第122回:三上延さん

作家の読書道 第122回:三上延さん

2011年に刊行するとたちまち1、2巻を合わせて80万部を突破、今もベストセラーにランクインしているビブリオミステリ連作集『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズ。謎解きや人間ドラマはもちろん、古本や出版事情の薀蓄も楽しいと思ったら、やはり著者の三上延さんには古書店勤務の経験があるのだとか。幼い頃から読書家で、本の好みは昔からはっきりしていたという三上さんの読書歴、影響を受けた本とは?

その3「破天荒な大学生活&進路の決意」 (3/4)

バイオレンスジャック―完全版 (1) (中公文庫―コミック版)
『バイオレンスジャック―完全版 (1) (中公文庫―コミック版)』
永井 豪
中央公論社
1,008円(税込)
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ガラスの仮面 1 (花とゆめCOMICS)
『ガラスの仮面 1 (花とゆめCOMICS)』
美内 すずえ
白泉社
463円(税込)
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漂流教室 全巻セット (小学館文庫)
『漂流教室 全巻セット (小学館文庫)』
楳図 かずお
小学館
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恋する虜―パレスチナへの旅
『恋する虜―パレスチナへの旅』
ジャン・ジュネ
人文書院
7,560円(税込)
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世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)』
村上 春樹
新潮社
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愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)
『愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)』
村上 龍
講談社
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ビブリア古書堂の事件手帖 1〜4巻セット [文庫] by
『ビブリア古書堂の事件手帖 1〜4巻セット [文庫] by』
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時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi文庫 ハ 1-1)
『時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi文庫 ハ 1-1)』
アントニイ・バージェス
早川書房
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――高校卒業後はどうされたのですか。

三上:卒業して浪人しました。当時は受験生もものすごく多くて、浪人する人も多かったんです。横浜の予備校に通おうと思ったら入れなくて、新大久保の学校に通うことになったんですけれど、いきやしない。いい気になってフラフラして1年間勉強もせずに本ばかり読んでいました。それで翌年の受験もダメで、どうしようかと考えた時に、やっぱり大学は行っておいたほうがいい、親が行かせてくれるなら、と考えを改めて、今度は勉強をして池袋の先にある武蔵大学の社会学科に入りました。社会学に興味があったんです。大学でも文芸部に入りました。ただ、自宅から大学まで2時間かかるんですよね。下宿することも検討したんですが、まあ通ったほうがいいだろうとなったんですけれどやっぱり遠い。それでほとんど家に帰らなくなりました。というのも武蔵大学の学生会館って、完全に学生が占拠していたんです。24時間いられるんですよ。部室には畳が敷いてあって、コンロと冷蔵庫がある。会館の上の階には体育館があって、シャワー室もある。週3回くらいはそこに泊まって、しまいには空いている部室を僕が独占していました(笑)。住んでいる状態でしたね。隣の武蔵高校で鶏を飼っていたんですが、冬の寒い時期には鶏が入ってくる。トイレに行こうと思ったら鶏が邪魔で、まずそいつらをどけなくちゃいけない、なんていうこともありました(笑)。

――小説になりそうな学生生活ですよ(笑)。

三上:文芸部で小説を書いて、酒を飲んで。そういう環境だから昼間から飲んでいてもよかったんです。家に帰る時には、池袋でリブロとWAVEに寄るのが常でした。さすがに本は部室におかずに持って帰っていました。漫画なんかは部室に転がっていましたね。むしろお前らこれを読め、という感じでお互いに薦めあっていました。その頃にかなり漫画は読みました。永井豪の『バイオレンスジャック』とか美内すずえの『ガラスの仮面』とか、あと萩尾望都とか。『花とゆめ』も読みましたね、『動物のお医者さん』が連載している頃だったと思います。僕は楳図かずおが大好きで『漂流教室』をみんなに薦めていました。あの頃にいろいろ漫画を読んだ経験が、後に古本屋で働いた時に役立ちました。

――小説はどんなものを読んでいたのでしょう。

三上:リブロにどドンと並んでいたジャン・ジュネとか。セリーヌなども読みました。ジャン・ジュネは『恋する虜』が出た頃で、店先に面陳されていて、買おうと思ったけれど買わずにいたことを後悔しています。今はもう手に入らないんですよ。

――ちなみに、当時の学生なら読んでいそうなW村上は読まなかったのですか。

三上:村上春樹さんの『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』とか『羊をめぐる冒険』とかは好きでした。『ノルウェイの森』は文芸部のみんなで読んで、「これは今までの作品と違うけれど、ありかなしか」なんていう話をしましたね。村上龍さんは『愛と幻想のファシズム』と『コイン・ロッカー・ベイビーズ』がすごく好きでした。そこからデビュー作の『限りなく透明に近いブルー』まで遡って読みました。

――文芸部で小説の執筆もしていたわけですが、やはり将来は小説家になりたいと思っていたのですか。

三上:若かったので、なるのが当然のように思っていました。処女作を書いて華々しくデビューする道を想像していて(笑)。そんなわけはないんですけれど。大学を卒業するあたりから応募もしていたんですけれど、箸にも棒にも掛らない状態で。でも作家になるからといって就職しなかったんです。親もそれでよく納得したなと思いますね。

――え、ご両親にもはっきりと「作家になるから就職しない」と宣言したんですか。

三上:両親を一度に説得するのは無理だから、まず本丸の親父からと思って、「飲みにいきたいんだけど」って言って。親父のいきつけの桜木町の小料理屋に連れていってもらって、そこで「実は作家になりたいんだけれど」と言ったら「バカじゃないのか」みたいなことを言われつつ、話し合った結果「28歳までは好きにしていい」って。今思うと寛大な親ですね。それで、本当に好きにしていました(笑)。その飲み屋がまだあって、こないだ親父と言ったんです。デビューが決まった時も行ったので3度目ですね。節目節目で行っていますね。

