第143回:和田竜さん

作家の読書道 第143回:和田竜さん

城戸賞を受賞した脚本を小説化したデビュー作『のぼうの城』が大ヒット、一躍人気作家となった和田竜さん。このたび4年の歳月を費やした長編『村上海賊の娘』を上梓、こちらも話題に。脇役に至るまで魅力的な登場人物、明快な筆運び、そして迫力満点の戦いの場面といった和田作品の魅力は、幼い頃から触れてきた映画や漫画、そして小説から大きな影響を受けて生まれたもののよう。では、その作品の数々とは?

その2「繰り返し観ていた映画」 (2/5)

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――中学生になってからは、星さんや眉村さん以外に何を読まれていましたか。

和田:夢中になった作家というのは星さんと眉村さんくらいでした。漫画は中3くらいの時に『少年ジャンプ』で『北斗の拳』が始まったのを憶えています。あの時代って映画もシルベスター・スタローンの『ランボー』シリーズやシュワルツェネッガーの『ターミネーター』が人気だったんですが、みんなマッチョなんですよね。だから僕の中にマッチョ信仰が生まれたんです(笑)。自分も鍛えようと思ってバーベルとか買ったのに、全然変わらなかった。筋肉のつきにくい人間でした。

――中2の時に広島から東京へ引越されたんですよね。環境の変化は感じましたか。

和田:そうでした。でも中3になると受験勉強に突入したりして、全然友達もできませんでした。高校時代はもう、ずっと漫画の時代です。『魁!!男塾』とか。『ジョジョの奇妙な冒険』や『はじめの一歩』が始まるのはもう少し後かなあ......。

――中高生の頃、部活はなにかやっていませんでしたか。

和田:やっていないんですよ。小学生の頃に毎日のように水泳教室に通わされて、それが嫌だったんです。中1の時に確かバスケ部に入ったんですけれど、毎日部活にしばられるのは嫌だと思ってすぐにやめてしまいました。以来全然やっていないです。

――ということは、放課後の時間がありあまっていたわけですよね。

和田:高校の時はビデオで『ロッキー』や『ターミネーター』を繰り返しみていました。中学の時はどうだったんだろう、夕方放送の「ガンダム」を見ていたのかな。それでガンプラを作っていたのかも。『村上海賊の娘』を書いている時あまりにもキツくて幼児退行がはじまって、気づけばプラモデルを作ってました(笑)。中学生の頃は高くて手が出なかった、『スターウォーズ』の外国のプラモデルとか。先日広島に行ったらよく通っていた「ニイタニ」というプラモデル屋さんがなくなっていて。大きなSLが目印の店で、マニアたちがよく通っていたと思うんですけれど、今はもうプラモデルよりもフィギュアのほうが人気なんでしょうね。......それにしても、本当に本を読んでいませんよね。僕、あらゆることが人より遅いんです。高校生ぐらいの時に『竜馬がゆく』くらいは読んでおけばよかったのに。大学に入ってから、ほんとに馬鹿にされました。

――それにしても、なぜその後歴史小説を書くようになったのか、その片鱗がまだまったく見えません(笑)。大河ドラマとかはご覧になっていましたか。

和田:あ、見てました。昔の家族なんで、なんとなくテレビがついていて家族みんなで見ているという。日曜日は7時半からNHKの「減点パパ」を見て、その流れで8時から大河を見ていました。『おんな太閤記』とか『峠の群像』とかを憶えていますね。あとは『必殺仕事人』が好きでした。他に歴史に触れる機会といえば、小さい頃、家族旅行というと史跡めぐりをしていたことですね。うちの両親が好きだったんだろうけれど、広島を拠点に山口、鳥取、島根、九州に行って...。そのうちのひとつが村上水軍に縁のある因島だったわけですが。戦時に毒ガスの工場があったという大久野島にも行きましたね。でも、歴史が特別好きというわけではなかったです。学校でも、それよりは数学のほうが得意だったわけですし。

――あれ、でも大学は文系に進学されましたよね。

和田:映画監督になりたかったからです。目論見としては、早稲田大学の政経学部からテレビ局に入って、敏腕ディレクターとして活躍して映画監督になろう、と。当時は映画界の門戸がほぼなかったんです。週刊誌に早稲田の政経学部からテレビ局に入る人数が多いと書いてあったので目指して、めでたく受かってからわかったんですが、テレビ局に入る人間が多いというのは、ただ単にそもそも政経学部の人数が他の大学に比べて格段に多かっただけでした。率としては少ないという...。しかも2年留年して就職活動ではテレビ局の試験にことごとく落ち、番組制作会社に入ることになりました。

和田:映画監督になりたいと思ったのはいつくらいからですか。

和田:高校1年生の時に『ターミネーター』を観てすごく面白いと思ったんです。当時はB級映画と言われていましたが、アイデアひとつで勝負しているんですよね。シュワルツェネッガーは生身の人間ですがサイボーグだと言われたらそう見えてくる。彼がボーンと撃たれてもまた起き上がってくるだけで面白い。お金のかかったハリウッド大作も好きですけれど、こういう映画なら日本でもできるんじゃないかと思いました。お金はかけられないけれど頭脳だったら負けない、と。でもこういう話を映画の『のぼうの城』のプロデューサーの久保田修さんにしたら「言ってることとやってることが違う」って笑われました。あの映画にはむちゃくちゃお金がかかっていますから。

――『ターミネーター』や『ロッキー』を何度も繰り返して観たとおっしゃっていましたが、ではプロットや映像を研究していたのですか。

和田:いえ、同じ興奮を味わいたくて観ていました。今振り返ってみると、それはすごく大事なことだと思うんです。何度観ても同じ興奮が味わえたし、それが未だに自分の中に残っている。あの興奮を文章に移し替えるとどんな感じだろうと思いながら書いているように思います。

――アイデアひとつで勝負しているところに惹かれたということは、『ターミネーター』は「1」がお好きということですよね。『ロッキー』や『スターウォーズ』は? それと、学生時代ご自身で映画は撮らなかったのですか。

和田:『ロッキー』は駄作と言われている「3」が好きなんです。ボクシングのシーンのスピード感が格段にあがっているので。『スターウォーズ』は「帝国の逆襲」。あ、そういえば浪人していた頃にアメリカンニューシネマもたくさん観ました。基本的に『ターミネーター』みたいなものが好きなんですが、頑張って大人っぽいものも観なくてはと思い『タクシードライバー』などを観たけれど、よくわからなかった。それで、大学に入って映画研究会に行ったんですが、「和田くん、キミは『地獄』は観たかね?」と訊かれて、こういうマニアックな人たちに囲まれていたら違うセンスになってしまうと思い、危険を感じて入りませんでした。だったら映像よりも撮るものの中味の勉強をしようと思い、つまりは芝居をはじめたんです。仲間たちが自分の性に合っていたということもあって。「劇団森」という、「森」と書いて「しん」と読ませる早稲田の学生たちの劇団に入りました。今でも活動している劇団です。

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