行く話が好き。あのシリーズはうまいんだかどうかわからない、すごく不思議な絵がついてます。たしか作家本人の絵だったはず。井伏鱒二が翻訳をしているんですよね。双頭の鹿の名前、〈Pushimi-Pullyu〉を〈オシツオサレツ〉と訳すなんてやっぱりうまいですよね。後から思うと、すさまじい名作だったと思います。他に読んだものはあまり憶えていないんですが、高学年の頃に『お菓子放浪記』を読みました。先生が戦争児童文学を薦めるんですよね。『ガラスのうさぎ』とか『ふたりのイーダ』とか。小学生の頃って先生の圧力でその手のものを山のように読まされたんですけれど、あまりに可哀そうだってことを強調するようなものが多いから、大人になってから戦争ものを読まなくなっちゃうように思います。でも『お菓子放浪記』はお菓子が好きな男の子の話で、これは好きでした。その流れで灰谷健次郎の『太陽の子』とか、理論社の暗くて重い本を読んでいました(笑)。あとは新潮文庫の100冊の中からいろいろと読むようになっていきました。

――読書感想文なども書きましたか。

内澤:文章を書くのは苦手だったんですよ。褒められたこともないし、何かのコンクールに残ったこともないです。40代になってはじめて書いたもので賞をいただきました。

――今年、『身体のいいなり』で講談社エッセイ賞を受賞されました。おめでとうございます。

内澤:あ、前に『印刷に恋して』でゲスナー賞「本の本」部門で賞をいただいてますけれど、あれはイラストを担当したものなんで。

――ところで、漫画は読んでいましか。

内澤:かなりたくさん読みましたね。つい先日閉店してしまった大船の島森書店で立ち読みしていました。まだ漫画の単行本がパッキングされず並んでいる時代だったんですよね。『悪魔(デイモス)の花嫁』とか和田慎二の『超少女明日香』シリーズとか。あくまでも立ち読みでした。自分で買ったのは『エースをねらえ!』と『つる姫じゃー!』くらいで。あとは貸し借りもたくさん。高校生から大学生の頃には漫画雑誌で読むようになりましたね。知り合いから「いつも立ち読みしているね」と言われるくらい。「プチフラワー」「LaLa」、「週刊マーガレット」「別冊マーガレット」「別冊フレンド」...「週刊少年サンデー」や「スピリッツ」は兄が買ってくるのでそれを読んでいました。兄が買ってきていた漫画は『こまわりくん』『1.2のアッホ』にはじまり、それはもうたくさん......。『うる星やつら』や『めぞん一刻』も読みました。兄はとてもマニアックで、西原理恵子や高橋留美子の漫画の好きな場面を切り取って保存していたんですよ。...ってこんなところで晒されると兄は思っていないだろうけれど、言ってしまえ、おほほほ(笑)。忘れられないのが高校2年生の時に萩尾望都の『半身』を読んだこと。立ち読みで読んですごく面白かったので、友達にあらすじを説明したら、後から本を読んだ友達が「旬子の説明ほどじゃなかった」って(笑)。萩尾望都は小学校の頃から読んでいました。

――漫画家になりたいとは思いませんでしか。

内澤:「ぶ~け」で連載していた吉野朔実さんの絵が好きだったんですが、今よりももっと線が細くて、その線が何で描かれているかすら分からなかった。これは自分には無理だなと、すぐ挫折しました。

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プロフィール

ルポライター、イラストレーター 神奈川県出身。共著に『印刷に恋して』『本に恋して』(松田哲夫 文) 『東方見便録』『東京見便録』(斉藤政喜 文) 著書に『センセイの書斎』(河出文庫)『おやじがき』(にんげん出版) 『世界屠畜紀行』(角川文庫)『身体のいいなり』(朝日新聞出版)