第148回:山田太一さん

作家の読書道 第148回:山田太一さん

語り継がれる数々の名台詞、名場面を生み出してきた脚本家の山田太一さん。小説家としても山本周五郎賞を受賞するなど注目されてきた彼は、どのような書物に親しんできたのか。筋金入りの読書家でもあるだけに、残念ながらすべて紹介するのは不可能。なかでも気に入った本について、ご自身の体験を交えてお話ししてくださいました。

その2「"ハマった"作家たち」 (2/5)

小林秀雄全集〈第1巻〉様々なる意匠・ランボオ
『小林秀雄全集〈第1巻〉様々なる意匠・ランボオ』
小林 秀雄
新潮社
8,640円(税込)
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仮面の告白 (新潮文庫)
『仮面の告白 (新潮文庫)』
三島 由紀夫
新潮社
529円(税込)
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俘虜記 (新潮文庫)
『俘虜記 (新潮文庫)』
大岡 昇平
新潮社
802円(税込)
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――高校生になってからはいかがでしょう。

山田:高校生のころ、『小林秀雄全集』が刊行されて、毎月買っていました。読んでもよく分からないところが多いのだけれども、それでも文章がよくってハマっちゃいましたね。そのあと坂口安吾も読むようになったら、安吾が志賀直哉について、「単に文章が上手いだけで作家ではない」と書いていて、はっとしました。いいことを言っているなと思って(笑)。安吾は小林秀雄の「生きている人は何をするか分からないから、自分は実朝やモーツァルトやドストエフスキーを相手にしている」という文章も揚げ足を取って、「生きている人間を相手にしないやつは作家ではない」と言うんです。「剣道の教えを乞おうと道場に言ったら道場主が小林秀雄で、剣道なんて習うことはない、闘わないように逃げろと言っている、そんな言い方があるか」と言って怒る。若い時はそういうことに感動しましたね。それで安吾のことは尊敬していたんですが、小説はつまらないと思った。けれど評論は活き活きしている。人間っていろいろだなと思いました。

――小説だけでなく評論もよくお読みになっていたんですね。

山田:当時の大流行作家であった三島由紀夫や大岡昇平にも大変惹かれて、彼らの評論もエッセイも面白く読みました。三島は『仮面の告白』がいちばん自分に届きましたけれども、他の本だって、悪口を言われているものもあるけれど、もともとの水準がいいのだから、どれも面白いですね。大岡昇平さんはいろんなものをお書きになっていますが、戦争に行かれて家庭から離れて戦地で捕虜になって帰ってくるまでの作品が好きです。『俘虜記』だけでなくその前後の私小説的なものを含めて、今でも面白いし、素晴らしいと思う。格好いいしね。それより偉い作家というと、谷崎潤一郎の『春琴抄』は今読んでも感動すると思いますし、川端康成の『山の音』も素晴らしいと思う。これは雑誌に不定期に載っていて、掲載誌が出るたびに買って読んでいましたね。

――海外小説はいかがですか。

山田:定番ですが、ヘミングウェイ、ノーマン・メイラー、ジョン・アップダイクなどを読みました。ヘミングウェイは文章が上手いでしょう。それが読んでいるうちに、だんだん格好よすぎるように思えてきました。イタリアの作家のカルヴィーノが、「ヘミングウェイの文章は無理をしすぎている、その呪縛から逃れよ」と言っていますが、本当にそうだなと思いました。あの文章の削り方、言葉の選び方はものすごく洗練されていますから、真似すると本来の自分とはかけ離れて格好よくなっちゃう。それでだんだんヘミングウェイに対しては白けてきたんです。ノーマン・メイラーは『裸者と死者』という、最初の小説が面白かったですね。山西英一さんの翻訳もよかったんでしょう。太平洋戦争で日本と戦う兵隊たちの話なんですが、彼らが兵隊になる前の話など、いろんな人の人生が短く入ってくる。その入り方がすごく上手くてね。

春琴抄 (新潮文庫)
『春琴抄 (新潮文庫)』
谷崎 潤一郎
新潮社
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山の音 (新潮文庫)
『山の音 (新潮文庫)』
川端 康成
新潮社
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