第122回:三上延さん

作家の読書道 第122回:三上延さん

2011年に刊行するとたちまち1、2巻を合わせて80万部を突破、今もベストセラーにランクインしているビブリオミステリ連作集『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズ。謎解きや人間ドラマはもちろん、古本や出版事情の薀蓄も楽しいと思ったら、やはり著者の三上延さんには古書店勤務の経験があるのだとか。幼い頃から読書家で、本の好みは昔からはっきりしていたという三上さんの読書歴、影響を受けた本とは?

その4「ついに作家デビュー、現在に至るまで」 (4/4)

ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))
『ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))』
上遠野 浩平
メディアワークス
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ダーク・バイオレッツ (電撃文庫)
『ダーク・バイオレッツ (電撃文庫)』
三上 延
メディアワークス
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航路(上)
『航路(上)』
コニー ウィリス
ソニーマガジンズ
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少年時代〈上〉 (ヴィレッジブックス)
『少年時代〈上〉 (ヴィレッジブックス)』
ロバート マキャモン
ヴィレッジブックス
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月の骨 (創元推理文庫)
『月の骨 (創元推理文庫)』
ジョナサン・キャロル
東京創元社
907円(税込)
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荒涼館〈1〉 (ちくま文庫)
『荒涼館〈1〉 (ちくま文庫)』
チャールズ ディケンズ
筑摩書房
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犬はどこだ (創元推理文庫)
『犬はどこだ (創元推理文庫)』
米澤 穂信
東京創元社
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――その後、小説を再び書き始めたわけですよね。きっかけは何かあったのですか。

三上:1年くらい働いていて順調にポジションが上がっていって、フロアを仕切る人から「社員にならないか」と言われたんです。そこでやっぱり「でも小説が...」と思ったんですよね。このままいけば一人でご飯を食べられるくらいはやっていけると思っていたんです。小説以外のものでうまくやっていけるかも、と思ったのははじめてだったんですが、でもやっぱり小説を書きたかった。それでもう一度、今度は自己満足ではなく、読者に向けたものを書こうと思ったんです。その時に、店を見ていると電撃文庫がよく入ってきて、しかも棚に並べるとすぐ出ていく。どういうことかと思って自分でも何冊か買って読んでみたら、「これは面白い」となって。それで、このレーベルはいいんじゃないかと考えたんです。印象に残ったのは上遠野浩平さんの『ブギーポップは笑わない』だったんですが、これは自分には書けないな、と。それで当時まだあまり書く人がいなかったホラーを、学園を舞台にして書くことにしました。スティーブン・キングの『クリスティーン』が好きだったので、ああいうテイストのものをやってみよう、とも思いましたね。そうして書いて電撃小説大賞に応募したのが『ダーク・バイオレッツ』でした。賞は逃したんですけれど、拾い上げてもらって、それでデビューできたという。

――そこからすぐに専業になったわけではないと思いますが、でも電撃文庫は新刊を出すサイクルが早いですよね。大変だったのでは。

三上:何か月かは古本屋で働いていたんです。デビューが6月で、その年の終わりには退職していました。3、4か月に一回は新刊を出してくれと言われて、なんとかやれるだろうと思ったら、できるわけがない。運が悪く店の改装とぶつかってしまって、朝から晩まで店にいなくてはいけない時期があって、デビュー作の続編も書かなくてはいけなくて、1週間で10時間くらいしか眠れなくて、ある朝玄関先で倒れてしまったんです。改装は終わったけれど今後こういうことがあるかもしれないし、せっかく作家になれたんだからやってみようと思い、店を辞めることにしました。以来10年近く小説だけでなんとか飯を食べてこられました。

――デビュー以降で読んだ本で、印象深かった本のタイトルと感想を教えてください。

三上:色々あるので難しいんですが、海外作品ではコニー・ウィリス『航路』、ロバート・R・マキャモン 『少年時代』、ジョナサン・キャロル『月の骨』がすごく印象的でした。特に『航路』は上巻を徹夜で読みきって、下巻を買いに藤沢の有隣堂まで走りました。クライマックス以降の展開が物凄くて......読み終わってからしばらく立ちあがれなかった記憶があります。あと、ここ数年ディケンズやフォークナーの長編を少しずつ読むようにしているんですけど、『我らの共通の友』と『荒涼館』が面白かったです。ディケンズのキャラクターの立て方ってライトノベルにもちょっと通じる部分があって、そういう意味で興味があります。どっちでも「嘘をつく年配の人」が物語のキーになっていて、それがすごくいい味を出しているんですよね。

