第120回:柚木麻子さん

作家の読書道 第120回:柚木麻子さん

2008年に「フォゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞、その短編を含めた連作集『終点のあの子』では女子校の複雑な人間関係を浮き彫りにした柚木麻子さん。第二作『あまからカルテット』はがらりとテイストを変え、アラサー女性4人組の友情と恋と仕事を描いたコメディ。そんな彼女の読書遍歴はやはり、ガーリーな小説が出発点にあった模様。柚木さんならではの読み解き方もとっても楽しいです。

新作『あまからカルテット』について (4/4)

あまからカルテット
『あまからカルテット』
柚木 麻子
文藝春秋
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幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))
『幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))』
ウイリアム・アイリッシュ
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七人のおば (創元推理文庫)
『七人のおば (創元推理文庫)』
パット・マガー
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暗い鏡の中に (創元推理文庫)
『暗い鏡の中に (創元推理文庫)』
ヘレン・マクロイ
東京創元社
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――新作『あまからカルテット』は、女の友情、恋、美味しい食べ物、謎解きという魅力的な要素のつまったコメディ。アラサーの女性4人組がそれぞれの恋や結婚生活、仕事を応援するお話。中学時代からの仲良し4人組ですが、ピアノ講師、料理ブログで人気を得た主婦、編集者、デパートの美容部員と、現代の立場はバラバラで。

柚木:『終点のあの子』で女子校の陰湿な部分を書いたので、また違った部分を書こうと思いました。大人になってそれぞれ立ち位置をつかみ取ると、コンプレックスを感じる相手とだって仲よくできるよってことが言いたかったんです。でもアラサーの女の人たちが恋の話をしているだけでは古いなと思って、ミステリー的な要素をいれました。4人組にしたのは『若草物語』や『細雪』の影響ですね。

――お稲荷さんや甘食、ラー油など、食べ物の描写も美味しそうですよね。東京のあちこちの地名や実際のお店など固有名詞もばんばん出てくるところも楽しい。

柚木:山崎まどかさんの「東京プリンセス」の影響です。あとは「タモリ倶楽部」がすごく好きで。第二話に出てくる荒木町は「タモリ倶楽部」を見た次の日に見に行きました。高低差マニアにはたまらないエリアなんだそうです。ちょうど甘食をひっくり返した形のように凹んでいる。だからあの章では甘食を出しました。2010年が舞台という設定なので、震災前の、まだ呑気な東京を書いた本となりました。町歩きはもともと好きだったので、改めて取材することはなかったです。でもハイボールに関してだけは、サントリーさんと宝酒造さんに取材に行ってレクチャーを受けました。生まれてはじめての本格的な取材でした。

――謎解き部分に関しては2時間サスペンスのシナリオでも馴染みがあったわけですよね。最終章は時間経過が刻々と描かれていくサスペンス風の楽しみも。そういえば普段、ミステリー小説はお読みになるのですか。

柚木:クリスティーはものすごく読みました。あと翻訳ミステリーでは『幻の女』が好きでした。最近ではパット・マガーの『七人のおば』とヘレン・マクロイの『暗い鏡の中に』が面白かったです。日本人作家では北村薫さんや加納朋子さんが好きです。「日常の謎」が好きなんですね。クリスティーでも『スリーピング・マーダー』なんかは、知らないはずの家が気になって、壁紙などにも憶えがあって、昔こんな家に住んでいたと思う...という話でしたよね。向田さんのエッセイには「中野のライオン」という話がありあすね。電車に乗って外を見ていたら民家にライオンが見えた、というお話。後から本当にライオンを飼っていたんだと分かる。そうした日常の謎は好きです。来年くらいから『ミステリーズ!』で「片思い探偵」という連載をはじめる予定なんですが、ミステリーが書けるかなと思っていた時にパーティで大崎梢さんにお会いしたので、そういう話をしたんです。そうしたら「例えば地味で目立たない子がすごくカッコいい人と結婚するとするでしょ。その理由が最後に分かるというだけでもミステリーになるでしょ」とおっしゃっていただいて。貫井徳郎さんも「最近は殺人さえ書けばミステリーだと思っている人が多い。そうではなく、ちゃんと謎を用意しないといけない」といったことをおっしゃっていて、そうだなと思いました。「片思い探偵」はおもちゃ業界を舞台にした話にする予定です。

――また新しいジャンルに挑むわけですね。

柚木:今年はエンタメっぽいものをいっぱい書いたので、来年は「片思い探偵」以外は読んで嫌な気持ちになるものを書きます。『終点のあの子』にもう一度戻ろうと思っていて。暗い話を書いて「女の子ってやだよね」と言われるとカッとなってコメディを書いたりするので、どうなるかは分からないですけれど。でもいろんなものを書きたいんです。ストーカーものとか、百合ものなんかも書きたい。自分に何が向いているのか、いろいろ書きながら考えていきたいんです。

(了)