第143回:和田竜さん

作家の読書道 第143回:和田竜さん

城戸賞を受賞した脚本を小説化したデビュー作『のぼうの城』が大ヒット、一躍人気作家となった和田竜さん。このたび4年の歳月を費やした長編『村上海賊の娘』を上梓、こちらも話題に。脇役に至るまで魅力的な登場人物、明快な筆運び、そして迫力満点の戦いの場面といった和田作品の魅力は、幼い頃から触れてきた映画や漫画、そして小説から大きな影響を受けて生まれたもののよう。では、その作品の数々とは?

その5「最近の読書&新作『村上海賊の娘』」 (5/5)

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――辞めてからの執筆時間など、一日のサイクルは。

和田:無意味に規則正しいです。夜中の12時くらいから朝の5時か6時くらいまで書いて寝て、へろへろになって起きて、今日書くところはどうしようかなーと思っているうちに、やがて12時になるという。その繰り返しです。

――意外なことに、お酒を飲みながら書くそうですが。

和田:それは『人斬り藤田源八郎』を書いた時、飲んだ勢いで書いて以降そうなんです。飲んだほうが飛躍できる気がするんです。書きはじめると同時にビールの350ml缶を2本飲んで気持ちくなって書き進め、その後は純米酒を熱燗で2合、というのを春夏秋冬やっていますね。つまみはナシです。酒量が増えてしまうから。もちろん、ゲラで直しをいれる作業の時は注意力が必要なので飲みません。

――読書はしていますか。

和田:相変わらず同じものを繰り返し読んでいます。本をもらったり薦められたりすることも増えましたが、最初に言った世界名作全集の時と同じで、人に薦められて読むのが駄目なんです。自分が欲している時に欲しているものを読むのが好きです。でも人に「いいよ」と言われた本はメモしてありますよ。いつか読みたくなると思って。普段は枕元に司馬遼太郎、山本周五郎、海音寺潮五郎の本を置いて、毎晩、寝しなに読んでいます。そういえば、山本周五郎は全部読んでいた気がしたんですが、『風雲海南記』は読んでいなかったんですよ。今度新潮社から出ている『山本周五郎長篇小説全集』に収められる予定になっていて、エッセイを書くために先に読ませてもらったんです。山本周五郎ってわりと重たい話が多いのに、これはやたら活劇っぽくなっていて、こんなのを書いたなんて、と思いました。面白かったですよ。久しぶりに未読の周五郎が読めて嬉しかったです。

――さて、新作『村上海賊の娘』は4年をかけて完成させた大長編。信長と、彼に攻められる石山本願寺に兵糧を届けようとする毛利家や村上水軍との木津川合戦を、村上水軍の女海賊を主人公に描きます。和田さんは幼い頃広島に住んでいたわけですが...。

和田:広島にいた頃、まわりに村上姓がたくさんいて、それが村上水軍の末裔だということは聞かされていて。家族旅行の旧跡めぐりで村上水軍の拠点の一つ因島にも行きました。それで、海賊って格好いいなと思っていたんです。自分なりに題材をあたためていて、週刊誌連載の依頼があった時にいよいよ本格的に調べはじめました。主人公は女性がいいなと思ったのですが、当時海賊王として名をはせていた村上武吉には養女がいたという記録しかなかった。実の娘のほうが女海賊としての行動に説得力があるのになと思って調べていったら、実の娘もいたという記述を見つけて、ようやくこの話が書ける、と思いました。

――能島村上の娘、景は男まさりの性格で、身体能力も優れた女性。周囲からは不美人とされていますが、描写を読むと手足の長い美人なんですよね。

和田:史料を読むと、当時は女性も鎧を身に着けて戦に出ていたようなんです。そういう女性像を書きたくて、ああいうキャラクターになりました。まわりの男たちが自分の家を存続させることを考えて打算的になっているけれども、景だけは人を助けるために行動しようとする。その対比は明確に書こうと思っていました。

――これは、はじめて小説の依頼を受けて書いたものになりますね。

和田:そうです。これまでの小説はすべて先に脚本を書いていますし、週刊誌連載というのもはじめてのことで心配だったので、これも先に脚本を書きました。4年かかったというのも、資料集めに1年、脚本を書くのに1年、連載に2年ということなんです。脚本は上映したとすると5、6時間くらいのものになりますね。その分量からすると小説が長いものになるのはわかっていました。シナリオを書く時に練っておくと、その時点で辻褄のあわないところも確認できるし、次の展開を把握しているので、冗漫な部分を減らすことができるんです。あらすじを決めただけで小説をいきなり書きはじめると、場面の転換に困った時などにどうでもいいエピソードを入れてしまったりしそうですが、それが避けられる。

――場面の転換もリズムよく、するすると読めるのはだからなんですね。話の運びもわかりやすく、登場人物が多いけれども敵方も含め、一人ひとりが個性的で魅力的で憶えやすい。

和田:全員に見せ場を作るというのは『人斬り藤田源八郎』の時からずっと尾を引いている感じですね(笑)。シナリオが先なので、台詞だけを読んでもストーリーは把握できると思います。僕は読む人に100%わかるようにすることが使命だとは考えているんです。煙に巻くような書き方は嫌なので。

――今後の展望はいかがですか。他にも村上水軍のように、温めている題材はあるのでしょうか。

和田:とりあえず数か月休みます(笑)。ぼーっとして頭を柔らかくして、ふっと関心が湧いたものが出てきたら書こうと思っています。何かテーマを探さなきゃ!となると、たいていヘンなものをつかんでしまいますから。自分の書いているものは、題材選びが大きな役割を占めていると思うので。ずっと頭にある題材という意味では、村上水軍くらい遡るものはないですよね。坂本竜馬は自分の名前の由来でもありますが、まあ司馬さんの『竜馬がゆく』があるからもういいですね。自分が坂本竜馬を書く予定はないですよ。

(了)