――日本の小説だと、どのようなものを。

三上:乙一さんの『暗いところで待ち合わせ』や米澤穂信さんの『犬はどこだ』や小市民シリーズでしょうか。自分と違う物語やキャラクターの作り方をしている方が気になります。電撃文庫の秋山瑞人さん『イリヤの空、UFOの夏』、竹宮ゆゆこさん『とらドラ!』も大好きです。自分にはこういう書き方できないなあと。それに紀田順一郎さんの『古本屋探偵』シリーズは「ビブリア」を書くにあたって強く影響を受けています。古書を題材にしつつ『古本屋探偵』とは違う方向性を考えるのが出発点でしたから。

――昨年はその『ビブリア古書堂の事件手帖』の1巻、2巻を刊行して、それが大ベストセラーとなりましたね。北鎌倉にある古書店「ビブリア古書堂」の店主・栞子さんと、事情があって本が読めないアルバイトの青年・大輔くんが古本にまつわる謎に遭遇する1話完結のミステリ短編集。執筆のきっかけはやはり古書店勤務の経験ですか。

三上:古書店を舞台に書いてみたいという気持ちはありました。これまでずっと若い人たちに向けた電撃文庫で書いてきましたが、出版社からもう少し大人の世代に向けた文庫レーベル、メディアワークス文庫を創刊するので何か書かないかと言われて、プロットを出したら通ったんです。

――古本や昔の出版事情などの薀蓄もワクワクするし、人間ドラマの謎解きも味わい深い。不器用な二人の恋模様にはキュンとくる。いろんな要素があって、ヒットするのもうなずけます。ただ、毎回、古本が持つ特徴と持ち主たちの謎を絡ませるストーリーを生み出すのは相当大変なんじゃないかと思います。

三上:これはいけるんじゃないかと思っても半分以上はボツになってしまいます。調べるまではうまくいくかどうか分からないというのがあります。ただ、自分が好きな本についてでないと書けないですね。第1巻は、わりと誰もが聞いたことのあるタイトルのものを選びました。これをきっかけに登場する本についても興味を持ってもらえたらいいなと思っているんです。

――古本のよさ、面白さってどこにあると思いますか。

三上:本は情報を与えてくれるものとしての意味と、形ある本そのもののモノとしての意味と、両方あると思います。読んで楽しめるし、モノとして持っていても楽しい。この本を持っていることが楽しい、ということもありますよね。古本だと過去に持っていた人の様子もうかがえる。本の管理の仕方にはその人の癖が出るんです。基本的には書き込みのある古書は価値が下がってしまうんですが、線の引き方、読み終わった人の日付が入っているかどうかなどを見るのも楽しいですよ。第1巻の第三話に出てくる「私本閲読許可証」も実際に僕が見つけた経験がもとになっています。

――『ビブリア古書堂の事件手帖』に出てくるなかで、特に好きな本について教えてください。

三上:やっぱり小山清の『落穂拾ひ』でしょうか。明らかに作家自身をモデルにした小説ですけど、舞台が吉祥寺なんですよね。ちょうどあれを読んだ時に吉祥寺に住んでいたので、感情移入せざるを得ませんでした。「僕は自分の越し方をかへりみて、好きだった人のことを言葉すくなに語ろうと思ふ」という一文が特に美しくて......あの小説は色々な人に読んで欲しいですね。講談社文芸文庫の『日日の麺麭・風貌』に収録されてます。

――さて、お忙しいとは思いますが、最近の1日のサイクルを教えてください。

三上:規則正しくなるようにしています。朝の9時か10時から書き始めて、夕方の6時には終える。でも決めた分量を書けていない状態なら夕食の後も書きます。読書は仕事がはじまると資料ばかり読んでいます。特に『ビブリア古書堂の事件手帖』の場合は資料を読みながら書いている感じで。古本屋を離れてから時間も経っていますから、情報も古くなっているんですね。ある程度アップデートしないといけないので、人に訊いたり、古書店の店主が書いた手記を読んだりしています。古本屋によって見ているものが全然違うんですよね。まあ、どこまでが趣味でどこまでが仕事か分かりません。家族から見たら遊んでいるように見えるんだろうけれど(笑)。

――今年には「ビブリア」の第三弾を刊行予定ですよね。

三上:今ちょうど、それに向けて頑張っているところです。もう少しお待ちください。

イリヤの空、UFOの夏〈その1〉 (電撃文庫)
『イリヤの空、UFOの夏〈その1〉 (電撃文庫)』
秋山 瑞人
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とらドラ!1 (電撃文庫)
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竹宮 ゆゆこ
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古本屋探偵の事件簿 (創元推理文庫 (406‐1))
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紀田 順一郎
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日日の麺麭・風貌 (講談社文芸文庫)
『日日の麺麭・風貌 (講談社文芸文庫)』
小山 清
講談社
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(了)