――28歳というのはどういう設定だったのでしょうねえ。

三上:それくらいなら人生やり直せるだろうと思ったんでしょうか。その後中古レコード屋でアルバイトをしていて簡単なレコードの査定くらいはできるようになったんですが、「やっぱり小説を書きます」と言って辞めて書こうとしたんです。けれど箸にも棒にもひっかからず、もう28歳だしそろそろちゃんと働かないとと思って、中古屋の経験もあるし本も好きだからということで、古本屋で働くことになりました。たまたま町で店員募集をしているのを見かけたんです。そこは結構大きい店で、1階が古本とゲーム、2階が漫画とCD、3階がおもちゃと...と、バラエティに富んだ構成になっていました。ちょうど本に詳しい人がほしかったみたいで、古本の担当となりました。そのフロアで当時いちばん仕事ができた方は、まったく本に興味がないと言っていましたね。でも査定は完璧にできる。僕は逆に本が好きだから、見誤ることがあるんです。古本屋としての腕があまりなかったんじゃないかな。「いい本だから」「好きな本だから」ということで仕入れてしまう。まだ相場が確定していないものを扱う時は嗅覚を働かせざるを得ないんですが、自分の知識や感情にとらわれてしまうんです。それでよく怒られていました。「こんな値段で買いやがって」って。

――そもそも中古レコード屋で働いていたのは、何かきっかけがあったのですか。

三上:もともと音楽もある程度好きだったんです。若者特有の思い込みがあって、なんとなく自分は音楽に詳しいと思っていた。でも結局は一から教えてもらうことになりました。偶然いい店で働くことができたんです。神保町にある富士レコードの社長が藤沢に住んでおられて、ここにも支店を出そうということだったみたいです。あの会社は富士レコード社とレコード社がありますが、レコード社のほうの支店だったようです。社長について四国まで買い取りにいったこともあります。蔵から78回転のレコードなんかがどんどん出てきました。あれは10年に1回の買い取りだったと聞きました。

――音楽も好きだったとのことですが、どのような音楽を聴いていたのですか。

三上:高校生の頃にバンドブームがあって、友達に薦められた音楽を片っ端から聴いてました。筋肉少女帯とか有頂天とかナゴムレコード系のバンドが特に好きで、ニューウェーブやパンク系の洋楽に広げていった感じです。その後、60年代のロックに遡って、後はワールドミュージックとかノイズとかモダンジャズとか......とにかく興味が湧いたものをつまみ食いしていました。

――それは今でも?

三上:若い頃からずっと聴いているのは、セルジュ・ゲーンスブールとラモーンズとXTCです。最近仕事の合間によくかけているのは平沢進、マキシマム・ザ・ホルモン、エルレガーデン......バラバラですね。

――その後、古本屋で働くようになってからも、いろいろと買い取りに行ったんですか。

三上:僕、免許を持っていないんですよ。アルバイトのくせに偉そうにドライバーをつけてもらって2人でいろんなところに行きました。藤沢周辺が多かったけれど、古本屋が閉店になるので買い取ってくれと言われて横須賀のほうまで行ったこともありましたね。そういう経験が『ビブリア古書堂の事件手帖』の中でも活かされています。2巻の2話で、買い取りに行った先にピアノがあって年配の女性が弾いていた、というのは実際にあったことです。しばらくは小説を書くのをやめて、古本屋の仕事ばかりやっていましたね。古本屋としてやっていこうかなと思っていて。それで、いろいろ商品を知っておかないといけないので、本を読んだり漫画を読んだりCDを聴いたりして。

――どういうものを読んでいたのですか。

三上:結構変わった本が入ってきたらかたっぱしから読んでいました。「ビブリア」にも出てくる『時計じかけのオレンジ』の1980年に出た完全版が入ってきたのもその時です。漫画も買い取りしなくてはいけないのできちんと読むようになって、少女漫画の『花とゆめ』なんかも毎号買うようになっていました。似合わないね、って言われながら(笑)。「カレカノ」、『彼氏彼女の事情』なんかが好きでしたね。あとは望月花梨さんの大ファンになりました。『笑えない理由』とか『スイッチ』は今でもとってあります。

――ご自身でも本がほしくなりませんでしたか。稀覯本をコレクションしたくなったりとかは。

三上:ほしいものはある程度買っています。ただハマってしまうと住む場所がなくなってしまいますから(笑)。そこそこでおさめようと思っています。自分の好きな本や読みたい本だけ買って、コレクションはやらない。今でもそんな、ものすごく価値のある本は持っていないと思います。

――ところで、映画はお好きでしたか? 本も音楽も好きなら、きっと映画も...と思ったのですが。

三上:映画も大好きですよ。本よりいくらか体系的に鑑賞してる気がします。映画について話し出すと本と同じぐらい時間が必要なので......成人するまでに観て、未だに大好きな作品を五本挙げますと、ロベール・ブレッソン「抵抗―死刑囚は逃げた」、小津安二郎「麦秋」、アルフレッド・ヒッチコック「フレンジー」、ドン・シーゲル「白い肌の異常な夜」、エルンスト・ルビッチ「生きるべきか死ぬべきか」、ダリオ・アルジェント「サスペリアPART2」......六本になってしまいました。これ以上絞れません。全体的にやっぱりバラバラですが、血なまぐさいサスペンス、ホラー映画にわりと偏ってます。多分、子供の頃夜更かしして観てた日曜洋画劇場や水曜ロードショーのせいだと思います。本の趣味にも観てた映画の影響があったんじゃないでしょうか。

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